ミノタウロスの武器


 無事に街へと帰ってきた俺はその日、エレノワール達に小さな冒険について色々と話してあげた。


 と言うか、あれこれ聞かれたので話さざるを得なかった。


 初めての一人旅はどうだったかとか、魔物は怖くなかったかとか。


 それらを話している間は気が付かなかったが、俺は若干の違和感を覚える。


 ハイちゃんにブラッシングをしてあげて寝る寸前、エレノワールが俺が話していないはずのことを言っていたのだ。


 おかしいな。オークの討伐数なんて言った覚えもないし、一々数えてもいないんだが........


 ま、ええか。


 そんなわけで、俺は眠りについた。


 翌朝、俺はハイちゃんを優しく撫でてやりながら気持ちの良い朝を迎える。


 ここ五日間はずっと硬い母なる大地の上で寝ていただけあって、ふかふかのベッドの上はとても心地が良かった。


 人間の築き上げた文明とはとても素晴らしいものである。やはり文明。文明が全てを解決する。ただしガチャ、テメーはダメだ。


 そんなこんなで朝食を取り、支度をすると俺は攻略者ギルドへと足を運んだ。


 理由はもちろん今回の依頼の報告について。


 依頼内容は、調査と報告。つまり、報告するまでは依頼達成とはならないのだ。


 俺は討伐証明部位を入れたカバンを背負って攻略者ギルドへと行くと、相も変わらずうるさい攻略者達の声が聞こえる。


「んだとゴラァ!!」

「あぁ?俺が先にこの依頼に目をつけてたんだよ!!」

「知らねーよカス!!目ぇつけてんだったら取れや!!目ん玉くり抜かれたいのか?!」

「ぶっ殺すぞガキィ!!」


 朝から元気で何よりだ。


 初めて見た時は怯えていたその喧騒も、今となっては日常でしかない。


 今日も一段とうるさいなーと思いつつ、俺は攻略者ギルドの受付へと足を運んだ。


「あ、ローグさん!!おかえりなさい!!」

「ただいまシャーリーさん。洞窟の探索が終わったよ」

「えぇ、既にエレノワールさんや門番の方から報告が入ってますよ。いやー、それにしても無事に帰って来られて良かったです。バーバラさんがココ最近は毎日“ローグは?”と聞きに来るので、怖かったんですよね」

「門番も同じことを言ってたよ。バーバラは心配症だね」

「あはは。実を言うと私達も心配だったんですよ?予定では三日程で帰ってくると聞いてましたから」

「まぁ、色々とあってね。いい経験にはなったけど、二度とごめんかな」


 明るく美人なエルフ、シャーリーさんとの会話を軽くした後、俺はギルドマスターの部屋へと連れていかれる。


 俺は俺が思っているよりも有名人だったのか、すれ違う職員達から“お、おかえりー”と声をかけられた。


 ほとんど知らない職員の人達ばかりだったが。


「ギルドマスター。ローグさんをお連れしました」

「おぉ!!入ってきてくれ」


 ギルドマスターの部屋へと行くと、ギルドマスターは俺を見てどこかホッとしたこのような様子で俺を見る。


 まぁ、少しでも怪我をして帰ってきていたら、バーバラやらエレノワール辺りから殺されそうだもんな。


 だがあえて言おう。こんな依頼を出したギルドマスターが悪いと。


「いやはや。予定よりも遅い帰還だったな。心配したぞ」

「予定外の事が起こりすぎてね。それで、早速報告すればいいの?」

「うむ。その前に茶でも入れてやるとしよう。なんなら、茶菓子まで出してやるぞ!!」


 そう言いながらウキウキでお茶を入れ始めるギルドマスター。


 この人、子供にはかなり甘い人だよな。ニアやリリーにギルドマスターの評判を聞いてみたが、二人とも“近所の優しいおじちゃん”って言ってたし。


「よし。おまたせした。それでは報告を聞こう。洞窟の周辺はどうなっていた?」

「周辺は特に何も。普通にゴブリンやらスライムがいたよ。ただ、中は危険だったね。オークが住み着いてた」

「ほう。オークか。第五階層を攻略できるだけの実力があるならば苦戦する事は無いとは思うが、大丈夫だったのか?」

「塔の試練で似たような場面があってね。最初オークが幻覚だに思えて反応が遅れたよ。下手したらそこで死んでたね」

「ハッハッハ........シャレになってないなそれ。私も昔似たようなことがあったから笑えんが」


 ギルドマスターも同じような経験をしたんだ。やはり、塔で同じようなシュチュエーションに出会うと錯覚してしまうのかね?


「んで、その後にハイオークと交戦。無事に討伐した後、先に進んだらミノタウロスがいたから倒してきたよ」

「ほーミノタウロスか........ミノタウロス?!しかも倒してきた?!」


 一瞬スルーしかけて、ノリツッコミを発動させるギルドマスター。


 うーん、ノリが悪い20点。


 俺は驚くギルドマスターを他所に、バッグからミノタウロスの角を机の上に置く。次いでにその他の討伐した魔物達の証明部位も出しておいた。


「これがその証拠。滅茶苦茶大変だったよ」

「........ほ、本物だな。逃げなかったのか?」

「いや逃げたかったんだけど、来た道の洞窟が崩れて逃げられなくて........結果的に戦うことになった」

「な、なるほど。それでよくミノタウロスを倒せたな」

「いや普通に大変だったよ。一歩間違えたら絶対に死んでたし、武器も持ってたしね」

「武器?」


 俺が大きなハルバードを取り出すと、ギルドマスターは真剣な顔をする。


 このハルバードに何かあるのだろうか?


「ふむ........これは........ミノタウロスが持っていたのか?」

「うん。持ってたよ。しかも地面を叩いたら地割れが起こってびっくりしたよ」

「なるほど。済まないが、このハルバードはギルドに譲って貰えないか?本来であればこのような武器や素材の所有権は攻略者にあり、ギルドはあくまでも買取を強制はしないのだが........買取価格は弾ませてもらおう」

「いいよ。どうせ使わないし」


 槍とハルバードこれは似て非なるものである。


 実は、帰り道でハルバードでも槍のスキルが適応されるのか試して見たのだが、適応されていなかった。


 俺の持つスキルのシステム的に、ハルバードと槍は別扱いなのだろう。


 使えない武器に興味はない。元々売りさばくつもりだったので、何も問題は無いのだ。


「助かるよ」

「ちなみに、なんで買い取るの?」

「魔物の持つ武器には色々とある。どこかでの垂れ死んだ攻略者の武器を魔物が拾うケースが多いのだが、この武器は明らかに新品だ。誰かが意図的に持たせた可能性がある」

「なるほど。確かにそれは問題だね。要は魔物を強化してなにかに使おうとしたと言う事なんでしょ?」


 あれ、もしかして結構やばい事に俺は首を突っ込んでしまったのでは?


 魔物に武器を持たせる連中の考えていることは分からないが、絶対ろくでもない連中だ。そんな連中に目をつけられたら終わりである。


 これは当初の予定通り、自衛の為に持ち運びが容易な武器を手に入れておくべきだな。槍は街中で振り回すには少々使い勝手が悪いし。


「その通りだ。ローグくん。申し訳ないが、このハルバードについては他言無用でお願いしたい」

「分かった........と言いたいところだけど、エレノワール達に話しちゃったよ」

「構わん。あの馬鹿は確かに普段からめちゃくちゃな事しかやらない上に私の仕事を増やすクソッタレのゴミだが、こう言う時はしっかりしているのだ。誠に不本意ながらな」


 ギルドマスター、顔が怖いっす。


 エレノワール、一体何をやらかしたらここまで嫌われるんだ。


 しかし、信頼もあると言うのが厄介なんだろうな。国王相手にタメ口を聞ける権力者でもあるみたいだし。


「まぁ、ともかくその件については分かった。その他に変わった所やなにか気になったことはあるか?」

「んーあとは─────」


 こうして俺は報告を終えて、無事に依頼を達成するのであった。


 尚、報酬は滅茶苦茶美味しかった。五日間仕事しただけで250万ゼニー。ミノタウロスの素材報酬が大部分を占めているとしても、日給50万はやべーな。

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