帰るまでがお仕事です
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はっ!!
目が覚める。
やべやべ。戦闘の疲れからか、思いっきり爆睡しちゃった!!
俺は生きているよな?ここは天国じゃないよな?
ミノタウロスとの激闘から何とか勝利を収めた俺は、自分の体に異変が無いのかを確かめる。
両手で自分の体のあちこちを触り、特に大きな怪我もないことを確認した俺はホッと胸を撫で下ろした。
どうやら、かなり運が良かったらしい。少しでも運が悪かったら、多分あの世行きだったなこれ。
「こう言う本当に大事な場面で当たりを引けるかどうかも、ローグライカーには必須だよな。今回の俺は運が良かったみたいだ」
俺はそう言いながら、硬い床の上で眠っていた為に痛んだ身体を解す。
あー、フカフカのベッドが恋しい。ハイちゃんのモスモスが恋しい。
よし決めた。この依頼が終わったら、俺は丸一日、ハイちゃんをモスモスしながらゴロゴロするぞ。
こんな仕事二度と受けるか。俺は塔を攻略するためにこの世界に来たんだよ。外の世界とか割とどうでもいいんだよ!!
そんなことを思いながら、俺は自分の倒したミノタウロスを見る。
ミノタウロスの戦利品が何なのかが分からないので、どの部位を剥ぎ取って持って帰るべきなのか分からない。
とりあえずこのハルバードは持って帰るとして、後はこの大きくて特徴的な角と、魔石辺りを取り出せばいいかな?
「分かんねぇ........ミノタウロスと遭遇するとは思ってなかったから、討伐証明部位とか知らないんだよなぁ」
俺はそう言いつつも、ナイフを使って頭の角を削り取り、胸を開いて魔石を取り出す。
解体作業をやった事がなかったので、かなり苦戦したが、一応回収することは出来た。
これをバッグに入れて後は帰るだけ。来た道が完全に塞がれてしまったので、帰りは知らない道を歩く事となる。
「迷子になって餓死しましたとか笑えないよな........でも見た感じあっちの道を塞いでいる方は壊せないし。こんなことなら大剣がドロップするまで粘るべきだったかな?いや、大剣を使ったら多分“破壊”の効果で洞窟をぶっ壊しちゃうかもしれんな。ミノタウロスの咆哮で壊れるほどに脆い部分もあるんだし」
でも、武器が多ければそれだけ選択肢は広まる。街の中も必ずしも安全とは言えないし、自衛のために何かしらの武器は持っておいた方がいいかもしれない。
あの街は日本のように治安がいい訳では無いのだ。
俺は大通りとか安全な場所を歩くように心がけている(エレノワールに死ぬほど言われている)ので、ほぼそういうことに遭遇しないが、ニアやムサシの話を聞くと大通りを外れた場所にはギャングのようなならず者もいるらしい。
もし出会ったら、エレノワールの名前を出せとは言われている。
どうやらエレノワールは、裏社会の連中を相手にもかなり派手にやらかした過去があるらしく、そう言った連中にも顔が効くし敵に回したくないと思われているんだとか。
一体何をやらかしたんだウチのクランマスターは。
行くところ行くところ何かやらかしているから、逆に何をやっていないのか気になるレベルである。
「確か武器種にメリケンサックとかあったよな。双剣とか、持ち運びが楽なやつを1回手に入れておくか」
もちろん俺はギャングとかそう言う怖い人達と関わるつもりは無いが、攻略者ギルドの連中がほぼギャングみたいな存在であることを忘れてはならない。
女の取り合いのために殺し合いを演じる馬鹿どもだ。俺もいつの日かそう言うのに巻き込まれるだろう。
女の攻略者でも普通に殺し合いに近いことをやるんだから怖いよね。あれ?ならず者達よりもギルドの方がヤベーのでは?
「さて、帰るか」
そんなことを思いながら、俺はもうひとつの道の方に歩き始める。
帰るまでが遠足。
帰るまでがお仕事。
ちゃんと無事に帰って、エレノワール達を安心させてやるまでが俺の仕事なのだ。
ところで、このハルバードってどこで手に入れたんだろう?
【街のギャング】
光あるところに影もあり。街の裏社会を形成するならず者達が所属する。組織の名前はそれぞれであり、日々自分たちの影響力を増すために争いをしているのだが、決して表には出てこない。何故ならば、攻略者とか言う頭のネジがぶっ飛んだ奴らと敵対したくないから。
ローグの住む街では特にならず者達は大人しく、治安がいいとされている。理由は主に爆破大好きなエレノワールのせい。
ローグが帰り道を歩き始めた頃。街にある小さなペットショップでは、ハイちゃんとモーちゃんが預けられていた。
飼い主から離れた二匹であるが、フーロが面倒を見ている。
フーロは仲睦まじそうに並んでのんびりとしている二匹を見て、頬を緩ませていた。
「意外だな。いつも1人を好んでいた君がこのイタズラっ子と共にいるのは」
「........(モス)」
「........(モスッ!!)」
フーロがハイちゃんとモーちゃんの世話をしていた頃、この二匹が関わる事など絶対になかった。
1人が好きで大人しい性格のハイちゃんと、活発的でイタズラっ子なモーちゃん。
モーちゃんはかなり空気の読める子なので、ハイちゃんにちょっかいをかけることは無かったものの、フーロは喧嘩が起こらないかよく監視していたものだ。
「撫でてもいいかい?」
「「........(モス)」」
久々にこの2匹のモスモスを味わうフーロ。
そして、ハイちゃん達のモスモスを触って気がついた。
フーロが手入れしていた時よりも、かなり丁寧に手入れされているということに。
モスモスは残しつつもサラサラと流れる柔らかな毛。極上の毛布を触っているかのような感覚のこの毛は、普段からモフモフに触れているフーロですら驚きを隠せないほどである。
「ローグ君は真面目そうな性格をしているから分かるが、エレノワールもちゃんとお手入れしているんだな。以前よりも圧倒的に艶がいい。正直、半分ぐらい世話を放棄するのかと思っていたのに」
「........(モスッ!!モスッ!!)」
「へぇ。イタズラっ子で人懐っこい君だけど、決して必要以上に心を開かない君がそこまで気に入るとは珍しいね。エレノワールと波長が合うだけじゃなかったという訳だ。なんやかんや、ちゃんと手入れして愛情を持っているんだな」
モスはストレスにあまり強くない魔物だ。なぜ現代まで生存できているのか、研究者ですら頭を悩ませるほどには繊細な魔物である。
しかも、モーちゃんは表向きにはノリが良くとも、決して大きく心を開くことは無い。
フーロもそれを知っていた。
だからこそ驚く。あのエレノワールが、あの街のおさがわせ者が、ここまでちゃんと世話をしているのだと。
「君達は飼い主が好きかい?」
「「........(モスッ!!)」」
「ははは。そうかそうか。どうやらいい友人を見つけられたらしい。こうして魔物達の声を聞いている時、私はこの仕事をやっていて良かったと思うよ。もう少ししたら2人とも帰ってくるはずだ。その時は、いっぱい甘えるといい。今は私で我慢してくれ」
「........(モス)」
「........(モスモス!!モスモス!!)」
「ん?私にも感謝って?なぁに、私はこれが仕事さ。お礼はいいよ」
フーロはそう言うと、2匹から手を離す。
思っていた以上に触り心地の良かったモスモスであったが、これ以上モスモスすると飼い主達が怒るだろう。
フーロは、決して一つの魔物に肩入れはしない。みんな平等に接するように心がけている。
しかし、この日ばかりは、一匹に愛情を注ぎ込めるローグとエレノワールを少し羨ましく思うのであった。
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