vsミノタウロス
逃げ道が塞がれて、俺は明らかに強いミノタウロスと戦わざるを得ない状況に陥ってしまった。
魔力の残量は十分にあるし、スキルも道中で強化してきた。更に、スキルオーブの厳選までしている上に、しっかりとポイントを消費して素のステータスまで上げている。
が、負ける時は負けるのが勝負というもの。
ましてや、こちらはミノタウロスは初見な上に動きも分からない。
とりあえず真正面から撃ち合うのだけはやばいと分かる。あんなに筋肉ムッキムキな奴を相手に、正面から殴りあえるわけないだろ。
「槍投げ!!」
突っ込んでくるミノタウロスに向かって、俺は槍をぶん投げる。
牽制としてはかなりの強さを発揮するスキル3槍投げ。おそらく遠距離攻撃としての補正があるため、ほかのスキルより若干火力が低いものの相手を止めるには十分な威力を持った一撃がミノタウロスを襲う。
「ブモォ!!」
「よし。ちゃんとダメージは与えられるな。弾かれて無傷とかだったら、正直やばかった」
投げられた槍はミノタウロスの体に浅く突き刺さり、地面へと落ちる。
ミノタウロスも一撃を貰った為か、その歩みを止めて俺を警戒し始めた。
正直、弾かれるか避けられると思っていたが、突進してくる時は急な方向転換とかはできないらしい。
この特性をちゃんと理解して戦えば、一撃死は免れるだろう。
「ブモォ........」
「ハルバードを構えた。猪突猛進戦法はリスクが高いとでも判断したのか?頭がいいな。オークを見習えよ」
突撃戦法では俺にダメージを与えられないとでも思ったのか、ミノタウロスが静かにハルバードを構える。
槍に似た武器ハルバード。
槍と斧を合わせたかのような見た目をしたこの武器は、15世紀から19世紀にヨーロッパで使われた武器である。
日本で言う槍斧。
その使い方は様々であり、多様な攻撃手段と一撃の破壊力から重装兵相手にも効果を発揮する。
重くて長い武器は、基本的に破壊力が凄まじいのだ。
それも銃火器が登場してからあまり使われなくなったらしいが。
ともかく、あのハルバードの振り下ろしを受け止めた日には、受け止めたのに体がひしゃげるなんて事が起こるだろう。
兎にも角にも、俺は逃げ回って槍を投げるチクチク戦法しか取れないのだ。
「ブモォ、ブ、モォ!!」
槍を投げるタイミングを測っていると、先にミノタウロスが動き出す。
ハルバードを大きく振りかぶると、斧の部分を大きく振り下ろして地面を叩いた。
ドゴォォォォォン!!と大きな音が響いたかと思ったその瞬間、地面が割れて衝撃が俺に向かって真っ直ぐ伸びる。
いや、いやいやいや!!それ漫画でしか見た事がない攻撃方法!!
「ウッソだろお前!!そんなことまで出来るのかよ!!」
まさか過ぎる攻撃方法に驚きを隠せないながらも、素直に飛んでくる一撃を避けるのは難しくない。
俺は横に飛び退くと、その一撃を躱す。
しかし、ミノタウロスはそれを狙っていた。
牛の顔をしているくせに、頭は随分と賢かったらしい。
俺が避ける方向を確認した瞬間、凄まじい勢いで突っ込んできたのだ。
「うげっ」
割れた地面を最後まで見ながら避けていたのも相まって、反応が遅れる。
槍投げで迎撃してもいいのだが、おそらくコイツは迎撃されたとしても大きなダメージは受けないと判断してダメージを貰う覚悟で突っ込んできたのだろう。
覚悟が決まったやつは強いのだ。
ならば避けるのが正解だろう。しかし、今から横にとんでも避けられるかかなり怪しい。
ミノタウロスは俺が避けようとするのも織り込み済みのはず。
頭を少し揺らせば、攻撃範囲を少しばかり変えることは可能。
その尖った角が俺の体の一部を吹っ飛ばすなんてことは、普通に有り得るのだ。
足を持っていかれた日には、俺は今度こそ覚めない夜を過ごす事となる。
知らない天井で目が覚めることもないし、あの優しいモフモフな手で頭を撫でてもらえることも無い。
冷たい地面の上で、俺は永眠することとなるのだ。
それだけは回避しなくては。バーバラとのデート券云々の前に、俺は死ぬよりも生きている方が好きなのだ。
「刺突!!」
こういう時の人間は、思いもしない頭の回転の速さがある。
俺は地面に向かってスキル1刺突を突き出すと、その反動で身体を浮かび上がらせる。
普通ならばできない挙動。しかし、スキルと言う決まった行動を強制的に取らさせると言う仕様は、使い方次第で悪用できてしまう。
俗に言う開発が想定していない使い方次第。それ即ち、グリッヂ。
刺突はやりを突き出して相手を突く攻撃。
槍の持ち手を素早く動かすのだが、実はこれはどんなに強く槍を握っていても槍が勝手に射出される。
洞窟ステージで以前距離感を謝って壁を突いてしまったことがある。その時、俺の体は後ろに移動してしまったのだ。
その時は“距離感を間違えないようにしないと”と思っていたのだが、この仕様は使い方次第で三次元の戦闘を可能にする。
つまり何が言いたいのかと言うと、スキル1刺突は移動スキルに使うこともできなくは無いということだ。
「跳躍!!」
「ブモォ?!」
地面に強く槍を突き刺した反動で空へと舞い上がった俺は、そのまま槍を手放して棒高跳びのように宙へと浮かぶ。
3m程度のミノタウロス。突進のために体を低くしているから2.5m程度か?
その程度であれば、頑張れば飛び越えられるのだ。
某ハンターゲームをやっててよかったな!!昔はバッタ戦法しかしてなかったんだよこっちはよォ!!
「槍投げぇ!!」
「ブモッ!!」
某モンスターをハントするゲームに出てくる武器のように、武器を使って跳躍した俺は槍を補充してぶん投げる。
空中で狙いがしっかりと定まらなかったため、外れる可能性もあったが今回は運が良かった。
グサッと、ミノタウロスの足に槍が深く突き刺さる。
どうやら、下半身は軟弱らしい。
「ブモォ!!」
ズササと勢いよく転ぶミノタウロス。
いきなり足に槍をぶっ刺されたら、そりゃバランスも崩すだろう。
「ハハッ!!ざまぁねぇな!!」
俺は地面に着地すると同時に、ここで仕留めなければ負けると思い使える魔力とスキルを総動員して猛攻を仕掛けた。
「槍投げ槍投げ槍投げ!!扇!!刺突!!六槍の構え!!槍投げ槍投げ刺突!!槍投げ!!扇!!槍投げ槍投げ刺突ぅぅぅぅ!!」
何も知らない奴が聞いたら一種の呪文にも聞こえてしまうほどの、スキルの連打。
ハイオークとやり合った時よりもガッツリスキルを吐き出した俺の渾身の連撃が、ミノタウロスの皮膚を肉を骨を砕いていく。
ミノタウロスも何とか反撃しようとしていたが、スキル回転率を上げるためにクールダウンオーブを積んで更には逃げ足を早くするために、素早さのオーブ(中)が出るまで厳選してんだよこっちはよ!!
そんな遅い攻撃に捕まるほど、トロイ訳が無い。
俺は移動しまくりながら連撃を繰り出し、魔力が限界になるまで殴って殴って殴り続ける。
そうして20秒ほどのラッシュが続き俺の魔力がカラッケツになった時には、ミノタウロスはちょっと見せられないレベルのグチャグチャな死体へと変わっていた。
「はぁはぁはぁ........ハハハッ!!俺の勝ちだな。反射的に地面に槍を突き刺して飛び越えられたからよかったものの、思いつかなかったら死んでたな。いやほんとに........」
生きたい!!という本能が起こした偶然の行動。
槍を使って高飛びをすることで、三次元への移動が可能になるという発見。
これがなかったら間違いなく俺はあの世に行っていただろう。
「あぁ。魔力がカラッケツでもう無理........」
俺はそう言うと、地面に倒れ込んで目を閉じるのであった。
後書き。
他にもスキルの悪用はあったり...まだ気づいてないけど。
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