二日目の朝


 昼食にリリーの手作りサンドイッチを食べた俺は、大変満足しながらも先へと進んだ。


 色々と寄り道したりしているが、俺の目的は洞窟の調査と周辺の魔物の掃除。


 1人初めての異世界散策は楽しいのだが、お仕事なのでしっかりとやり遂げなければならないのである。


 あと、普通にバーバラとのデート券が欲しいです。はい。


 そんなこんなで、昼飯を食べた後はサクサクと先へと進んだ俺。


 一日目の日が沈む頃には、ちゃんと予定していた場所に辿り着いて野営の準備に取り掛かれた。


「えーと、これをこうして、これでよしっと。かなり練習しただけあって、警報装置の作り方はかなり上手になったな」


 街の外は危険でいっぱい。


 特に無防備になる夜は魔物の奇襲を受けて死んだり、同じ人間に襲われて殺されるなんてこともある。


 その為、数名で監視役を作り替わりばんこで寝るのが一般的なのだが、生憎俺はソロだ。


 一人で警戒をして一人で休まなければならない。


 そういった時にどうするのかと言うと、俺が今作った警報装置を作るのである。


 鈴を付けて糸を貼る。簡単な装置ではあるものの、夜の暗い中では意外と見つからない。


 そして糸に誰かが引っかかれば、音が鳴って目が覚める。


 欠点は、強い風が吹くと音が鳴ること。


 ムサシも1人で仕事に行く時はよく使うらしいのだが、強風が吹き荒れている日はこの音が鳴り響いて嫌になるんだとか。


 ムサシも大変やな。


「夕飯はちょっと味気ないけど、乾燥野菜と干し肉のスープと乾燥パンか。普段こういう食事をしないから、少し新鮮だね」


 そして夕食の準備も一人でしなくてはならない。


 普段はリリーが作ってくれるのだが、今回は俺一人だけなのだ。


 一応放任主義の親の元で育ったので、料理は最低限できる。


 お陰で苦労することは無かった。


 もしかして、両親はこれを見越して俺に料理をさせていた........?!


 とアホなことを考えつつも、俺は出来上がったスープにパンを付けつつ食べる。


 正直あまり美味しくは無いが、食べられるだけマシなのだ。


 ニアは良く魔物を解体してその肉を食べるとか言ってたよな。教える時間が無いから今回は見送ったが、今後のことも考えて教えて貰うとしよう。


 塔の試練では魔物の死体が残るのだ。あの死体から肉を取って食べることが出来れば、態々中断セーブとかせずにお腹いっぱいにご飯を食える。


 リリーがお弁当を作ってくれているのだが、やっぱりちょっと少ないのだ。


 でも増やしてとも言いづらいし、これを機に解体を覚えるのは悪くない。


 リリーの負担を減らせるしな。


「ふぅ。ご馳走様でした」


 ご飯を食べ終え、スープを作った鍋(紙コップのようなもの)をグシャッと潰してゴミ袋に入れておく。


 この世界の価値観的には、そこら辺に捨てても問題ないのだが、どうしても日本人としての性格がここに出てしまっていた。


 このゴミはスライムが食べてくれるらしく、この世界におけるポイ捨ては割と常識らしい。


 掃除屋なんて異名をつけられるスライムさん流石っす。でも掃除する相手から人間は除外して欲しいっす(ガチ)。


 掃除屋(隠語)のスライムさんは勘弁して欲しい。スライムで何回死んだと思ってるんだコノヤロー。


 そんなこんなで焚き火を消して就寝。


 一人の時はできる限りのリスクを減らすために木の上で寝るのが一般的らしく、俺もそれに習って木の上に登って眠る事にした。


 ちなみに、木登りの為にナイフを突き刺すと言うやり方を覚えさせられた。


 変な特技がまた身に付いたぜ。


「明日は洞窟の調査か。それが終われば帰るだけ。頑張るぞー」


 俺は久々に誰一人とも会話しないこの日を少しばかり寂しく思いながら、眠りにつくのであった。


 二回ぐらい落ちかけて変な汗が出たね。




【使い捨て調理器具】

 木や紙でできた調理器具。水を入れると100度以上に上がらないため、燃えないという特性を活かしたりそもそも防火加工がされているものもある。

 割とお手ごろの値段でありながら、軽く嵩張らないので攻略者や旅人からかなり重宝されている。




 翌朝。


 心地の良い日差しが木々の隙間を通り抜けて俺の顔を照らす。


 俺はその陽の光で目を覚まし、大きく伸びをしようとして自分のいる場所がきの上であると思い出してやめた。


 危ない危ない。こんな場所で大きく伸びをしたら、絶対に落ちる。


「よっと。んー!!いい朝だな!!」


 木の上から飛び降りてから、大きく伸びをする。


 爽やかで新鮮な風が心地よく、鼻から入る空気が心做しか美味しい。


 この世界に来てから自然に触れることが多くなった。現代日本という環境が如何に汚染された場所であったのかがわかる気がする。


 空気が美味しいとか何言ってんだとか思ってごめんなさい。この世界の空気は美味しいです。


「今日は特に襲撃とかもなかったな。1番肝を冷やしたのが、寝相が悪くて木から落ちかけた事ぐらいか。あれで死にましたとか笑い話にもならん」


 できる限り安定感のある場所で寝ることを意識していたが、やはり寝ているとどうしても危ない危ない部分がある。


 怖いわ。普通に。


 初めての冒険の途中というのもあって、興奮によって疲れを感じていないが、慣れてきたらしっかりと寝られるようにしないとな。


 翌日の疲れはその日の命に関わるのである。


 俺は朝食として硬い乾燥パンを齧りながら、軽く準備体操を済ませると早速洞窟へ向けて歩き始めた。


 昨日寄り道をしたおかげで、スキルカードを幾つか獲得している。


 クールダウン系が引けてないのが残念だが、それでも火力面ではかなりの余裕があるだろう。


 ホブゴブリンを一撃で殺せるだけの火力を得たという事は、塔で言えば第三階層のボスを一撃で殺せると言っても過言では無い(過言)。


 つまり今の俺は最強!!ドラゴンでもなんでも掛かってこいや!!というわけである。


 ........ごめん嘘。ドラゴンとか来ないで。


 この世界におけるドラゴンは、当たり前だか最強格の種族。


 そしてとても希少な存在なのだ。


 あのなんでも知っているエレノワールですら、ドラゴンを見たことは無いらしく、文献で少しだけ見たことがあるレベルらしい。


 ドラゴン似合いたいなら塔を昇った方が速いんだとか。


 ちなみに、その文献にはドラゴンがたった一体で国を滅ぼしたと書かれていたそうだ。


 ........どっかのモンスターをハントするゲームで聞いたことあるな。


「槍投げ」

「グゲッ!!」


 いつの日か俺もドラゴンと言う伝説に出会える日が来るのだろうか?


 そう思いながら、俺は道中で見つけた魔物を手早く殺していく。


 遠距離攻撃手段を持つ槍はかなり便利だな。近接にもそれなりに優れているし、やはり最初に弱いと感じたのは使い方が悪かっただけか。


 全部の武器種で遊んだら、武器のティアリストを作ってもいいかもしれん。


 誰も参考にならないが。


 いいな、それ楽しそう。


「早くも塔に戻りたくなってきた。刺突」

(ポヨン?!)


 塔で磨いた実戦経験のおかげか、この程度の魔物ならば片手間に処理できてしまう。


 ゴブリンもスライムも塔の世界のやつとは違ってかなり弱い。無強化の中でひーこらこいて殴り合いながら勝ってきた俺に、外のゴブリンやスライムは敵では無いのだ。


 多分、塔の中の魔物が強すぎるというのも、その人を成長させる要素なんだろうな。


 人類の発展を手助けするかのような塔。塔の謎はまだまだ沢山ある。


 いつの日か、その謎が時明かされる日が来るのだろうか?


 俺はぶっちゃけどうでもいいなと思いつつ、2日目の冒険を楽しむのであった。

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