お昼休憩


 ある程度の検証が終わり、塔の外でのスキル獲得条件が判明した。


 となれば次は、洞窟に行く前にできる限りの準備をしておくべきだろう。


 スキルオーブの獲得は現時点では不可能に思われるが、スキルカードはそうでも無い。


 できる限りスキルカードを集めておけば、後々苦労することも減るはずだ。


 というわけで、俺は少し寄り道をして魔物を倒すことを優先する事に。


 もちろん、迷子にならないように街道沿いをできる限り歩きながら、魔物を探すのである。


「グギギ!!」

「本当にゴブリンが多いなここら辺は。エレノワール達がある程度掃除したってのに」


 もうその顔を見飽きるほどに見てきたゴブリンの群れ。俺はその群れに向かって槍を突き出すと、片っ端からゴブリンを始末していく。


 今更、ただのゴブリンに遅れを取るほど俺は弱くない。


 強化によって永続的に向上した能力と、中断セーブによって厳選したスキルカードやオーブの効果によって強くなっている俺は、ゴブリンの群れをあっという間に片付ける。


 塔の中にいる魔物の方が基本的には強いと言われている。


 そんな魔物達を相手に戦ってきた俺が、塔の外にいるゴブリンに苦戦するはずもないのだ。


 最近、後ろから突き刺されたり叩き潰されたりする機会が多くて、定期的に後ろを確認する癖が着いたのはいい傾向であると言えるだろう。


 戦闘中も後ろに魔物が居ないかを確認するようになったお陰で、グッと不意打ちを食らう危険性が減ったのだ。


「よし。スキルカード獲得。魔石とかは........まぁいいや。お金には困ってないし」


 ゴブリンの群れを始末し、無事にスキルカードをさらにゲット。


 今回はスキル3の攻撃強化(小)を選択し、やり投げの威力を底上げしておく。


 敵が複数体いる時は槍投げがとても輝くな。牽制にも使えるし、一撃で相手を殺せるだけの威力も持っている。


 これ、槍投げを主軸にしたビルドとか面白そうだよな。


 名付けて、槍の雨ビルド。


 消費魔力を限界まで抑えつつ、スキル4六槍の構えのクールタイムをできる限り縮めれば無限槍投げ編が始まるかもしれない。


 槍を投げまくって敵を圧殺。何もさせずにこちらが一方的に敵を蹂躙........フヘヘ。考えただけで楽しそうだ。


「ふへへ。この仕事が終わったら、早速狙ってみようかな。楽しそうだし」


 俺はそう言いながら、さらなる獲物を探す。


 ゴブリンの群れ。


 槍を適当に振り回せば勝てるのでヨシ。


 スライムの群れ。


 ポヨポヨしてて可愛かったけど、スキルカード獲得のために犠牲になってくれ。


 ホブゴブリンと愉快な仲間達。


 ホブゴブリンだったためかなり警戒して槍投げで牽制したら、一撃で死んでビビった。


 ホーンラビット(単体)。


 おしりペンペンの刑じゃ!!よくも俺をぶっ殺してくれたなコノヤロウ!!


 と、順調にスキルカードを集め、塔の外で得られたカードは5枚を超える。


 ちょっと運が悪いのか、クールダウン減少系のスキルカードが引けなかったが、それでもかなりスキル全体が強化されて使いやすくなったと言えるだろう。


 と言うか、スキルカードを集めるのが楽しすぎて永遠にここら辺で魔物狩りしてしまいそうだ。


 時刻はもうすぐ昼近くになる。ちょうどいい頃合いだし、お弁当の時間にするか。


 周辺の安全確認を行った後、俺はリュックを下ろして弁当を取り出す。


 ちなみに、今朝リリーが作ってくれたやつだ。


「リリーが作ってくれた弁当は........お、サンドイッチだな。シャキシャキレタスが挟んであるやつの」


 リリーが作ってくれたお弁当は、軽めのサンドイッチであった。


 食べすぎると動きが悪くなって下手をすれば死ぬというエレノワールの言葉を守っているのか、少し量も少なめに見える。


 ま、腹八分目がちょうどいい言うし、有難く頂くとしよう。


「いただきます」


 俺は作ってくれたリリーに感謝しつつ、サンドイッチを一口。


 んー!!青空の森の中で食べるサンドイッチは格別だな!!


 シャキシャキとしたレタスの歯ごたえがとてもよく、それでいながらちゃんと素材の味を感じさせる素晴らしい出来だ。


 パンにただ具材を挟むだけの料理ではない。ちゃんと味の美味しさを考えて作られた素晴らしい料理であるという事が、口の中で理解出来る。


 リリーの料理はいつも美味しいとは思っていたが、流石だな。


「リリーはいいお嫁さんになれそうだな........攻略者という時点でかなりマイナスらしいけど」


 この世界における攻略者というのは、基本的に頭のぶっ飛んだ変態集団という認識である。


 そりゃそうだ。自分が死ぬと分かっているのに、そこへ挑むやつの頭は大抵狂っている。


 その為、基本的に攻略者は恋愛対象として見られないらしい。特に、攻略者では無い人達にとっては。


 攻略者が結婚をする場合は、多くの場合相手も攻略者だと言う。


 この世界は攻略者に厳しい世界なのだ。


「ま、リリーはまだ幼いし、俺も結婚とか今はどうでもいいかな。それよりも攻略が楽しくて堪らないや」


 俺達は攻略者。となれば、塔が恋人なのだ。


 つまり、俺達は塔と言う無機物を相手に恋愛シュミレーションをしているって........コト?!


 攻略者ってそう言う........


 俺はそんな頭の悪いことを考えながら、昼飯を食べて腹を満たすと冒険の続きを始めるのであった。




【リュックサック】

 この世界におけるカバン。現代のような布繊維などを使ったものではなく、皮で作られたリュックが主流となっている。値段も安く、利便性が高いため愛用者は多い。

 高級ブランドも存在しており、中にはリュック一つで家が建つレベルのもある。ちなみに、ローグが背負っているのはエレノワールが用意したリュック。お値段なんと、50000ゼニー。ブランド物では無いが、結構高級品だったりする(ローグは知らない)。




 ローグが心配で後を付けるエレノワールと愉快な仲間達。


 エレノワール達は、寄り道を始めてしまったローグを見て、慌てふためいていた。


「ローグ!!そこ違う!!まだ街道を歩くんだよ!!戻って!!戻って!!」

「ぅぅっ、お腹が痛くなってきました。魔物と戦闘とかしないでくださいよー」

「チッ、やっぱりあのギルドマスターは排除した方が─────ゴニョゴニョ」

「あのなぁ、お前ら。少しはローグのことを信用したらどうなんだ?16歳って言えば、多少は自分で責任が取れる歳だろ........」


 心配性がすぎるエレノワールとリリーとニア。


 そしてそれに付き合わされるムサシ。


 ムサシはローグの明らかに不自然な動きが自身の能力に関係しているものであると分かっているが、ローグがとにかく心配で仕方がない三人はまだその事に気が付いていない。


 ムサシの顔は、若干死んでいた。


「分かってないねムサシは。ローグは自分の命を残機としてしか見てないんだよ。ここが塔の中だと思い込んでるかもしれない」

「んなわけねぇだろ。ローグがおバカだとしても、そのぐらいの区別は付いてるって」

「ローグさんはおバカですよ!!ハイちゃんにあんなにデレデレしている人が賢いはずないじゃないですか!!」

「それ、ローグを殴ってるよな?何気にクソ失礼だぞリリー」

「ローグぅ........頼むから安全に帰ってきてくれよ。私はギルドマスターを殺すからさ........」

「エレノワール?やるなよ?絶対にそんなことやるなよ?!」


 大暴走し続ける三人と、その三人をまとめるムサシ。


(はぁ。ローグ、頼むからサッサと仕事を終わらせてくれ。このままだと俺が死ぬ)


 ムサシはそう思うと、美味しそうにサンドイッチを食べるローグを見て、ほんの僅かにイラッとするのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る