スキルカード集め


 さて、心配性が過ぎるエレノワールとバーバラに見送られ、俺は街の外に一人で飛び出した。


 前回俺がこの街の外に出た時は、クランメンバー全員で出たというのもあって二度目の外の景色は少しばかり違って見える。


 こんなに広かったかな。ここの街道は。


 そんなことを思いながらテクテクと歩き始める。


 今回の仕事の日程は三日ほどで終わる内容となっている。


 一日目は移動中であり、とにかく歩き続ける。2日目に洞窟の調査と周辺の魔物退治。そして三日目は街へ戻る。


 これが一応の日程だ。イレギュラーが発生すれば予定は遅れるだろうし、想定よりも物事が早く進めば二日で終わるかもしれない。


 そんな三日間の小さな冒険を始めた俺だが、洞窟に行く前に幾つか検証しておかなければならないことがあった。


「中断セーブをして塔の外に出た場合のスキルカード獲得条件。これは検証しておかないとな」


 前回確認した塔の外でのスキルカード獲得条件は、魔物を一定数たおすという事であった。


 しかし、今は状況が違う。


 前回はスキルカードやスキルオーブを所持した状態で魔物を倒していないのだ。


 塔の仕様はかなり不親切であり、場合によっては塔の外でのスキルカード獲得条件が変わっている可能性もある。


 そのための検証を、今の内にしてしまおうと言うのが今日の目標である。


 次いでにスキルカードを集めて、後の洞窟周辺の魔物掃除を楽にしようと言う試みもある。


 スキルカードはなんぼあってもいいですからね。今のところは。


 その内、デメリットを内包したスキルカードとか出てくるのかな?


 強力な効果を付与する代わりに、デメリットも与えてくる武器やスキルと言うのは一定数存在する。


 ものによってはデメリットがあまりにも大きすぎて、使い物にならないとか言うなんのために存在しているのか分からないやつとかもあるのだ。


 うわぁ、出てきて欲しくない。


 塔くん頼むぞマジで。出てくるにしても許容できるデメリットを提示してくれ。


 まだ見ぬデメリット付きの強力なスキルカードやオーブの存在に怯えていると、街道の脇からゴブリンが1匹現れる。


 塔の外に存在するゴブリンというのは、基本的に群れで行動する。


 しかし、彼は群れからはぐれてしまった個体らしい。


「準備運動がてら討伐していくか」

「グギ?」


 槍を手に持ち、ゴブリンへと近づく。


 こちらに気がついたゴブリンは、首を傾げたあと俺を敵対的な存在として認識したのか、こちらに向かって突撃してきた。


「グギギ!!」

「片手剣を装備していた時でもボコされてた癖に、闘争心だけはいっちょ前だな?刺突」

「グギッ........」


 スキル1刺突を使い、俺はゴブリンの心臓部を撃ち抜く。


 金に変えるなら首を跳ねた方が良かったのだが、別にゴブリンの素材は要らないので放置しておくことにした。


 この世界では、魔物の死体は適当な場所にほかっておけばいいと言うのが常識である。


 死体に群がる魔物や感染症のリスクはどうなんだ?とは思うが、基本的に自己責任が当たり前の世界だから自分で何とかしろと言うのがデフォルトなのだろう。


 この世界は厳しい。


 唯一、街道のど真ん中とかで魔物を倒したら退かしましょうねと言う暗黙のルールがある。


 流石に皆が通る通り道は綺麗にしておかなければならないのだ。


 今回は街道から外れているので、掃除する必要は無い。


「よし。スキルも問題なく発動するな。六槍の構えとか使えたら、かなり楽になるからいいね」


 スキルが発動するのも確認。んじゃ行きますか。


 俺は死体を放置してさらに歩いていく。


 他に魔物が居ないかなと思いつつ目的地へと向かっていると、今度は紫色のスライムが姿を現した。


 塔の中では見たことが無い魔物だが、一応知識として知っている。


「ポイズンスライムか。体内で毒物を生成する魔物で、油断すると普通に死ねる魔物だったっけ?エレノワールがポイズンスライムの毒で死んだことがあるとか言ってたな」


 ポイズンスライム。


 その名の通り、毒を操るスライムであり、如何にも“僕毒を持ってますよ”と言わんばかりの紫色の見た目をした魔物。


 強さはそこまでなのだが、このスライムが吐き出す毒に触れると解毒剤がない限り死亡すると言う凶悪な性質を持っている。


 反応が遅れて毒死した攻略者は多く、毒死の入門編として扱われる魔物だそうだ。


 やっぱりこの世界は狂ってやがる。毒死の入門編ってなんだよ。毒死したら普通はそこで終わりなんだよ。


「近づかない方がいいか。六槍の構え」

(ポヨン!!)


 俺は相手の攻撃範囲からさらに離れた場所で、六槍の構えを展開する。


 相手が危険な存在ならば、こちらはさらにそれよりも安全な場所から攻撃するのみ。


 という訳で喰らえ槍投げ。


「フッ!!」


 全力で放たれた槍が、ポイズンスライムを見事に撃ち抜く。


 勢いが良すぎて周囲に粘液を吹っ飛ばしたポイズンスライムは、その後復活することは無かった。


 まぁ、流石にね。この程度ならばスキルカードとオーブをある程度厳選した俺の敵では無い。


「よし。あと五体かな?」


 前回スキルカードを貰えた時は、合計で七体の魔物を倒す必要があった。


 今回はどうなのかな?と思いつつさらに道を進みながら魔物を探す。


 ここら辺はゴブリンが比較的多い地域とされており、街道にもよく出てくるので獲物には困らない。


 俺は適当にゴブリンを痛めつけ、そして七体目を倒した。


『スキルカード報酬をお選びください』


「お、やっぱり出てきたな。という事は、塔の中と外では別判定として扱われてんのか。アレだな。吸血鬼のサバイバルなゲームで言えば、こっちはレベルアップしたと同じか」


 塔の中はステージ方式。塔の外はレベル方式と考えると分かりやすい。


 実際に合っているかどうかは知らないが。


「んー........取り敢えず何かと使い勝手のいい刺突の回転を早くしておくか」


 俺はスキル1のクールダウン減少を選択すると、こうして一人でちょっとした冒険をするのも楽しいなと思いながら先へと進むのであった。


 まさか、その後ろを付けているものが居るとも知らず。




【ポイズンスライム】

 その名の通り、毒を持ったスライム。塔の試練では多くの人の試練の序盤に出てくることもあって“毒死の入門”として扱われる。

 その毒はかなり強く、1滴でも飲めばじわりじわりと死ぬほど。肌に触れても普通に死ぬ可能性があるので、近距離ではなく遠距離で仕留めたい相手。




 小さな冒険を楽しむローグの後ろを着ける4つの影。


 エレノワールと愉快な仲間たちは、ローグがフラフラとあっちへ行ったりこっちへ行ったりするのを見て心配していた。


「ローグゥ........お願いだから安全な街道だけを歩いて........心配すぎるよ」

「うぅっ、心が持ちませんよこれ。魔物と相対する度に嫌な汗が流れますよ」

「ローグ、頼むから安全な道を選んでくれ。私の話を聞いてなかったのか?やはりローグに外はまだ早いんだ。これはギルドマスターを脅して────」


 ローグは自身の能力を確認するため、あっちへフラフラこっちへフラフラしているのだが、それをエレノワール達が知る由もない。


 彼女たちは、それはもう不安そうな表情でローグの小さな後ろ姿を見つめるほか無かった。


「ローグは意外とちゃんとしてるし、多分あの行動もなにか理由がありそうに見えるんだが........まぁ、今のこいつらに言っても無駄か」


 唯一、ローグのことを理解してたムサシだったが、この状況で何を言っても無駄だと知っている彼は独り言に留めておくのであった。

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