授業参観
中断セーブをしてから塔の外に出ると、攻略状況が保存され塔の外でもスキルやオーブの効果が適応される。
このことを知った俺は、その日から自分の命を投げ捨てる周回作業を始める事となった。
兎にも角にもポイントを稼ぎ、そしてスキルの厳選に勤しむ。
ポイントが必要な都合上第二の試練を周回することになるのだが、それがもうとにかく大変であった。
残り時間があと2日しかないと言うものあって、とにかく第六階層を攻略しては死に戻る。
これを繰り返してポイント稼ぎを頑張った。
普段なら一日二回程度で済ませる攻略を、一日四回に増やし、12ポイントを稼ぐことを目標に暴れ回る。
攻略法が分かっていれば、突発的な事故死やイベントでの下振れを引かない限りはどうとでもなる。結果、俺はこの二日で27ポイントのポイントを稼ぎ、更にスキル厳選まで済ませたのである。
ローグライカーとして、理想的なスキルができ上がるまでリセマラを続ける根性が備わっていて本当に良かった。
途中からバーバラに“顔が死んでるけど大丈夫か?”ととても心配されたが。
心配ご無用。俺のメンタルはこんな程度で折れるほど弱くない。ましてや、今となってはハイちゃんと言う癒しまでいるのだ。
ちょっと理想的なスキルが引けなかったからと言って、落ち込むほどメンタルクソザコナメクジな人間でもないのである。
「ちゃんと食料は持ったか?忘れ物は無いな?」
「昨日からずっとそれだな。ちゃんと確認したよ」
「危ないと思ったら直ぐに逃げるんだぞ?もし失敗しても、私が掛け合ってバーバラとデートさせてやるからな」
「いや報酬の意味ないじゃん」
「武器の手入れはちゃんとしたか?予備の武器もちゃんと持っているな?」
「持ってるって。しつこいよエレノワール。オカンじゃないんだからさ........」
そんなこんなでスキル厳選とポイント強化を終えた俺は、2日後の今日、初めての依頼へと向かう事となった。
仕事の内容は、洞窟の調査とその周辺の魔物達の討伐。
魔物の討伐に関しては、特に指定がないため最悪逃げ帰っても良いという事らしい。
評価は下がるが死なれるよりはマシなんだとか。
それはそうと、昨日までケラケラ笑いながら俺をからかっていたエレノワールが完全に母親ムーブをかましている。
何度も何度も同じことを聞いてくる。不安になってちゃんと確認した後も、しつこいものだから俺はちょっと不機嫌になっていた。
流石にしつこいと。
「出たよエレノワールの心配性。リリーやニアの時もそうだったな」
「今でも割と心配されますよ。何故かこちらの仕事内容を全て把握していますし、その準備はちゃんとできているかと聞かれます」
「しつこいよねぇ........まぁ、エレノワールなりに心配しているからなんだろうけど、ちょっと度が過ぎるというか........」
「野郎なんだからほっときゃいいんだよ。死なずに帰ってきてくれたらそれでいいじゃないか」
「その死なない為の確認をしてるんでしょーが!!お前は黙ってなムサシ!!」
「へいへい。わーってますよ」
クランのママになってしまったエレノワールを止める術は無し。
ムサシも何処か諦めた表情を浮かべると、両手を上げて大人しく下がる。
エレノワールは身内に対して凄く甘いとは知っていたが、ここまで心配性で甘いとは。放任主義の親を持っていただけに、このやり取りは結構新鮮である。
ちょっとウザイが。
俺の親とエレノワールを足して二で割ったらちょうど良さそう。
「いいか、魔物を相手にする時は常に周囲の警戒を怠るんじゃないぞ。それと、洞窟の中は危険だからな。周辺を調査してチョロっと中を覗くだけでいいからな?後、ご飯の食べ過ぎには注意するんだぞ。食べ過ぎて動けないなんて事も起こりうるからな」
「分かった分かった。分かったからそろそろ行かせてよエレノワール。このままだと日が暮れる」
「とにかく五体満足で生きて帰ってこい。塔の中なら心配もしないが、外は死んだら終わりなんだ。それを胸に深く刻んでおくんだぞ」
「分かってるよ。そこら辺はちゃんと切り替えてるから」
どれだけ俺が心配なんだとは思いつつも、エレノワールにもこんな姿があるのかと思う俺。
普段はあんなにハチャメチャなのに、いざ仲間を一人で行かせようとすると心配が尽きないんだな。
結局、俺が予定していた出発時刻よりも30分ほど遅れて、俺はクランハウスを出る事となった。
エレノワールは心配性。ちゃんと覚えておこう。
街の中を歩き、外に出る手前。
ここから出たら俺の小さな冒険が始まる。
そう思っていると、見知った顔が見えた。
「やぁ。だいたいこのぐらいの時刻に来ると思っていたよ。どうせ、エレノワールに捕まっていたんだろう?」
「バーバラ。どうしてここに?」
「なぁに、ちょいと見送りに来ただけさ。友人の初仕事を見に行かない奴だとでも思っていたのかい?」
そこに居たのは、狐の獣人バーバラであった。
外でもその格好はしているんだと呆れるほどに目立つ白衣と、優しい眼差し。
俺はこの世界で初めてであった住民であるバーバラに向かってニッと笑うと、握りこぶしを作る。
「まさか。行ってくるよバーバラ」
「おう。気をつけてな。別に失敗しても構わんぞ。どうせ遊びに行くしな。安全に帰ってこい」
「うん!!」
俺はそういうと、この世界に来て初めて一人で街を飛び出すのであった。
異世界に来て初めての一人外の世界。
小さな冒険の始まりだ。
【中断セーブの仕様】
中断セーブをして塔の外に出た場合、セーブ時のスキルカードやスキルオーブの状態を引き継いだ状態で塔の外に出られる。これを悪用すると、塔の中でスキル厳選した後に外でさらにスキルカードをかさ増しできてしまう。
ビルドのためのリセマラもできるし、割と無双ビルドが組めたりする。尚、中断セーブから再び塔に戻り、死亡またはクリアした場合全てを失う。
ローグが街を出た頃、エレノワール達もクランハウスを出発していた。
「済まないフーロ。少しの間任せるよ」
「全く。そんなにローグが心配なのか?相変わらずだな」
「心配も心配さ!!あの子はまだこの世界に来て一月程度のド新人!!しかも、初めての依頼だぞ?!心配じゃないわけないだろ!!」
「分かった分かった。分かったからさっさと行きなさい。見失うわよ」
「悪いなハイちゃんモーちゃん少しの間、フーロのところで世話になっていてくれ」
「「........(モス)」」
ローグが初めて一人で依頼を受け、街の外に飛び出した。
身内のことになると兎に角心配が絶えないエレノワールが、まさか1人でのんびりと家にいるはずもない。
そう。家にいるはずもないのだ。
エレノワール達はこっそりローグに隠れて準備をし、ローグが安全に仕事を達成できるのか見に行くつもりなのである。
「はぁ。いつかはやると思ってたが、思ってたよりも早かったな」
「僕やリリーの時もやってたの?」
「やったぞ。しかも5回も。お前らは特に擦れてたからな。エレノワールが物凄く心配してたんだぞ?しかも、使えるコネは全部使ってお前達の依頼やら何やらを操作してたからな。親バカってのはこういうことを言うんだなと思ったよ」
「ふふっ、エレノワールさんらしいですね。ちょっと嬉しいです」
「優しいのは本当だからね。部屋を吹っ飛ばすけど」
「よし!!ハイちゃんとモーちゃんを預けたし、私達も行くぞ!!」
「あいよ。バレないように気をつけるんだぞ」
こうして、ローグの知らないところで、ローグの尾行が始まった。
ある意味、これは授業参観なのかもしれない。
後書き。
身内大好きエレノワールが、ローグに一人でのお使いなんてさせるわけないんだよなぁ⁈
完全に過保護マッマ。
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