中断セーブの仕様
バーバラとの一日デート券を獲得する為に、色々と準備をした。
ニアとリリーに手伝ってもらって野宿のための買い物を済ませ、ムサシに野宿のやり方を教わる。
周囲への警戒を怠らないようにしようと言うことで、魔物の接近に気がつけるように簡易的な警報装置の作り方を教わったり、火のおこしかたを教えられたりしたのである。
ひとつ言わせてもらおう。
確かに助かる。助かるのだが、完全に教え方が自分の息子にものを教える親なんだよ。
1回上手く出来たら褒めてくれるのだが、少しでも危ない雰囲気があると心配そうに俺を見つめる。
エレノワールやムサシはまだ分かる。年上だし、大先輩なのだから。
だが、リリーやニアまで親のように俺にものを教えるものだから、俺が末っ子のような気分になる。
いや、この世界に生まれ落ちたという面では確かに末っ子のような感じではあるけどね。でも、ちょっと落ち着かないのは事実だ。
なんというか、慣れない。
向こうの方が大先輩だし、経験も向こうが上。しかし、年下の親は流石に無理があるよ。年下のお兄ちゃんとお姉ちゃんは無理があるよ。
教えている本人達はとても楽しそうだったし、それを傍から見ていたエレのワールとムサシは完全に親の顔をしていたので諦めたが。
人間、諦めも肝心である。
そんなこんなで、必要な技能は全部習得した俺は少し検証のために塔へと来ていた。
「んお、久しぶりの顔だな。依頼はどうだった?」
「まだ依頼を受けた段階で今は準備中だよ。明後日には行くと思う」
「そうか。気をつけろよ。この数日、ローグの顔を見れなくて寂しかったんだぜ?」
「ハハハ!!心にも無いことをよく言うよ。ま、死なない程度に頑張るさ」
俺はそう言って塔へと足を踏み入れた。
さて、塔には様々なシステムが存在している。
人によってそのシステムは異なるが、俺の場合はローグライクという才能とそれに適したシステムが用意されているわけだ。
正直、塔の攻略はできても外での活動は難しいと俺は思っている。
エレノワールから聞いた話だと、第五階層を超えた攻略者は人外じみた力を手にしているらしい。
しかし、俺は一般人にちょっと毛が生えた程度しか強くなっていない。
これは、俺の試練がかなり特殊なものだからだと思われる。
そりゃ、全部クリアしても尚塔を出たら全てがリセットされる試練なんだから当たり前だわな。
一応、強化手段も用意されていたが、これを全て強化したとしても力不足は否めないだろう。
外で活動する時の救済措置として、このポイントによる強化システムを導入しているのでは無いのだろうか?最近はそう思うようになった。
「ポイント強化もできる限りしておかなきゃならんけど、それよりも今は検証だな。一つ、疑問があるんだよ。中断セーブに関しての」
塔の攻略において疲れた時の休憩として活用出来る中断セーブ。
俺は死にまくっているので1度しか使ったことがないのだが、この中断セーブは意外と使えるのではないか?と言う予測が俺の中にはあった。
塔の攻略ではまるで役には立たないだろう。
しかし、塔の外では実はかなり有用なシステムなのではないかと思っている。
中断セーブをした際、塔の攻略状況は保存されて一旦塔の外に出される。
そして、再び塔の中に戻ると、攻略が再開される。
その後、死亡、あるいはクリアするとその報酬が精算されるのだ。
そこで俺はある可能性に至ったのである。
あれこれ、中断セーブして塔の外に出たら全てのスキルカード効果とオーブの効果を引き継がれるんじゃね?と。
中断セーブはその途中で一旦攻略を辞めること。つまり、死んでもなければクリアもしていない。
それ即ち、スキルカード状況もスキルオーブ状況もリセットされていないのだ。
それってつまり、俺が強い状態で塔の外に出られるってことだよな?
「頼むぜ塔ちゃん。このぐらいの慈悲はあってもいいだろ?」
俺は前回死亡した時に得られたポイントを適当に割り振りつつ、塔がそこまで鬼畜では無いことを祈る。
塔の外ではスキルカード以外のものを得る手段はなかった。が、オーブを得る手段がどこかにあるはず。
強い魔物を倒す、または魔物を倒した時に確率でドロップなんかも考えられるが、この方法も考えられるよなぁ?!
「検証の時間だオラァ!!ついでにポイント稼ぎじゃぁ!!」
という訳で検証スタート。
とりあえず、中断セーブができる場所まで爆速で攻略させてもらうとしよう。
今回も武器種は槍。今回の依頼で使う武器は槍にしているので(サブで片手剣も持っていく)、槍の扱いは更に慣れておいたほうがいい。
第一ステージ、ホーンラビットの祠。
おしりペシペシ!!はい終わり!!
第2ステージ、オークの洞窟。
一度挟み撃ちになってかなり焦ったが、槍を投げまくって片方を瞬殺して逃げる方法を取ったら上手くいった。
はい次ぃ!!
第三ステージイベント。
オーブ寄越せ!!分かりやすい効果が現れるように、素早さのオーブあたり頂戴!!
結果、素早さのオーブ(中)ゲット。やったぜ。たまには塔ちゃんもデレてくれる。
もっとデレてええんやで?
第4ステージ、エリートステージ(オーク)。
単純に体力と攻撃力が強化されただけ。立ち回りに変化はなかったので、割とあっさりクリア出来た。
でも思う。まだまだ火力が足りない。
第五ステージ、商店。
とりあえず、効果の確認がしやすいスキルカードとオーブを買っておく。
今回は射程が伸びるスキルカードと、消費魔力減少のオーブ(小)を買っておいた。
何気にサクサクッと攻略できている当たり、俺も第六階層にかなり慣れてきた。
第七階層もあと何回か挑めば、安定した攻略ができそうだなと思いつつ、俺は中断セーブを選んで塔の外に出る。
「ん?ローグじゃないか」
「やぁバーバラ」
「依頼は........まだだったな。その前に鍛錬か?」
「いや、ちょっとした検証をね。無事に依頼を終わらせたら、ウチのペットを紹介してあげるよ。楽しみにしてて」
「あぁ。楽しみにしているよ」
本当ならもう少し話していたいが、時間が無い。
俺はバーバラとの会話もそこそこに、走ってクランハウスに帰る。
そしてその帰りの中で俺の仮説は実証された。
間違いない。中断セーブ中に塔から出ると、そこまで攻略したスキルカード及びスキルオーブを引き継ぐ!!
明らかに足が早いのだ。いつもよりも圧倒的に。
「念の為にこっちも確認しておくか」
そしてクランハウスに帰ると庭に出てスキルの実験。
ハイちゃんをモスモスしたかったのだが、俺はそれをぐっと我慢してスキルの挙動や威力を確認した。
消費魔力も少ないし、射程も伸びている。
普段死んで終わりがデフォだったから気が付かなかったが、中断セーブ中はスキルカードやオーブが外でも適応されてるんだな。
んで、死んだら全てがリセットされる訳だ。
「........つまり、中断セーブ時点でのスキル厳選をしておけば、そこそこ強い状態で挑めるって事だよな?」
第一の試練の中断セーブポイントは、第3階層攻略時。それなら、2時間ほどで回れる。
つまり、2時間かけてスキル厳選をした後、スキルが悪ければ死んでリセットなんてことも出来るわけだ。
いや、ポイントも欲しいから、第2の試練でやろうかな。結果的にポイント強化をした方が強いかも。
「うーん悩む。と言うか、もっと早く気がつくべきだったな」
俺はそう言うと、残りの時間を全てスキル厳選とポイント稼ぎに当てることを決定し、自分の命を犠牲に強くなることを決意するのであった。
効率的な自殺の方法とか調べた方がいいかな?
後書き。
つまり、中断セーブ中は塔の外でもその強化が維持されます。これ、悪用するとローグ君世界最強になれる(上振れ引くまで死に続ければ)。
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