ギルドからのお仕事
エレノワールと言う人物が、この国においてどれ程偉大で英雄的な存在であるのかを知った俺は喧騒が鳴り止まないギルドの中を案内されて、ギルドマスターの待つ部屋へと案内される。
エレノワールの所属するクランという事で、ギルドマスターもかなり気を使ってくれているらしいが、俺が偉いわけじゃない。
そこら辺のところを間違えると、痛い目を見るのは知っている。
漫画やアニメ、ドラマでも親の力を借りて威張るやつの待つ結末は変わらないのだ。
俺が偉い訳ではなく、エレノワールが偉い。
そして、俺はその庇護下に入っているだけの一般人。それを忘れないようにしなければ。
「ギルドマスター。ローグさんをお連れしました」
「おぉ。入ってくれ」
コンコンと扉をノックし、部屋へと入る。
すると、そこには滅茶苦茶かっこいいイケおじが、書類の山に埋もれていた。
髭を生やし、髪はオールバック。一歩間違えれば痛々しい姿ををしているとすら捉えられるその姿だが、ギルドマスターはあまりにも似合いすぎていた。
後はスーツを着て葉巻を吸えば、その道の人に見えるだろう。
かっこいいけど、それと同時に怖い。
あー、帰りたいよ。今からこの人と話すんでしょ?普通に嫌なんだけど。
「では、私はこれで」
「ご苦労シャーリー。下のバカどもは後で投げておけ」
「はい」
そして、心の支えとなってくれるシャーリーさんはあっという間に退出してしまう。
待って!!置いていかないで!!
“小指と人差し指、どっちがいい?”とか聞いてきそうな怖いおじちゃんと二人きりにさせないで!!
エレノワールのクランに所属しているから、そんなこと聞かれるわけもないのだが、やはり怖いものは怖い。
これならまだオークに殺される方が精神的に楽かもしれん。あっちは死ぬだけだからね。しかも生き返れるし。
「来てもらったところ悪いのだが、少し待って貰いたい。この書類だけ片付けたくてな」
「あ、はい。お気になさらず」
「すまない。そこのソファーに腰でも掛けておいてくれ」
俺はそう言われ、ソファーに腰をかける。
気まずい。とても気まずい。
こんな事なら、ハイちゃんでも連れて来るべきであった。
助けてハイちゃん!!俺をそのモスモスで癒して!!
そんな心の叫びも届かず、待つこと数分。
嫌な汗が服を濡らし始めた頃、ようやく書類整理が終わったのか、ギルドマスターは席から立ち上がると俺の前のソファーに座った。
「エレノワールの所に所属した新人がいるとは聞いていたが、良かった。急に実験を始めてこの部屋を爆発させられたらどうしようかと思っていたよ。あれは酷かった」
「........は、ははは。ウチのクランマスターと一緒にしないでください」
「うむ。確かにアレと比べるのは失礼だな。さて、お待たせしてしまった。茶でも飲むか?」
「あ、頂きます」
サラッと過去にエレノワールがこの部屋を爆破していた事実が明かされ、乾いた笑みしか浮かべられない俺。
俺は、ギルドマスターが優雅にお茶を入れている様子を見ながら嫌な汗を頑張って抑える。
怖いよー。助けてー。
地球に居た頃はただの一般高校生。
この世界でも重要な役割を持つ組織の支部のトップと二人きりなんて、落ち着かない。
「よいしょっと。これが君の分だ」
「ありがとうございます」
俺は差し出されたお茶を飲む。
お、見た目と匂いから察していたが緑茶だな。美味しいし、心做しか心が落ち着く。
寿司と合わせたら美味しいんだろうなーとか思っていると、そんな俺の姿を見てギルドマスターが笑った。
「ハッハッハ!!そんなに緊張しなくていい。私は別に君を取って食おうって訳じゃないしな!!と言うか、エレノワールのところのクランに手を出したら、このギルドが潰されかねん」
「一介のクランがそんな事できるんですか?」
「できるできないじゃなくて、やつの場合はやるんだよ。後先考えずに報復してくるから敵に回したくない存在だな。相手が国家だろうが国王だろうがお構い無しだぞ?とにかく身内には甘いヤツだ........っと、自己紹介が送れたな。私がここの攻略者ギルドのギルドマスターガーンだ。ローグ君。君の噂はよく聞くよ」
「ローグです。よろしくお願いします」
ギルドマスターなりの気遣いなのか、エレノワールのヤバいところを話し場を和ませる。
見た目は怖いが、優しそうなおじちゃんだ。怒らせなければと言う前提が着くが。
「さて、早速だが依頼の話に入ろう。私も色々と忙しくてな........」
「まぁ、ですよね。初めて見ましたもん。あんなに紙の束が積み上がっているの」
「ハッハッハ!!これでも少ない方だぞ?多い時は後五つほど積み上がる。どっかのバカが暴れた時とかは、それはもう悲惨だな!!」
どっかのバカ(エレノワール)ですね。
うちのクランマスター。一体何をやらかしているんだ........
話を聞けば聞くほど、エレノワールという人物のイカレ具合が目立ってくる。
「無事、第五階層までクリアした君にはギルドからの依頼を受けてもらう。理由は、戦力把握と依頼を遂行できるだけの能力を保持しているのかと言う確認のためだな。失敗すれば今後ギルドから依頼を任されることはほぼ無いと思ってくれ。たが、成功すれば金には困らん」
「なるほど........」
別に金には困ってないんだよなぁ........塔の試練は確かにクソみたいな初見殺しのオンパレードで困るが、金払いだけはいいのだ。
金に困れば第一の試練を周回すればいいだけの話だし、この話を聞く限りあまり魅力を感じない。
これ、ワザと失敗すれば塔の攻略にだけ注力できるのでは?
とすら思ってしまう。
しかし、流石にギルドもこれは見越していたらしい。ギルドマスターは話をつけ加えた。
「と、言うのが普段の説明なのだが、エレノワールや職員から君は特に金には困ってないと聞いてな」
「えぇまぁ。塔はクソみたいな試練を与えてきますけど、金払いはいいので」
「そうなのだ。ついでに言えば、塔の試練に注力したいだろうから、わざと失敗する可能性も高いとか言われる始末!!エレノワールは頭がアレだが、人の性格や行動を読むのは得意だ。彼女の言葉は信頼出来る」
うーん。正解。
完全に見抜かれていますねコレは。普通に困ったぞ。
「という訳で、エレノワールに相談をした結果。ローグくん、君の報酬を色々と考えた。その報酬とは........」
ここであえて言葉を区切るギルドマスター。
一体どんな報酬を用意してくれたんだ?
少し期待してしまう俺。
そんな俺を見て、ギルドマスターはニィと笑いながら報酬の内容を口にする。
「バーバラと一日デート券だ!!」
「馬鹿かな?」
思わず本音が口から漏れてしまう。
馬鹿かな?(2回目)
バーバラと一日デート券が報酬で俺が釣られると思うのか?こちとらハイちゃんが居るんだよ。そんなことしたらハイちゃんに嫌われるかもしれないだろうが。
ちなみに、ちょっと魅力的だなとか思ったのは内緒である。
「ちなみに、バーバラには既に了承を得ているぞ。なんでも遊びに行く約束をしていたんだとか?」
「あー、あ、確か家に来るって話はしたね。俺の飼ってるモスを見に」
「うむ。ちょっとデートとは違うかもしれんが、私の権限でバーバラに休暇を与えてやろう。もうすぐ育休で休んでいたもう一人の医師も帰ってくるのでな」
ええんかそれで。それが攻略者ギルドなのか?
俺はそう思いつつも、結局その報酬が割と魅力的すぎて失敗せずに頑張ろうと思ってしまうのであった。
ハイちゃんとバーバラがモフモフモスモスしている姿とか見てみたい。
相性悪かったら最悪だけどね。
後書き。
ローグ君だって男の子。ちょっと気になるお姉さんとのデートが欲しいお年頃。可愛いかよ。
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