モスとモス


 ハイちゃんが構ってくれなくて、遂に自分でモスを手に入れたエレノワール。


 そんなにモスモスしたかったのかと思うが、一度このモスモスを知ってしまえばその魅力に抗える人間など存在しない。


 エレノワールがモスを家族に加えるのは、ある意味必然とも言えた。


 仕方がないよね。モスは可愛くてモスモスだからね。


「ふっふっふ!!これでハイちゃんにペシペシされなくてもモスれる!!いやー、フーロの所に顔を出して良かった。この子、本当に可愛いんだよ。ちょっといたずらっ子だが、それがいい。一人でお留守番もできるのも賢い!!」

「あぁそう。それは良かったね。んじゃ、回れ右して帰ってもらえる?モーちゃんだけ置いていってさ」

「酷すぎない?流石の私でも泣くよ?」


 エレノワールはそう言うと、俺の部屋にズカズカと入ってきて俺の隣に座る。


 今日もなにか実験していたのか、エレノワールからは僅かに火薬の匂いが残っていた。


 エレノワールは武器が爆破物という関係上、火薬の匂いをよく纏っている。


 多分ハイちゃんに嫌がられる原因の一つとして、その火薬臭さもあるんじゃないかなとか思っていたりもするのだ。


 火薬の匂いは割と人を選ぶからね。俺は嫌いじゃないけど。


「........(モスゥ)」

「ハイちゃんが目に見えて嫌がってるぞ。しかも、サラッと服の中に入ってきてるし」

「ハイちゃん、本当に陰キャだよな........あ、いや、物静かで可愛いよな!!」

「もう遅いよ。既に底辺まで下がっていた好感度が、地面をつきぬけて地獄まで到達してるよ」


 そして、このデリカシーの無い発言。


 何度も言うが、モスはかなり賢く頭のいい生物だ。当たり前だが人の言葉を理解する。


 つまり、モスと接する時は人と接する時のようにある程度発言に気をつけなければならない。


 例え物静かでぼっち気質な子だったとしても、陰キャとか言われたらそりゃ嫌がるさ。


 エレノワールはかなりの陽キャ。


 ハイちゃんと相性がいいはずもない。


 ........あれ、その理論で行くと俺は陰キャになるぞ?


 いやまぁ、確かに日本にいた頃は陰キャ野郎と言われても仕方がないほどには友達がいなかったし、昼飯も1人で食ってたけどさ。


 便所飯とかはしていなかったが、飯を食ってすぐにスマホのローグライクを遊ぶのが学校での楽しみだった。


 だが、最低限の社会性は兼ね備えていると思っている。ほら、エレノワールやムサシと言った頭のネジが外れた連中とも仲良くやっていけている訳だし。


「........(モス)」

「あ、ハイちゃん怒っちゃった。エレノワールが悪いぞ今のは」

「はい。ごめんなさい........今のは私が悪かったです」

「........(モスモス!!)」


 しょぼくれるエレノワールの頭の上で、“草”と言わんばかりに笑うモーちゃん。


 エレノワールの頭をペシペシして、エレノワールを煽っているのを見るに、中々にいい性格をしていると思われる。


 ハイちゃんと相性がものすごく悪い気がするんだが、大丈夫なんだろうか。


 ハイちゃん、割とコミュ障気味だから心配である。


「モーちゃんは真っ白なんだな。いや、ごく一般的なモスは白色って話だったか」

「ハイちゃんがちょっと特殊な子だったとは言ってたね。フーロにすら殆ど懐かないような子だったから、ある意味新鮮だったとは言ってたな。だからこそ、ローグに懐いていたのを見て驚いていたわけだし」

「何がハイちゃんの心を掴んだんだろうな?」

「さぁ?案外、顔が好みだったとかそう言う理由かもしれん」


 顔が好みで近づいてくるのか........


 ハイちゃんは女の子。俺は男なので確かに好みで近づいてくる可能性も無くはないが、人間と魔物だぞ?


 人にも十人十色の好みがあるように、人間と魔物の感性はまるで違う。


 いや、変わり者のハイちゃんだからこそ、人間の顔が好みだったとか有り得るのかな?


「どうなのハイちゃん?」

「........(モス)」


 こういうのは当の本人に聞くのが早い。


 という訳で、ハイちゃんに聞いてみるとハイちゃんは恥ずかしそうに顔を俺の服の中に埋めた。


 ........あれ。もしかして、本当に顔で選ばれた?


「........これ、図星なんじゃない?」

「多分図星だな。特に気にすることもないけど、ハイちゃんは俺の顔が好みだったのか」

「へぇ。意外と面食いなんだな」

「なんだ?俺がイケメンだと褒めてるのか?」

「ん?ローグはイケメンの部類だろ。ちょっと可愛さが残る幼い少年って感じだが、顔は整っているし結構受付嬢からも人気が高いんだぞ?礼儀正しいし、それでいてユーモアも多少はあるってな。まぁ、一日に二回も塔に挑む頭のおかしい奴だから、目の保養にはなるけど深く関わりたくは無いって言ってたぞ」

「なんだろう。褒められてちょっといい気になってたのに、一気に叩き落とされた気分だ。ジェットコースターでももう少し緩やかに落ちるぞ」


 凄い真っ直ぐに褒められ、照れ臭く思っていたら、最後にどん底に叩き落とされた。


 そんなに塔の攻略をしているのがやばいのか?攻略者ってみんなヤベー奴だと思われてないか?


 エレノワールはともかく、俺は正常だぞ。


 最近は自分の命ってポイントを稼ぐためのコインだよなとか思い始めているけど、俺は至って普通だぞ。


「アッハッハッハッハッ!!いいかローグ。普通の攻略者は、週に一度攻略に挑むかどうかってところなんだよ。強くならなきゃクリア出来ないから、鍛錬を積んだりしたりとかしてな。長いやつだと年単位で入らないやつだっている。新人なら尚更だ。死ぬ怖さを味わうんだからな」

「慣れればいいじゃん」

「普通は慣れないんだよ。新人は。何度も何度も死んで、やっと慣れていくんだ。その点、ローグは最初からずっと死に対して恐怖を持っていない。言っちゃ悪いが、人間としての生存における大切なものが欠落してるって事だよ」

「そうか?ちゃんと塔の中と外で命の価値基準は変えているはずなんだけどな?」

「何言ってんだ?普通は塔の中だろうが命の価値は変わらないんだよおバカ」


 え、だって塔の中では死んでも蘇るじゃん。


 つまり、無限残機じゃん。そりゃ死ぬのは痛いし苦しいから嫌だが、別に死んでも甦れるし。


「試練が楽しいのか?そんなに」

「え?」

「すごく楽しそうな顔をしていつも攻略に望むローグの顔を見ているからな。多くの攻略者は、結構嫌そうな顔を浮かべるんだぞ?自分の死が殆ど確定しているよあなものだからな。それでも、戦いに行くから彼らは頭が狂ってるんだよ。だが、ローグは違う。いつも楽しそうにしながら家を出ていく。バーバラも言ってたぞ?あんなに楽しそうに攻略に挑む奴も珍しいってな」

「え、エレノワールは楽しくないの?」

「楽しいっちゃ楽しいが、ローグみたいに毎日通いたいほどじゃないな。アレは偶に行くから面白いんだよ。と言うか、私の場合は試練の関係上下準備しなきゃいけないから毎日は無理」


 へぇ。エレノワールの試練は準備が必要なんだ。


 そう考えると、ローグライクの試練は結構良心的なのかもな。


 この体一つあれば、何時でも始められる神ゲー。やはりローグライクは神だ。


 ソシャゲローグはともかく、ローグライクは基本的全部初めからだから準備もクソもないし。


「っと、話が逸れたな。ところで、ハイちゃんハイちゃん。モーちゃんと遊んでみない?」

「それはいいな。だが、相性がどうなんだか........」

「多分大丈夫でしょ。この子も女の子だし」


 女の子なんだ。


 俺は、俺がこの世界で如何に他とは違うのかと語られつつも、エレノワールと共に可愛い可愛いモスたちと遊ぶのであった。


 ちなみに、ハイちゃんとモーちゃんは意外と気が合うみたいだった。


 モーちゃん、ハイちゃんが静かなのが好きだと分かると、隣に座ってるだけで何もしないとか分かってんな。


 コレアレだ。オタクに優しく理解のあるギャルだ。





 後書き。

 ハイちゃん可愛い。

 ちなみに、ローグ君は『攻略者じゃなかったら』モテます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る