第七階層


 遂に武器にもローグライクが適応され始めたという事で、お金の使い道が一気に増えさらに管理が大変になりそうだなと思いつつ俺は第七階層へと足を踏み入れた。


 第七階層へと入る途中、“中断セーブしますか?”という表記が出てきたのはとても驚いたが、それ以外に変わった点はない。


 どうやら第二の試練は一つ階層をクリアする度に中断セーブができるらしい。


 これは普通に助かる。疲れきった体で続きをやりたくは無いからな。


 ゲームならともかく、こっちは本当に命を懸けてやってるんだし。


 ま、今回は普通に先へ進むんですけどね!!モスモスなハイちゃんが例え待っていてくれようとも、そろそろ本腰を入れて攻略を始める時期なのだ。


 金はある程度稼いであるし、困ればまた大剣を担いで第一の試練を周回すればよし。


 安定した攻略ができるようになったお陰で、金の問題が大きく解決したのは有難い。


「んで、次はアルマジロン達の祠とホーンラビット達の樹海とオーク達の洞窟か。“達”ってある事から、複数体を同時に相手にしなきゃならんステージだろうな」


 塔の試練におけるステージになある程度の規則性があるのか、今度は第二階層と同じく複数体を相手にするステージのような名前が並んでいる。


 先に断言しておこう。


 絶対俺は死ぬ。


 今まではタイマン勝負だったから何とかなっていたが、相手が複数体となれば話は別だ。


“戦いは数だよ兄貴!”なんて言葉があるぐらいだ。


 数の優位と言うのは、決して侮れるものではない。


 その相手がほぼ自分と同じ強さであるならば尚更。


 知能があまり高くないため、立ち回り次第ではどうにかなるかもしれないが、苦戦を強いられるのは間違いなし。


 更にはこちらは初見で立ち回り方が確立されていない。


 そう考えると、ほぼ間違いなく俺は死ぬ。


「今回は誰で死ぬかなー」


 もう生きることを諦めている俺は、ルートの都合上アルマジロン達の祠を選択。


 そして、新たに手にした強靭な槍を片手に、第七階層の攻略を開始した。


『第七階層第一ステージ、アルマジロン達の祠。クリア条件、全ての敵の殲滅』


「よっしゃこ─────」

「キュイ!!」

「ふぁぁぁぁぁぁぁ?!」


 やる気満々でステージ攻略を開始した瞬間、目の前にリポップするアルマジロン(2匹)。


 俺は奇跡的な反応速度で横へと飛び退くと、その一撃を何とか避けた。


 あっぶねぇ!!死ぬ!!死ぬ!!死ぬところだった!!


 今の一撃を避けた自分を褒めてやりたい。


 よくぞ反応したと。


「くそっ、こういう時に限って悪い乱数を引きやがって!!初見攻略の時ぐらい優しくしてくれよ!!どうせ死ぬんだからな!!」

「キュイ!!」

「キュキュイ!!」


 慌てて立ち上がり槍を構える俺と、そんな俺を逃がさないように逃げ場を塞ぐ2体のアルマジロン。


 これが開けたステージであれば背中を向けて逃げ出すのもやぶさかでは無いのだが、このステージは祠。


 つまり、建物の中であり、ご丁寧に俺のスタート地点は行き止まりからである。


 つまり何が言いたいのかと言うと、こいつらを倒さないと俺は逃げられないという事だ。


「六槍の構え」


 俺はとりあえず自身を強化するためにスキル4六槍の構えを発動。


 これで攻撃範囲が広がったので、突進してくるアルマジロンへの牽制になるはずだ。


 六本の槍の恐怖を思い知らせてやるよ!!


「キュイ!!」


 アルマジロン二度目の突進。


 二度目ってことは、次は飛びかかりだな?お前の行動パターンは見切れてんだよ!!


 更にそれと同時にこちらを見ていたアルマジロンが突進を開始。


 俺はその二体目のアルマジロンの進行方向と飛び掛ってくる場所から外れた場所に素早く移動し、位置よけを試みる。


 流石にエリートステージの時のように急に曲がってくることは無いはず。


 もしそれが出来たら、俺は初手で死んでいたしな。


「よし、ここなら当たらないは........は?」


 ここなら両方の攻撃を避けられる。そう思っていた俺は、一つ馬鹿すぎる点を見落としていた。


 アルマジロンの見た目は同じだ。つまり、ちゃんとどちらがどの攻撃を仕掛けてきたのかを理解していないと、パターンを読み違える。


 俺は突進してきたアルマジロンと行動していなかったアルマジロンを、見間違えていたのだ。


 俺の上に影ができる。


 あ、やべ。


 ここで即座に反撃出来たら良かったのだが、人間の体は意外と不便なもので脳が一瞬混乱すると体が動かなくなる。


 サッカーのゴールキーパーとかやった事がある人は分かるかもしれない。


 ボールが飛んできているのは分かっているし見えているのに、体が何故か動かない。


 そんな感覚が俺の全身を襲ったのだ。


 影が迫る。丸まった球体が俺の顔面を捉える。


 グシャ


 顔面が潰れ、肉と骨が潰れていく音。


 それが今回の攻略で最後に聞いた音であった。


 うーん。痛みはほとんど無く死ねたから、まだ良心的かな。20点。




【試練攻略における武器】

 初期の状態で装備している武器(初期武器)とは別に、塔の試練の中で手に入れられる武器(第二の試練以降)。

 初期武器よりも基礎的な攻撃力が高く、それでいながら特殊な効果が着いている。

 レアリティなどの分類は無い為判別が難しいが、これを手に入れたら勝ちみたいな武器もあるので積極的に集めに行った方がいい。

 入手手段は、通常ステージの攻略(低確率)やイベントステージ、またはエリートステージ(中確率)、商店など、ほぼ全てのステージで獲得可能だ。




 ........


 ........


 ........


 俺はバカか!!


 目が覚める。


 いやまさか、攻撃してきた相手を見間違えているとは思わなかった。


 馬鹿かな?たった2体しかいないのに、それを見間違えるとか脳の作りがどうにかなっているに違いない。


 今からでもウォー〇ーを探せでもやって、観察力を身につけた方がいい気がしてきた。いや、この場合は間違い探しか?


「あぁ、クソ。流石に馬鹿すぎて泣けてくる........」

「おや、今日は二回目だな。いやはや、死んでもなお塔に入れるその精神力は相変わらずだね。何で死んだんだ?」

「あー........岩みたいな魔物に潰された。ほぼ痛みもなかったし、優しい殺し方だったな。20点だ」

「何を基準に点数をつけているのか知らんが、痛みなく死ねるのは優しい部類だ。攻略者達は口を揃えて言う。“苦しみのない死が唯一の救済”ってな。私もそう思うよ。眠ったままあの世に行けた時は、今度からずっとこの死に方で終わりたいと思ったものだ。その階をクリアした次は、四股を潰されて徐々に出血死していく羽目になるんだから落差がすごい。あれはきつかった........」


 WOW。随分とエグい死に方をしてんだな........俺も片足を潰されてから死んだ事があるが、痛すぎて逆に痛みを感じなくなるレベルだからな。


 バーバラも大変な死に方をしているものだ。そりゃ、安らかな死は救済とか言いたくなる気持ちも分かる気がする。


「ま、ともかくおつかれ。今回は報酬が貰えたんだな」

「ん?あぁ。一応報酬を貰えるところまではクリアしたからね。また最初からやり直しだけど」

「........?一体どんな試練なんだ。まぁいい。体には気をつけろよ」

「うん」


 モフモフの手が優しく俺の頭を撫でる。


 ハイちゃんのモスモスも素晴らしいが、やはり原点であるバーバラのモフモフは最高だな。


 死んだ後だからなおのこと染みる。


 さて、とりあえず俺も換金して帰りますか。


 そう思い、報酬の方に目を向け、俺の動きは止まった。


「........おん?武器がある」


 そう。そこには、初期武器である槍が置いてあったのだ。

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