あんま変わらん


 滅茶苦茶ダルそうな周回要素が追加され、さらなる強化が約束された俺は塔の試練に挑戦していた。


 試練前に第一の試練と同じく強化イベントが来たので、取り敢えず攻撃強化のスキルカードを取得。


 コレでスキル2扇の火力が底上げされた事だろう。


 ちなみに、今回も武器は槍で来ている。


 どんな状況でもどんなステージでも武器を選ばないのが一流のローグライカー。


 相性が悪いんじゃないかと思っていても、まだ慣れていないだけの可能性は大いにあるので一先ずは槍に慣れるまで使い続けるつもりだ。


 流石に大剣は飽きたし、片手剣もやることは大剣と変わらなくてつまらないしな。


 今は新しい武器種を試して、その使い方を学ぶ時期である。


「キュー!!」

「よいしょっと」


 そんな訳で、第一ステージ“アルマジロンの樹海”。


 俺が苦手とする足場の悪いステージで、アルマジロンと殴りあっていた。


 アルマジロンに許された、飛び込みを避けると、その隙だらけの体に向かって俺は槍を振り下ろす。


 通常攻撃も織り交ぜて、ダメージを稼ぐ練習だ。この涙ぐましい努力がいつの日か報われると信じて、俺はできる限り頑張って相手を殴るのである。


 もちろん、スキルも使っている。と言うか、スキルを使わないと火力面は話にならないので使わざるを得ない。


 力任せに振り下ろした一撃が、アルマジロンの体を思いっきり叩きつけ、アルマジロンは絶命する。


「やっぱり、通常攻撃を組み込んだ方がダメージは出るな。決まった動きを強制される訳でもないから、多彩な攻撃方法があるし」


 槍のスキルに、振り下ろしのような一撃は存在しない。


 しかし、通常攻撃は好きなように攻撃を繰り出せるため、スキルではできないような動きをする事が出来る。


 つまり、攻撃の幅が増えるのだ。


 結果的に魔力の温存にもなるし、悪い話ではない。


 問題は、その使い手となる俺が弱すぎるって事だが。


「んで、予想通り強化した恩恵をまるで感じないな........まぁ、最初の頃の強化なんてそんなもんだけどさ」


 試練への強化によって攻撃力が増加したはずの俺であるが、その恩恵を全くと言っていいほど感じていない。


 当たり前と言えば当たり前だ。ダメージが数値化されていない以上、俺の攻撃が強くなったかどうかなんて感覚でしか分からない。


 そして、その感覚で分かるほどに強化されているわけが無い。


 もっとレベルを上げられたらその効果を実感し始めるだろう。


「アルマジロンを倒すのに必要な攻撃回数も減ってないし、まだまだ先は長いな」


 俺はそう言いつつ、歩きなれない樹海の中を歩いていく。


 足元が悪いというのは、それだけでかなりのデバフとなる。


 地形によって足が遅くなったりダメージを貰ったりする理由がよく分かる。これを駆使して戦えたらいいのだが、まだ挑戦二回目の俺にそんな知識も技術もあるわけがなかった。


 無理です。初心者にそんな高等テクニックはまだ早いです。


 今は躓かないように歩き回るので精一杯。もっと場数を踏んで、慣れないと話にならないな。


「みっけ。単体でいてくれると本当に助かるな」

「キュー!!」


 またしてもアルマジロン発見。


 アルマジロンもこちらを認識し、お前ピンな!!と言わんばかりに人間ボーリングを仕掛けてくる。


 こちらが大剣や片手剣ならば、攻撃が来るまで待機していただろう。しかし、槍には明確な遠距離攻撃が用意されているのだ。


「槍投げ!!」

「キュっ!!」


 水平に放たれた槍が、アルマジロンの動きを止める。


 俺は槍を投げると同時に動き出し、槍が最も有効的な距離まで近づくと補充した槍を手に持ってスキルをぶん回す。


「刺突!!扇!!」


 続けざまにスキルをふたつ吐き、アルマジロンが見るからに弱る。


 こいつ、外の甲羅は滅茶苦茶硬いのだが、内部が弱いのか衝撃を与えるだけで目に見えて弱ってくれるのだ。


「槍投げ!!」


 さらに、槍投げ。


 槍投げはクールタイムが存在しない。槍が手元にあればいつでも使える便利スキルであり、槍の補充はスキル4の六槍の構えで出来る。


 つまり、六槍の構えのスキルが使える状況では、割と気軽に槍投げを使っていいのだ。


 初めて槍を使った前回は、ダメージを出すよりも六槍の構えを維持することに固執してしまったが、よくよく考えなくても補充できるんだから積極的に使った方がお得である。


 槍投げによってアルマジロンにさらなるダメージ。


 そして槍を補充し、俺はトドメとばかりに槍を振り下ろす。


「オラァ!!」


 ドゴン!!と、鈍い音を立て、アルマジロンは絶命。俺は無事、アルマジロンに何もさせずに勝利を収めた。


「槍投げをどこまで上手く使えるかが重要だな。ストックが無いと使えないとは言えど、ストックがあればかなり強い。クールタイムが無いのがあまりにも魅力的すぎる。これ、ビルド次第ではとんでもないものが出来そうだな」


 倒れたアルマジロンには目もくれず、俺は投げた槍を回収。


 すると、減っていた六槍の構えに槍が補充され、五つの槍が俺の背後に浮かび上がった。


 何気にちゃんと回収できるのも強い。


 立ち回り次第では、六槍の構えを切らさずに戦えるってことだからね。


『ステージクリア。3ゴールド獲得。スキルカード報酬をお選びください』


「お、今のが最後だったか。戦うのに必死で数を数えてなかった」


 どうやら今の魔物が最後の敵だったらしく、無事に第一ステージを突破する。


 コレで多分最低1ポイントの強化ポイントは獲得できたはずだ。


 ワンチャンこれが最高効率だったら、一つステージクリアして死に戻るとか言う地獄が始まるんだけど、流石にそれは無いよね?


 俺はそんな恐怖に怯えつつ、更にスキル3の攻撃強化(小)を選択。


 コレでさらに火力が上がった。


 雀の涙程しか変わらないだろうが、火力が足りてない今の時期にはありがたいカードである。


 やっぱりね、火力が正義なんですよ。火力が無いと何も始まらない。


 敵を普通に殺せるだけの火力は必須。その条件をクリアして初めて、補助に強化を回せるのである。


「さて、次は........確かホーンラビットの洞窟だったな」


 報酬も受け取り、ちょこっとだけ強くなった俺。


 次はホーンラビットと呼ばれるウサギの魔物。昨日、エレノワールにそれとなく聞いてみたところ、俺の想像通り額に角を生やしたウサギの魔物らしい。


 割と可愛いものの、その見た目とは違いかなり獰猛。普通に肉食らしく、目に付いたやつはとにかく串刺しにしてぶっ殺さないと気が済まないんだとか。


 とんでもねぇ魔物だな。尚、肉はかなり美味しく、それなりに高値で取引されているらしい。


 クランの夕食にもよく出てきているんだとか。


「今度はウサギに串刺しにされて死ぬとかごめんだぞ。ウサギ以下の雑魚にはなりたくないなぁ........」


 俺はそう言いながら、次のステージであるホーンラビットの洞窟を選択し─────


「ゴホッ........!!」


 見事フラグを回収してホーンラビットに腹を貫かれて死ぬのであった。


 いや、洞窟ステージが普通に極悪だろこれ。


 相手の動き方によってはいつでも裏を取れる仕組みになってるから、ほかのステージよりも気をつけなきゃならんことが多すぎる。


 樹海と違って逃げるのも難しいし。立ち回りがさらに重要だわこれ。


 しかも、ホーンラビットが普通に強ぇ。


 足早すぎだろ。その可愛い足に瞬足でも履いてんのかってぐらい早かったぞ。普通に攻撃を避けられたわ。


 結論。


 俺はウサギ以下のクソザコナメクジ。


 ハイちゃん、俺を癒して慰めてくれ。

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