グシャ


 第六階層第二ステージに出てくるオーク。


 異世界の定番魔物として、ゴブリンやスライムに並ぶ超有名所の魔物であったが、現実で相対するとクソほど強いしやり合いたくない相手であった。


 いや普通に強い。


 今は単体を相手にしているから何とかなっているが、これが複数体相手にする事になったら絶対に死ぬ。


 相撲取りのように強靭で大きな肉体は、あまりにも火力が高すぎる。


 この一撃を剣で受け止めてる異世界モノの主人公ってやばいだろ。そりゃチートスキルが無かったら無双できるわけもない。


「ふぉぉぉぉぉ!!怖ぇ!!」

「ブモォォォォ!!」


 振り下ろされる棍棒を紙一重で躱す。


 攻撃を喰らう=死亡であったこの塔の試練で真っ先に磨かれた俺の回避能力。


 ゴブリンの棍棒を避け、スライムの酸性液を避け、ウルフの噛みつきも避けてきた俺にとってこの程度はなんてことは無い........という訳でもない。


 足元が悪い樹海。自然と移動速度にデバフが掛かるこの地形においては、今まで培ってきた回避技術などほぼ役に立たなかった。


「あっぶねぇ!!怖すぎだろ!!扇!!」

「ブモォ!!」


 逃げながらスキルのクールタイムが上がるのを待ち、スキルが打てるようになれば適当に振り回してダメージを与えつつ逃げる。


 これを繰り返すことによって何とかオークと戦えているが、やはり火力不足が目立った。


 なんと言うか、この世界に始めてきた時のことを思い出す。あの時もこんな感じに逃げ回りながらゴブリンをぶった切ってた。


 六槍の構えを維持しながら戦うとか、そういう次元の話じゃない。そもそも歩き慣れてなくて、この樹海の中を移動するだけで精一杯。


 ストック管理?そんな余裕ねぇよ馬鹿野郎。


 兎にも角にも逃げて殴る、逃げて殴るを繰り返し、四体目のオークを何とか倒した。


「........はぁはぁ。平坦な場所と凸凹な場所。地形が変わるだけでこんなにも苦戦するとは思ってなかった。性格悪すぎたろこれ」


 一応、樹海のステージを選ばずに他のステージを攻略し続けるという手段もあるにはある。


 ローグライクの良いところはらボス戦以外は割と自由にルートを決めることができるので、苦手なステージを飛ばすなんてことも出来るのだ。


 明らかに難易度が違うやつとか、自分のビルド的に不利な敵から逃げる。それもひとつの戦術である。


 エリートステージだって無理に踏む必要は無いからね。体力の状況を見て、休憩所に逃げるなんてやり方も普通にあるのだ。


 が、しかし、樹海のステージを避け続けて攻略するのは不可能に近い。


 結局のところ、慣れる必要があるのだ。


 大丈夫。あと数回も死ねば大体の立ち回りは理解できるようになるはず。それでも無理だったら、その時に考えればいいのだ。


「あーくそ、槍もなんか使いづらいし、俺に合ってないのかな。次挑む時は別の武器種を試してみようかな」


 そして、武器も慣れなかった。


 というか、多分オークとの相性があまり宜しくない。


 スキル1刺突を使うと武器を取り上げられることがある。俺はそれを警戒しながら戦わないといけないので、意識が散る。


 武器を失いたくないという気持ちが先行して、スキルが使えないのだ。


 実質的にスキルを一つ失った状態で、戦うことになってしまっている。


「槍投げも上手く使えないし、本当に初心者向けの武器か?これが」


 片手剣や大剣と違って、かなり扱いが難しい。


 でも初心者向けと書いてあったのだから、扱いは簡単な部類のはず。


 急に系統の違う武器を使って混乱しているだけだとは思うが、ここまで上手く使えないと手放したくもなる。


「今回の攻略はかなり苦戦しそ─────」

「ブモ」


 あっやべ。


 オークとの鬼ごっこで精神的に疲れ、座って少し休憩していたところにオークが来てしまった。


 目と目が合う。


 は、ハローオークちゃん。その体イカしてるね。かっこいいよ。とてもかっこいいから、とりあえず俺が走り出すまでは見逃してくれない?


「ブモォォォォ!!」

「ですよねェェェェェ!!」


 棍棒が振り上げられ、俺に向かって振り下ろされる。


 俺は何とか回避しようとするが、座った状態でできることなどたかがしれている。


 グシャと、肉と骨が潰れる嫌な音が響き渡り、右足の感覚が一気に無くなった。


 やばい、右足が潰された。


 何とか立ち上がって逃げようとしたが、人は急に片足を失うと上手く立てないらしい。


 モタモタとしながら立ち上がろうとすると、大きな影が地面に映し出される。


「くっ殺せ!!........なんて言うか馬鹿が!!お前も死ぬんだよ!!刺突!!」


 棍棒が頭に振り下ろされると悟った俺は、最後のあがきとしてオークに向かって槍を突き出す。


 オークはその槍を腕で受け止めると、俺から槍を取り上げた。


 思いっきり槍が腕にぶっ刺さっているが、自分の腕を犠牲にこちらの武器を取り上げたのだ。


 だがな、この武器はあと5発弾が残ってんだよ!!


「槍投げ!!槍投げ!!槍投げ!!槍投げ!!槍投げェェェェェ!!」

「ブモォォォォ!!」


 ストックとか知るかと言わんばかりに俺はスキル3槍投げを連発。


 オークは棍棒を振り下ろそうとしていたが、5本の槍が全身を突き刺して動きを止める。


 そして、こちらに向かって倒れてきた。


「え、ちょ、待っ!!」


 グシャ。


 オークの肉体は相当なもので、その体重はなんと数百キロ近くあると言う。


 そんなくそ重いものが勢いよく俺にのしかかればどうなるのか?


 答えは簡単。肉が潰れて骨が折れる。


 ここで即死出来ればよかったのだが、今回はとことん運がなかった。


 押しつぶされたのはいいものの、俺はなんと生きていたのだ。


 苦しい、痛い。


 オークに押しつぶされて息ができず、全身が潰れて身体中に激痛が走る。


 足を潰された時はアドレナリンが出ていたのか感じなかった痛みが、ここに来て一気に押し寄せてきた。


「........」


 声も出せないほどの痛みと苦しみ。この苦渋のサンドイッチに挟まれた俺は、じわじわと感覚が消えていく中で死ぬのであった。


 くそう。体に突き刺さった槍がいい感じに倒れるオークの体を支えるとか、そんなミラクルは起きないのかよ。


 どうやら俺に主人公補正は無いらしい。


『試練への強化。1ポイント獲得』




【アルマジロン】

 アルマジロを大きくしたような魔物。その背中は剣を弾く盾となり、丸まって相手を轢き殺すボーリングを開催するヤベー奴。飛び上がって相手を押しつぶす攻撃もするが、背中から必ず落ちるためひっくり返ってジタバタもする。

 その姿は確かに可愛いが、それ以上に人間ボーリングを始めるので許しては行けない。




 ........


 ........


 ........


 くっ殺せ!!


 目が覚めると、そこは見慣れた天井であった。


 また第二ステージで死んだよ。初めてこの塔に潜った時も第二ステージで死んでたよ。


「足は........無事だな。いやー人間って急に足を無くすと立てなるなるんだな」

「お、久々に来たじゃないか。死んだのか?」

「やぁバーバラ。当時の有難い試練のおかげで見事死んだよ。今回は圧死とでも言うべきかな?中々にキツかった」

「ほう。それはまた可哀想な死に方をしたな。重たいものに押しつぶされて一気に死ぬほうじゃなくて、ジワジワと死ぬほうだったと見える」

「よくわかるね」

「苦しい死に方をしたと顔に書いてあるからな」


 流石は数多くの攻略者を見てきたバーバラ。俺がどんな死に方をしたのかも大体わかるらしい。


 バーバラはいつものよに俺の頭を優しく撫でると、微笑みながらこう言った。


「まぁ、いずれは慣れる。それまでの辛抱だ」

「あの、慣れるまで死にたくないんですけど」

「ハッハッハ!!それもそうか!!」


 俺は、バーバラのモフモフを堪能しつつその日の攻略を一旦諦めるのであった。


 二回目を潜る?冗談じゃない。今日はもう色々と疲れた........

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