普通に怖い


 第六階層第一ステージ“アルマジロンの祠”。


 第二の試練初めての相手となったアルマジロンは、戦い方さえ分かればそこまで強い敵では無かった。


 タイマンに限りだが。


 一体一の勝負ならば、そこまで苦戦することは無い。飛び掛りを待ってから、ひっくり返ったアルマジロンを殴るだけの簡単なお仕事。


 俺は無事に第一ステージをクリアしたのだが、ある問題点が露呈した。


「火力が圧倒的に足りてないな........第一の試練の時なら二発も殴れば沈んだはずなのに」


 そう。火力である。


 明らかに敵の耐久力が増している。槍と大剣の火力差を加味したとしても、敵の体力がかなり多くなっている気がした。


 スキルで5発殴ってやっと死ぬとなれば、囲まれた時が怖すぎる。


 立ち回りである程度カバーできるとは思うのだが、ある程度であって完璧に囲まれないように動くのは不可能に近い。


「スキルカードで強化したとしても、無理がありそうなんだよな........今の所武器強化とか永続的な強化が無いから、苦戦を強いられそうだ」


 俺はそう言うと、報酬画面に視線を向ける。


 いつもと変わらない青ウィンドウには、今回の報酬が書かれていた。


『ステージクリア。4ゴールドを獲得。スキルカード報酬をお選びください。

 1.スキル1の攻撃力上昇(小)

 2.スキル3の消費魔力減少(小)

 3.スキル4のクールタイム減少(極小)』


 いつもと変わらない報酬。俺はとりあえず火力がないと始まらないということで、スキル1刺突の攻撃力上昇(小)を選択しておいた。


 コレで五発が四発になってくれると助かるんだが、それでもかなり無理ゲー感がある。


 今回は複数体を相手にすることが無かったから良かったものの、二体以上で来られると本当に死ぬぞこれ。


「槍の攻撃を上手く二つ三つ当てられたら違うのかね?六槍の構えで多段攻撃が出来たら強そうなんだけど」


 六槍の構えは、自分の繰り出したスキルに連動して同じスキルを放ってくれる。


 もし、刺突を2つ当てられたら、攻撃力は二倍になると思わないか?


 範囲火力として優秀な六槍の構えだが、使い方次第では悪さできそうなんだよなぁ........


「まぁ、とりあえず先に進むとするか。仕様の穴を着いて悪さをするにもまずはちゃんと理解しないとな」


 俺はそう言うと、次の階層へと進む。


 第二ステージも通常ステージだ。


 今回の相手は、みんなご存知あの魔物である。


『第六階層第二ステージ、オークの樹海。クリア条件全ての敵の殲滅』


 ステージを移動し、一歩踏み出せばそこは樹海の中であった。


 槍と相性の悪いステージだな。木々が邪魔すぎて槍を振り回しづらい。


 取り回しのいい武器を選ぶべきだったかもしれん。


 まぁ、森の中で散々大剣を振り回してきたので、ある程度立ち回りと取扱は分かるのだが。


「歩きにくいな。森ステージと違って段差が多い。木の根っことかに躓いて転びそうだ」


 樹海はほぼ森と大差ないと俺は思っている。


 気がいっぱい生えてたらそれはもう森だし樹海だろという認識だ。


 しかし、この塔の中では一応定義があるらしい。


 森は木々が生い茂る平坦な場所であり、樹海は木々が生い茂る凸凹とした場所。


 この違いは小さいようでかなり大きい。


 足元が不安定だから、慣れてないと動きにくいのだ。


「何とか頑張るしかないけど、絶対どこかでやらかすなこれは」


 そんな事を話しながら、樹海の中を歩いているとお目当ての魔物が姿を現す。


 ゴブリンと同じく緑色の肌を持ち、でっぷりと太ったその体型。手には棍棒が装備されており、大きさは約2m程もある化け物。


 皆さんご存知、オークである。


 異世界ものだと大体女騎士を捉えて“くっ殺”させているか、殺されてその肉を食べられている定番の敵役。


 最初にアルマジロンとか言うアルマジロのデカいやつを見ただけに、異世界の定番種族を見てちょっと感動していた。


 コレが噂に聞くオーク........!!と。


 そして、それと同時に思った。


 こんなヤツらを相手に無双している主人公ってヤベーんだなと。


 あんなデカデカとした巨体から繰り出される一撃が弱いわけが無い。ゴブリンの棍棒で殴られても人は死ぬんだぞ。


 あんなもので殴られた日には、鼻から脳が飛び出しても不思議じゃない。


 異世界モノの主人公ってスゲーんだな。俺なんてスキルを得ていたとしてもあんなヤツとやり合いたくないよ。


 試練だからやるんだけどさ。


 俺はステージが変わったことによりリセットされてしまった六槍の構えを再度使用し、何時でも槍を補充できるようにしておく。


 一旦先制攻撃を仕掛けてみるとしよう。近接戦は怖いから、まずは遠距離で一発。


「槍投げ」

「グガッ?!」


 オリンピックにも出られそうな勢いで発射された一撃。その一撃は、オークの肩に突き刺さり、オークは悲鳴をあげる。


 お、ぶっ刺さった。


 アルマジロンが相手の時はほぼ弾かれていたんだけどな。となると、あいつが硬すぎただけか?


「ブモォォォォォ!!」

「怒った。そりゃいきなり肩を貫かれたら怒りもするか」


 オーク、ブチ切れ。


 槍を投げた俺の方に視線を向けると、ドシドシと重たい足音を立てながらオークが追いかけてくる。


 とりあえずスキルを撃ったら逃げるか。槍は間合い管理が楽そうだし、事故ることもそこまで無いだろう。


「刺突!!」

「ブモォ!!」


 強化されたスキル1刺突を使用し、オークに一撃を加える。


 オークはその一撃が見えていたのか、偶然なのか、俺の一撃を手の平で受け止めると腕を振って槍を俺から取り上げる。


「はぁ?!マジかよ!!」


 まさか武器の取り上げをしてくるとは思ってなかった俺は、一瞬驚きで硬直。


 オークの棍棒はすぐそこまで迫っていた。


「........くっ!!」


 ドゴォン!!


 慌てて横へ飛び退いて攻撃を避ける。


 そして、槍を補充して即座に構えた。


「いやいや、それはやっちゃダメでしょ。というか、難易度上がりすぎじゃね?武器種の相性が悪すぎたのか?」

「ブモォ........」


 このステージ、槍で攻略するのは無謀かもしれない。


 ローグライクにも、もちろん相性の悪い敵というのは存在する。


 4人パーティーで戦うデッキ構築型ローグライクなんかにはそれぞれキャラ固有のスキルが用意されていたりするのだが、敵のギミックとの相性が悪すぎてそいつが来ないお祈りをしなければならないとか言うクソゲーもあるのだ。


 え?その相性の悪いやつが来たらどうするのかって?


 死ね。運がなかった(無慈悲)。


 槍とオークの相性があまりにも悪く感じる。片手で無理やり受け止めつつ、手を振り払うことで武器を取り上げるとかやっちゃダメでしょそれ。


 それとも、それが前提にあるから六槍の構えというスキルが用意されているのか?


 だとしたら相当ストックの管理が難しいんだけど。


「扇!!」


 俺はそう思いながら、スキル2を主体に戦う方法に切替える。


 突きがダメなら、振り払え。スキル相性で差をつけろ。


 横になぎ払われた槍が、オークを切り裂く。


 しかし、ゴブリンよりも肉が豊富なオークはこれしきの事で死ぬことは無かった。


「ブモォ!!」

「はい逃げます!!今すぐ逃げますぅ!!」


 1発当てたから逃げる。


 そしてスキルのクールタイムが上がったらまた殴る。


 これを繰り返すこと数回。腹をズタズタに切り裂かれたオークはようやく息絶えて樹海の地面を赤く染める。


「はぁ........疲れた。肉体的にじゃなくて精神的に。オークって怖いわ」


 あの大きな体と威圧感。デカすぎず小さすぎないその体は、人の本能に恐怖を植え付ける。


「オークに殴られて死にたくねぇ........」


 俺はそう言うと、残りのオークを探しに行くのであった。





 後書き。

 お前の事だぞクソ時計。レーリン使ってデッキを回すコンボがお前のせいで封じられるんだよ。普通に強いしよぉ。テンポも悪いから死ね(どストレート)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る