第二の試練


 モスモスのモフことハイちゃんの為に、俺は死ぬ気で金を稼ぐことにした。


 正直な事を言えば、別のビルドをや武器種を試したり新しいステージに入りたい。


 しかし、それよりも先にやるべきことが出来てしまった。


 ハイちゃんの為に、俺は死ぬ気で金を稼ぐしかないのだ。


 というわけで、1週間ガチで金稼ぎのための周回をする事になったのである。


 武器は大剣。ビルドは適当。


 立ち回りさえ意識すれば基本的に勝てるので、火力と機動力だけ最低限確保して後は天に身を任せて運ゲーをするのだ。


 結果。約200万ゼニー近くの金を1週間で稼いできた。


 いやー、一度攻略が安定すればそれなりの勝率を叩き出せるな。


 一回えげつない下ブレ(ゴミイベント)を引いて死んだが、それ以外は攻略できたのは素晴らしい。


 金のためにエリートは全部踏んだし、ポーションも限界までケチった。


 吸血のオーブを引いた上でポーションも持っていた時に体力減少イベントを引いたが、吸血のオーブの効果で無理やり回復してやった。


 お陰でかなり大剣での戦闘が上手くなっただろう。


「ハイちゃん、今日は多分滅茶苦茶早く帰ってくるか、滅茶苦茶遅く帰ってくるかのどちらかだからね。ご飯はいつも通りここにあるから、お昼になったら食べてね。お水も用意してあるから」

「........(モス)」

「夜はいっぱい構ってあげるから、ごめんね?」

「........(モス)」


 我らがアイドルことハイちゃんは、“行く前に撫でて”と言わんばかりに頭を差し出してくる。


 なんて甘え上手で可愛いんだウチの子は。


 俺は気持ちの悪い笑みを浮かべながら、ハイちゃんを優しく撫でてあげる。


 あーもうこのままハイちゃんを撫で続けたい。でも、攻略も行きたい。


 1度、真面目にハイちゃんも一緒に塔に連れていこうか悩んだのだが、流石に辞めておいた。


 何があるのかわからないし、万が一それでハイちゃんが死にましたとかシャレにならない。


「それじゃ行ってくるよ」

「........(モスッ)」


“頑張れ!!”と言っているのか、ガッツポーズのように腕をあげたハイちゃん。


 ........可愛すぎる。


 この世界って写真とかあるのかな?もし会ったら買おう。そして、ハイちゃんを沢山撮ろう。


 そんな親バカのような考えをしつつ、俺は塔にやってくる。


 金を稼ぐための周回は終わったので、今日から攻略再開だ。


 新しいステージに新しい武器を使って挑んでみようかな。今回は死ぬ気満々で来ているので、いつもより少し気が楽だった。


「お、今日も金稼ぎか?」

「いや、今日は攻略に来たよ。しばらく分のお金は稼いだからね」

「かぁー、稼げる試練がある攻略者は羨ましいな!!」

「その金を稼ぐために毎回命を賭けて居るんだけどね........連日のようにゴブリンに頭を潰されてみる? 」

「そいつら勘弁だな。あーあ。俺も金が欲しいよ」


 毎日のように顔を合わせる検問所の兵士と軽い会話を済ませ、塔の中へと入る。


 金稼ぎの為に死ぬ気でやっていたとは言えど、1週間で200万ゼニーほど稼げるってかなりやばいよな。


 この世界の金の価値は、日本と余り変わらない。


 つまり、俺は1週間で200万円近くを稼いだことになる。


 そう考えると、この塔の試練って夢のある場所だよな。


 アメリカンドリームならぬ、タワードリームが出来るわけだ。


 その挑戦料として命を掛けることになるが。


 死ぬことには慣れた。だが、死ぬ事が怖くない訳では無い。


 夢の中でゴブリンに頭をかち割られて目が覚めるとか、ウルフに食われる夢とか結構見るし。


 死による精神的苦痛。俺は割とケロッとしているが、中々にえげつない世界であるのは間違いない。


「俺って本当に攻略者に向いてんだな........こんな才能分かるわけないだろ。1度死ねば、人はそこで終わりなんだよ」


 死ぬ才能とでも言うべきか、俺は攻略者としての才能が高いらしい。


 こんな才能を眠らせていたなんて........!!と、思うわけねぇだろ。


 この世界じゃなきゃ通用しない才能なんて真っ平御免だ。


 いや、その才能があったから塔に入れたのか?まぁ、転移した原因について考えるのはやめておくか。


 そんなことを言いながら、俺は第二の試練へと足を踏み入れる。


 ゴブリン、ウルフ、スライムが出てきた第一の試練とは違い、この試練はどんな魔物が出てくるのだろうか。


「........あ、そっか。第二の試練に初めて挑むから、最初のイベントが無いのか」


 第一の試練の時は、ステージ選択の前に前回の進行度に合わせた報酬を1つ受け取っていた。


 しかし、第二の試練となった事で、そのイベントも最初からになってしまっているようだ。


 つまり、今回は最初のイベントを飛ばして戦わなくてはならない。


 多分、次以降からはイベントが発生してくれるはずである。


「んじゃ、ステージ選択と行くか。えーと、オークの洞窟、アルマジロンの祠、ホーンラビットの樹海の3つか。どれも聞いたことがない魔物だな。いや、何となく予想は着くけどさ」


 最初に提示されたステージは全部で3つ。多分、この3種類の魔物が今回の敵となるだろう。


 オークはみんな知っての通り、“くっ殺”の代名詞とも言える敵役。


 ゴブリンを丸々と太らせて、大きくしたパワーファイターというイメージが強い。


 この世界では違うのかもしれないが。


 そしてアルマジロン。


 名前からしてアルマジロだろこれ。


 体を丸める事で身を守る動物、アルマジロの魔物バージョンでしょこれ。


 これでアルマジロ以外の見た目をしていたら詐欺だ。訴えたら勝てそう。


 そして最後、ホーンラビット。


 多分一角ウサギ。


 額に角を1つ生やしたウサギに違いない。割とよく出てくる異世界の定番魔物である。


「どれにしようかな........今回どこから始めてもエリートが通れるんだよなぁ」


 第二の試練になろうが、基本的にルート選択の考え方は変わらない。


 できる限り報酬が美味しい場所を狙っていくのだ。特に、エリートステージはできる限り踏みに行きたい。


 しかし、今回はどこから始めてもエリートステージに行けるのである。


 となると、イベントステージをできる限り踏まないルートを選ぶべきか。


「んで、やっぱり最後は商店だな。某ウサギの魔王の顔がチラつくぜ」


 ステージに出てくる魔物の種類は変わったが、それ以外に大きな違いは今のところ見られない。


 やはり、俺が一番最初にハマったソシャゲのローグライクをモデルにしている節がある。


 塔は俺の頭の中でも見たのか?


「本当に不思議だな。死んでも生き返らせられる技術に人を完璧に識別できる技術。更にえば内部を自由に変えられる能力まであるんだ。神のように崇められていても不思議じゃない」


 この世界の塔は、神同然。


 塔は神であり、人々に力を与えてくれる存在とすら考えられている。


 これだけ滅茶苦茶な力があるのだ。そりゃ崇められていても不思議じゃない。


 塔ってやっぱりすごいんだな。


 俺はそう思いながら、今回はアルマジロンの祠を選択。


 ここが1番イベントステージを踏まないで済む。


 クソが。確定体力減少イベントを見てなかったらイベントステージも見てみるかーってなったのに。


 今回は死ぬ気で来ているが、イベントステージで下ブレを引いて死ぬのは勘弁願いたい。


 あの死に方は普通に不愉快なのだ。まだ殴られて死んだ方がマシである。


「はてさて。武器は何にしようかなー」


 俺は今回は、そんなしょうもない死に方はしませんようにと願いつつ、武器をどれにしようか悩むのであった。

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