モスは正義
モフモフの癒しが欲しいと思い、ペットを買いに行った俺はモスと呼ばれる蚕の見た目をした魔物を飼うことにした。
名前はハイちゃん。灰色だからハイというあまりにも安直すぎる名前だが、俺にネーミングセンスを期待してはならない。
農作ビルドなんて名前を付けるんだぞ俺は。変に考えるよりもシンプルな方がいいのだ。
ちなみに、ハイちゃんは女の子らしい。魔物によってはオスとメスで世話の仕方が異なる子もいるらしいが、モスは特にそういうのは無いとの事で注意事項と基本的なお世話の仕方を書いた紙を貰ってきた。
その日の内に必要なものは全部買い集め、お世話の準備はバッチリである。
その日は一日中ハイちゃんと遊んでいた。
エレノワール達も新しい家族を迎えようとはしたのだが、色々と悩みすぎてもう少し悩むことにするらしい。
皆ペットを飼うのは初めてなのか、ものすごく真剣に悩んでいた。
尚、クランハウスに帰ってから悩みなんて忘れてウチの可愛い可愛いハイちゃんに釘付けであったが。
ハイちゃん、フーロの言う通り本当に人には懐かないらしく、俺以外の人がモスろうとすると、全力で拒否してくる。
唯一ニアだけは少し触らせてあげていたが、基本的に俺にベッタリであった。
フハハ。飼い主がそんなに好きなのか。可愛いヤツめ。
一番拒否反応が大きかったのはエレノワール。触れようとすると“触んじゃねぇ”と言わんばかりに逃げる。
エレノワールは割と本気で傷ついたのか、目に見えてしょんぼりしていた。
あのムサシが茶化すのはやめておこうと思うほどにはしょんぼりしてた。
これはエレノワールもモスを買うかもしれない。結構なお値段するんだぞ。
エレノワールのクランメンバーだからと言うことで値引きしてもらって50万ゼニー弱したからな。
しかも、お世話用に色々と買ったら余裕で50万を超えたよ。
俺の稼ぎの半分が一瞬にして消えたが、今後の活動にとってとても重要な事なので必要経費である。
俺を癒してくれ。その可愛いつぶらな瞳と、愛らしい仕草で血に染った心を浄化してくださいお願いします。
そんなわけで新たな癒しを手に入れた俺は、再び塔に戻ってきていた。
お金減っちゃったからね。稼がないとね。
ハイちゃんには早めにお留守番に慣れてもらおうということで、俺の部屋で待機中である。
モスはかなり賢いらしく、人の言葉も理解するらしい。お留守番できる?と聞いたら“任せろ”と片腕を上げてドヤ顔をしていたので多分大丈夫だろう。
........でも心配だから今日は早めに帰るか。
「はてさて。無事にステージクリアした訳だけど、どうなってんのかな?」
ハイちゃんを出迎えた翌日。
俺は、この塔の試練がどのようになっているのかワクワクしながら塔に足を踏み入れる。
最初のローグライクはクリアした。となれば次は新しいステージが解放されるのか、それとも同じステージをぐるぐるさせられるのか。
それが気になっていた。
ローグライクにもいろいろな種類がある。
ゲームシステムはもちろん、その中には複数のステージが用意されているゲームと、一つしかステージが用意されていないゲームがあるのだ。
もちろん、そのどちらにも面白さがある。
複数のステージがあれば味変として別のステージに行って気晴らしできるし、1つしかステージがない場合は自分の知識をフル活用して色々なことで遊べる。
まぁ、大体の場合は難易度を上げて遊ぶかな。ノーマルステージからハイステージに変えるみたいな。
懐かしいなぁ。限界まで強化して敵モブに死ぬほどボコられたの。火力面で下振れを引いた時がマジできついんだよねハイステージって。
特に殺られる前に殺れというコンセプトのゲームになるほど、ハイステージは猛威を振るう。
単純に敵が固くなるだけで、クリア出来なくなるもんなんだなと思ったものだ。
「この塔の試練はどうなってんのかね」
そう思いながら、塔の中に入ると、早速ウィンドウが出迎えてくれる。
2日ぶりに見ただけなのに、とても懐かしさを感じる。やはり、ここが俺のいるべき場所なのかもしれない。
「えーとなになに?試練をお選びください........か。なるほど、クリアした試練もまた遊べるようにしてくれているんだな。分かってんじゃん」
ウィンドウに書かれていたのは、試練の選択であった。
以前まではこんな選択肢なんて出てきてなかったので、俺が一度試練をクリアした事により出てきたのだろう。
選択肢は第一の試練か第二の試練。
おそらく、第一の試練が今まで遊んできたゴブリンやスライムの出てくるステージであり、第二の試練が初見ステージとなる。
なるほどね。こんな感じで塔を登っていく訳だ。
「第二の試練のステージも気になるけど、今使える武器種がかなり少ないからなぁ........初見ステージで初見武器はさすがにちょっと怖いし、何より今日は金を稼ぎに来ているし........第一の試練で遊ぶか」
第二の試練に挑みたい気持ちもあるが、貯金の半分を使ってしまった今はお金を稼ぎたい。
第1ステージで爆速死亡とかしたらお金が稼げないので、今日は大人しく金稼ぎに勤しむとしよう。
1回クリアすれば大体20~30万ぐらいの金は手に入るし、今日はお金稼ぎしようかな。
しかし、ただクリアするだけではつまらない。今回はタイムアタックをしてみるとしよう。
「目標は14時までにクリアだな。今が8時30分だから、5時間半でクリアを目指すぞ」
愛しのハイちゃんがお留守番しているのだ。暫くは早めに帰りたい。
となれば、タイムアタックするしかない。
新しい武器種?知らねぇよ。今日は大剣を使って無双するんだよ。
お金のことも考えなくてはならなくなってしまったが、その分俺に癒しを与えてくれるはずなので無問題。
今日は金稼ぎの時間だぜ!!
「おっしゃ、2連続クリアしてやるよ!!」
こうして、俺の初めてのタイムアタックが始まった。
結果から言えば、14時32分でゴールだった。
途中で1回クソ配置を引いたのが痛かったなぁ........しかもエリートステージで。
でも、攻略法が分かれば割と簡単にクリア出来る試練であった。
金稼ぎとビルドを試す遊び場としては最適かもしれん。
【モス】
蚕の姿をした体長30~40cmの魔物。少し丸っこく、白色の体が魅力的であり一部の層からとても人気がある。
知能がとても高く人間の言葉も理解出来る。蜘蛛の巣のように糸を張って自分の身を守る。主食はそこら辺の植物。
学者いわく、なんで今まで淘汰されていないのか分からないと言われるほど生存に適していないらしい。多分、モスモスで可愛いから許されてる。
二度目の試練をクリアし、爆速で換金を終えた俺はそのまま家に帰ってきた。
バーバラのモフモフをもう少し堪能したかったところではあるが、ハイちゃんのモスモスも味わいたい。
何よりまだ家に来て2日目でぼっちにさせるのは可哀想すぎるのだ。金がいるから仕方がないのだが。
「ただいま」
「あ、ローグ。おかえり」
家に帰ると、ニアが出迎えてくれた。
俺はニアに軽い挨拶だけして自室に駆け上がると、部屋の扉を開ける。
「ハイちゃん、ただいま!!」
「........(モスー!!)」
部屋の扉を開けると同時に、ハイちゃんは俺の胸の中に飛び込んできた。
俺はそのままはいちゃんを抱き上げると、そのモスモスな体の中に顔を埋める。
これじゃ猫吸いならぬモス吸いだな。
「スーハー........癒される........」
「........(モスッモスッ)」
疲れた体と心が洗われていく。これがモスの力........!!ハイちゃん恐るべし。
俺はその後、ハイちゃんと仲良く遊び、暇をしていたニアも呼んで2人でハイちゃんを可愛がるのであった。
モスは正義。異論は認めない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます