許可が無い‼︎
モフモフとした癒しが欲しいという事で、街を歩いていたら偶然出会ったトルンに連れられやってきたペットショップ。
ここには様々な動物や魔物が飼われており、その子達を買うことも出来るそうだ。
チラッと見ると、そこにはポヨポヨと揺れながら暇をしているスライムの姿が。
スライム........窒息........うっ頭が。
「大丈夫か?」
「あ、いや、スライムに窒息死させられた記憶が蘇っただけだから大丈夫」
「あー、私も経験あるわ。でも大丈夫。この子達は人を襲わない子達だからね。むしろ、主人の事が好きになれば甘えてきてくれるし、一緒に戦ってもくれるぞ。何故か全く人気がないけど」
「そりゃそうよー。普通、殺されたことがある子を傍に置こうとは思わないわ」
「そうか?塔に出てくるスライムと、この子達は違うだろ?」
「そういう話じゃないのよー」
やれやれと言わんばかりに首を振るトルン。
スライムというのは塔の序盤に出てくる定番の魔物らしく、かなり多くの人がこのスライムに殺された経験を持っている。
うちのクランメンバーはもちろん、バーバラなんかもスライムに窒息死させられた事があるそうだ。
そんなスライムをペットとして飼いたい!!と言う人はかなり少ないだろう。
塔の中にいるスライムとは別物だと理解していたとしても、やはり本能的に恐怖感や嫌悪感を感じてしまうのが人間というものだ。
「可愛いんだけどな........いつもポヨポヨしてて、可愛くないか?」
「殺されたことがなかったら可愛かった」
「そうねー。殺されたことが無ければ可愛いかしらねー」
可愛いっちゃ可愛いけど、殺された記憶がフラッシュバックするので却下。
先に出会って、この子を可愛がっていたらまた違っただろうが。俺はこの世界に来て最初にスライムに殺されているんだよ。
「魔物がいいか?動物がいいか?まずはそこから聞くべきだったな」
「どっちがいいとかあるの?」
「魔物の方が基本賢い。上下関係をしっかりと作れれば、言うことを聞いてくれるしこちらのやりたいことを察して甘えてくれる。動物はその点あまり賢くは無いが、塔だのトラウマが呼び起こされる心配がないな」
そんな動物のメリット初めて聞いたんだけど。
動物を可愛がるメリットに“殺された記憶が蘇ることはありませんよ!!”とか言われても困るよ。
理解出来ちゃうけども。
こんな所でも異世界を感じるとは。
「ちなみに、トルンは蛇を飼っている。ホワイトスネークと言う、魔物だな」
「最初はお世話が大変だったけど、可愛いのようちの子はー。ご飯を丸呑みしてお腹が大きくなっちゃって動けなくなるとか、ちょっとおっちょこちょいなの」
「へぇ、蛇を飼ってるんだ」
俺数少ない友人には蜘蛛を飼っている奴がいたが、蛇も飼えるもんな。
ちなみに、ハエトリグモのめーちゃんとおーちゃんと言う名前で、写真で見せてもらったのだが、どっちがどっちかまるで分からなかった。
意外と可愛かったというのは覚えているけど。
「今回はモフモフした子がいいって話だから、蛇は無しだな。ってなると........ウルフはどうだ?番犬にもなるぞ?」
「この前生きたまま食われたんで却下で」
「あー、経験済みか。なら、ウサギはどうだ?」
「お、それはいいかも」
という訳で、ウサギさんを見せてもらう。
純白に輝くその毛皮とつぶらな瞳。
こうしてマジマジと見ると、滅茶苦茶可愛いんだなウサギって。今度からウサギ肉とか食えなくなりそう。
「触ってみるか?」
「え、いいの?」
「お前、自分の想像していたモフモフじゃなかったらショックだろ」
なるほど。確かにそれはそうだ。
モフモフにも色々と種類がある。自分の望んでいるモフモフを選びたいわな。
フーロはうさぎを取り出すと、ここを撫でてみろと背中を指さす。
俺はその指示に従って優しく背中を撫でてやると、ウサギは気持ちよさそうに目を細めた。
可愛い!!すごく可愛い!!
撫でてるだけで癒されるよこの子!!
「慣れてるのねー」
「私が世話してんだからそりゃ人にも慣れるさ。どうだ?可愛いだろ」
「すごく可愛い!!........世話のことを考えるとちょっと頭が痛くなるけど」
「お、ちゃんとしてるじゃないか。そうだな。ひとつの命を預かるんだから、そこら辺もちゃんと考えなきゃならん。ローグはそこら辺の貴族とは違って、ちゃんとしてるな。ちなみに、この子は滅茶苦茶世話が面倒だ。攻略者にはおすすめしてない」
ならなんでウサギを提案したんだよ。
そう言いたくなるのをぐっとこらえつつ、俺は名残惜しくもウサギを撫でる手を止めた。
ごめんな。俺、半日近く家を空けるから面倒が見れないんだ。
流石にクランメンバーに世話をお願いする訳にも行かないし........あ、そういえば、うちのクランハウスってペットOKなのか?
やべ、既に買う気満々で来ていたのだが、最も重要なことを忘れていた。
最低でもエレノワールの許可は取らないとダメじゃん!!なにやってんの俺!!
「どうした?」
「エレノワールやクランメンバーにペット飼っていいか聞くのを忘れてた」
「あちゃー、そりゃダメだな。クランハウスに住んでるんだろ?ならちゃんと許可は取らないとな」
「すいません。お手数をお掛けして........」
「いやいや気にすんな。買った翌日に“なんか違う”とか言って返却してきたり、あからさまに違う怪我なのに“噛まれた!!”とか言って金を要求して来たわけじゃないんだから」
アッハッハ!!と笑いながらそういうフーロだが、全く笑い事ではない。
今の言葉の感じ的に、実体験だろそれ。
この世界にも面倒な客っているんだな。俺も半分それになり掛けている気もするが。
「それに比べたら、礼儀正しくていい子じゃないか。見るだけ見てやっぱりやめたってやつも多いし。どうしてエレノワールって周りに集まるやつはマトモなんだろうな?」
「エレノワールちゃんは頭がおかしいものねー。何をどうやったらあんな子に育つのかしら?」
「ニホン........だったか?あの国だとあれが普通なのか?」
違います。少なくとも、爆破物を作った時点で逮捕案件です。
やはりエレノワールは頭のネジがぶっ飛んだやつだと認識されているのか。
やる時はやるかっこいいクランマスターだが、普段が残念すぎるのも事実なんだよなぁ........
「ま、とにかく今日は色々な子と触れ合ってみようか。裏に魔物達が自由に出歩ける部屋があるから、そこでゆっくりとお茶でもしながら癒されるといい」
「あ、私も行きたい!!」
「いいぞ。どうせ今日も暇だしな。客があまり来なくて困るんだよ。魔物を飼ったりするのはあまり一般的じゃないからな」
「そうねー。私もシロちゃんを飼ってるって話したら驚かれたし、あまり動物とかを飼う人は少ないわよねー」
「お陰様で、私の収入源は魔物の生え変わった歯とか、鱗なんだよ。一応かなり希少な子も揃えてあるから何とかなってるが、これ以上は増やせないよな」
この世界だとペットを飼うのは一般的では無いのか。
「それに、こういう魔物を取り扱う店は大商人の方に人が流れるからな」
「そこで雇って貰えないの?」
「いや、昔は雇ってもらってたりもしたんだが、私は思っていた以上に自分の自由にできない仕事にストレスを感じるタイプでな。無理すぎてやめた」
「昔から、人の好き嫌いが多いものねー」
「うるさいぞ」
本人も社会不適合者に片足を突っ込んでいるのか。
うちのクランマスターに比べたらマシな気がするけど。
こうしてその日は、フーロにお茶をご馳走になりながら可愛い魔物や動物達と触れ合った。
謝礼としてお金を渡そうとしたのだが、断られてしまった。
ところでこれ、商売になると思うんだけどどうなんだろう?
後書き。
モフモフいいよねモフモフ。私は動物の世話とか無理だから、ぬいぐるみとかクッションで代用するけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます