第二の試練

休暇


 塔の試練の一つをクリアし、みんなに祝ってもらった翌日。


 俺は久々に休暇を取って街に買い物の行く事にした。


 お金がめちゃんこ溜まっており、少しぐらい散財してもええやろと言うのはもちろん、普通に連日死にまくってちょっと疲れたというのもある。


 トレーニングでもするかとか最初の頃は思っていたが、トレーニングする暇なんてない。


 だって塔の試練をやるだけで一日が過ぎるんだもん。しかも、アホみたいに走るからトレーニングになるし。


 おかげで、わずか二週間足らずで俺はかなり体力が着いたと思う。


 塔に入ることそのものがトレーニングだとは思わなかったよね。


「おっちゃん、これ1つ」

「はいよ。150ゼニーだ」


 この街はよくある異世界モノに似ている。


 祭りの日でもないのに屋台か幾つか並んでおり、好きなように買い物ができるのだ。


 俺は気になっていたけど買わなかった串焼きをひとつ買ってかぶりつく。


 うーん。いい匂いがしていたから買ってみたが、これならリリーの料理の方が断然美味しいな。


 クランで料理を担当してくれているリリーの料理は一級品。みんなお腹を掴まれているので、俺達はリリーに逆らえない。


 この串焼きには、そんな拘束力は無かった。


「世話が少なくて賢いモフモフなペットとか欲しいなぁ........帰ってきたらモフモフで出迎えてくれるような子が欲しい」


 今日、街に繰り出した理由は休憩を摂ると言うのもあるが、疲れた体と心を癒してくれる可愛いペットのような存在が欲しかったからと言うのもある。


 死んで生き返った後のバーバラの手がモフモフなのが悪い。しかも、滅茶苦茶優しくていい人過ぎるから心までもが洗浄される。


 流石に奴隷とかは日本人である俺の倫理観的に受け付けないが、かわいい動物に癒されたい。


 そんなわけで、俺はペットショップとかないかなと思い街を散策しているのだ。


「こうして街をちゃんと見ながら歩くのって2回目とかだよな。エレノワールに異世界チュートリアルをしてもらった後、ずっと塔に潜ってたし」


 何気にあまりしっかりと見ていない街並み。


 大体クランハウスを出たら一直線に塔へと向かっていたため、こうして街を歩くだけでも新鮮な気持ちになる。


 街はかなり賑わっていた。


 毎日のように煩いこの街。昼間は特に人通りが多い。


 野菜を売るおばちゃんや、肉を売るおっちゃん。こうして見ると、ちゃんとした異世界である。


 塔と言う少し特殊な存在があるだけで、基本は変わらないんだな。


 その少し特殊な存在が世界観に大きく影響を及ぼしている訳だが。


 ここにいる人達の中で、死を経験したことがある人はどのぐらいいるのだろうか。


 半数?いや、もしかしたら、全員一度はあるのかもしれない。


「お?君は........」


 そんなことを思いながら街を散策していると、ふと後ろから声をかけられる。


 振り返ると、そこにはいつぞやのお世話になった床屋の人がいた。


 えぇと、確か名前はトルンさんだったはずだ。


「お久しぶりですトルンさん」

「おー!!やっぱりローグ君だねー!!」


 ドワーフと呼ばれる、背の小さい長寿種。ドワーフと言えば、ずんぐりむっくりとした体型に髭を生やしたオッサンなイメージがあるが、この人は普通に可愛い女の子と言った感じである。


 雰囲気が大人っぽいからドワーフだと分かるが、見た目だけなら完全に人間の子供なんだよな。


 この街には多種多様な種族が住んでいるから、普通に間違われることとかありそう。


「どう?この世界は。エレノワールちゃんと同じ出身だったわよね?」

「はい。何とかやっていけてますよ。少なくとも、エレノワールからお小遣いを貰わずともやって行けるぐらいには」

「それはすごいじゃない!!まだ二週間とかでしょう?塔の報酬が余程美味しかったのねー」

「それなりに安定して稼げます。だから今日は買い物に出ているんですし」

「へぇ?買い物?何か探し物でもあるの?」


 うーん。実はモフモフが欲しい!!というのがちょっと恥ずかしくて、クランメンバーにペットショップとかあるのか聞いてないんだよね。


 ちょうどいい。トルンとは知らない仲ではないし、この人なら優しく教えてくれるだろう。


「実派攻略後に心を癒してくれるような動物を探していまして。どこかに売ってたりしませんかね?」

「あるわよー?動物のみならず比較的安全な魔物も売ってる場所が」


 あるんだ。しかも、魔物を売ってる場所が。


「どこにあります?」

「案内してあげるわよー。私もよくお世話になっているところがあるの」


 という訳で、トルンに案内されてやってきたのは、大通りを外れた少し狭い道に立っている店であった。


 看板には“営業中”と書かれている。


「“調教師”って言う才能を持っている子が開いているお店でね。色々な可愛い子たちがいるのよー。もちろん、買えるわ」

「へぇ!!それは凄い。どんなのが居るんですかね?」

「ふふふ、それは入ってからのお楽しみよー!!」


 トルンはそう言うと勢いよく扉をバン!!と開ける。


 この人は扉を壊さないと気が済まないのか?下手したら壊れてるような勢いだったぞ。


「フーロちゃーん!!来たわよー!!」

「もっと優しく扉を開けろ馬鹿トルン!!この子達が怖がるだろうが!!」


 勢いよく扉を開けたことに対して講義をするフードを被った女性。


 全体的に暗い雰囲気を纏っており、片目は長い髪に隠されていた。


 薄暗い青色の髪と、紫色の目。そして、身長が滅茶苦茶高い。


 多分180cmを超えてるぞこの人。


 フーロと呼ばれた女性は、面倒くさそうに席を立つとトルンの前までやってくる。


 大人と子供........いや、それ以上の身長差がありそうだ。


「ふふふ、フーロちゃんに会えると思ったらつい」

「ついじゃねぇよ。で?何の用だ?お前が飼ってる子が体調でも崩したのか?」

「いえ、違うわよー。ローグちゃんが癒しを求めているらしいから、ここに案内してあげたの」

「ローグ?聞いたことの無い名前だな」

「そりゃそうよ。二週間前にこっちに来た子なんだから。ちなみに、エレノワールちゃんの所でお世話になってるわ」

「........なるほど。だいたい理解した。私はフーロ。この店の店主で調教師だ。動物や魔物と言ったペットが欲しけりゃウチに来な。そこら辺の店よりいい子達を揃えてある」

「ローグです。よろしく」


 フーロと握手を交わしつつ、俺は店内を眺める。


 外から見た時は少し小さめの店かと思ったが、中はかなり広い。


 そして、そこには色々な動物や魔物が展示されていた。


 その構図は正しくペットショップ。ペットショップって異世界にもあるんやな。


「癒しが欲しいんだって?どんな子がお望みだ?」

「も........モフモフな子がいいです」


 なんだかちょっと恥ずかしくなってしまい、下を向いて答える俺。


 そんな俺を見たフーロとトルンは顔を見合わせるとニヤッと笑う。


「おいおい。可愛いじゃないか。モフモフな子を欲しいのか?お姉さん達が色々と教えてあげるとしよう」

「フーロちゃん、お姉さんという歳じゃもうないでしょう?」

「おっと?急に殴られたぞ?何もしてないのに。と言うか、この中じゃお前が1番歳だぞトルン」

「人間と長寿種を並べられてもねぇ?人間で言えば私はまだ20そこそこよー?」

「嘘つけ。既に100年以上生きてるくせに」

「傷ついちゃうわー」


 あの、女性特有の陰湿な喧嘩早めて貰えます?それならまだ俺を弄って貰えた方が気が楽なんですけど。


 なお、その後きっちり弄られた。


 ちょっと恥ずかしがったのが、そんなに面白いのかコノヤロー。

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