クランマスターのお仕事


 俺と同じくして死に戻ってきたのは、我らがクランマスターことエレノワールであった。


 彼女は起きてくるなりギャーギャー騒いでおり、その試練が納得いかなかったという事がよく分かる。


 どんな試練の内容なのかは知らないが、理不尽に殺されたんやろうなぁ.......


「あ?クランメンバーが来てんのか?誰だ?」

「新入りだよ。クランマスターとして恥ずかしいところを見せていいのか?」

「ローグか。おいローグ!!見せもんじゃねぇぞオラァ!!」

「アンタは田舎のチンピラかよ。ウチのクランマスターは行儀が悪いな」


 カーテン越しに“見せもんじゃねぇぞ”と騒ぐエレノワール。


 こんなのがウチのクランマスターだと言うのだから、悲しくなってくるね。


「騒ぐならさっさと出ていけ。なんでお前はいつも煩いんだ」

「けっ、お前も14階層まで登ってみれば分かるさ。理不尽な死に方が多いったらありゃしねぇ。ちょっと気を抜いたら、あっという間に見つかるんだぞ?どうな目ぇしたてらあんな場所から私を見つけられるんだよ!!」

「油断したお前が悪い。以上」

「かぁー!!ド正論すぎて何も言えねぇ!!」

「ほら、帰れ。次いでに新人も連れてな。私はお前と違って暇じゃないんだ」

「私だって暇じゃねぇよ!!クソぅ........また作り直しか........」


 エレノワールはそう言うと、俺のところのカーテンを開ける。


 真紅に染った赤髪を揺らしながら、彼女はニィと笑っていた。


 死んだというのに笑っていやがる。エレノワールも生粋の攻略者なんだな。


「帰るぞ........って、すごい量の報酬だな」

「今までで一番攻略が進んでな。お陰で持ち運ぶのも一苦労なぐらいには報酬を貰った」

「ほー、これだけ稼げるんなら、小遣いをやらなくても良さそうだ。自分のケツを拭けそうで何よりだよ」

「トイレの仕方をようやく覚えたって訳だ。飯の食い方もね」


 今回の報酬の量は凄まじい。


 エリートステージで出てきた魔物の素材は全てあるし、魔石も大漁。これを売るだけでそこそこの金になるだろう。


「売っぱらって来るよ」

「全部売るのか?私も手伝ってやるか。次いでにギルドで飯も食おう。今日はリリーも仕事で遅くなるって言ってたしな」


 という訳で、素材を持って攻略者ギルドへとやってくる。


 夕方よりも少し早い時間に来た為か、思っていたよりも人が少なかった。


「エレノワールの報酬は?」

「嫌味かお前は。失敗したんだから報酬はねぇよ。今日の稼ぎはナシだな」

「エレノワールでもそういう日があるんだ」

「当たり前だ。金を稼げる時は稼げるが、稼げない時はとことん稼げない。攻略者は一種のギャンブルさ。金の代わりに命を懸けたな」

「死んでも生き返るからまだ温情なのかね?」

「馬鹿言え。誰だって死ぬよりかは生きている方が好きだっつーの。偶に死ぬのが好きな変態も居るがな」


 死ぬのに慣れすぎて死ぬことに快楽を覚えるタイプかァ........さすがにそれな見習ったらダメなやつだな。


 人として終わってしまう。死に慣れすぎて、現実と塔の中の区別すら付かなくなってしまうぞ。


 そうなれば終わりだ。人生が。


「よぉ、シャーリー。相変わらず綺麗な金髪してんな」

「口説くにしてももう少しいい口説き文句があるのでは?エレノワールさん」

「女の私がお前を口説くかよ。ウチの新入りがルーキーが莫大な報酬を手に入れたんだ。換金を頼むよ」

「あ、ローグさん。どうですか?こちらの生活は」

「悪くないですよ。これで死ぬ事がなければ最高でしたね」

「あはは!!それは言えてますね」


 カウンターに今日得た報酬を並べ、換金してもらう。


 今日はかなりの稼ぎになるはずだ。第一階層を突破しただけで3万とかも会えたから、12万ぐらいはあるかな?


 そんなことを思っていると、エレノワールが俺に手を置く。


 そして、小さな声で呟いてきた。


「顔を動かさず、視線だけ右に向けろ」

「........?急に何?」


 エレノワールに言われたとおり、俺は視線を右向ける。


 すると、そこにはムキムキマッチョの怖い顔をしたスキンヘッドのおっさんとモヒカンのおっさんがいた。


「汚物は消毒してそうだな」

「おう、私も同じことを思ったよ。あいつら、私たちを狙ってるぞ。小さい奴らだ」

「ん?どういう事だ?」

「カツアゲだよカツアゲ。ここら辺じゃ見ない顔で、こちらに興味のない顔をしつつも視線がこっちに向いている。敵意も感じるな」


 つまり、奴らは俺の収益を横取りしようとしているわけだ。


 どこの世界にもいるんだな。そう言う奴は。


「で?どうしたらいいんだ?」

「さすがに攻略者ギルドの中で堂々とカツアゲなんてしないから、しばらく待っていればいい。だが、今回は別の方法を取るとしよう。この街にやってきたばかりの田舎者に、都会の厳しさを教えてやるのさ。ちなみに、女を取り合って喧嘩すんのは犯罪じゃないが、カツアゲは犯罪だぞ」


 真剣抜いて殺し合いをしている時点でどっちも犯罪だよ。


 俺はそう突っ込みたいのをグッと我慢しつつ、シャーリーさんから報酬を受け取る。


 お値段なんと18万6500ゼニー。


 つい一週間前まで高校生だった俺には、あまりにも重すぎる大金であった。


 ちなみに、この世界の金は紙幣と硬貨である。


 日本と余り変わらない貨幣をしているので、困ることは無い。


「気をつけてくださいね」

「心配すんな。それと、衛兵を呼んでおけ」

「はい。もちろんです」


 俺が金を受け取ると、シャーリーさんがそんなことを言ってくる。


 俺はまだ攻略者になったばかりで分からなかったが、あの二人はかなりあからさまに動いていたのだろう。


 これも経験の差ってやつなのかね?


 本来ならここで夕食を食べるのだが、エレノワールは一旦外に出ることを提案。


 俺はこの世界での先輩の言葉に素直に従い、ギルドを出て少し人通りの少ない脇道へと向かう。


「さて、ここら辺でいいか。出てこいよ私を知らないモグリ野郎。お望み通り、舞台は用意してやったぜ」

「........よく気がついたな」


 建物の影から、先程エレノワールが言った通りの人物が現れる。


 世紀末な世界に生きていそうなモヒカンとスキンヘッドは、それ以上の事は言わずにそれぞれ武器を取り出した。


「金を出せ。そしたら見逃してやる」

「ローグ、お前はそこで見てろ。こういうのは、クランマスターの仕事なんでな」


 エレノワールはそう言うと、深紅の紙を揺らしながらスタスタと歩いていく。


 そして、2人の前に立つと首をコキコキと鳴らしていた。


「ほら、サッサと掛かってこいよ。どうせ見掛け倒しの筋肉なんだろ?」

「........死んでも文句は言うなよ」

「けけっ、やっちまうぞ!!」


 斧と剣がエレノワールに襲いかかる。


 刹那、全てが終わっていた。


「遅せぇよタコ。静かにくたばっとけ」


 無駄のない動きでスキンヘッドの顎を弾き、もう1人は雑に蹴り飛ばす。


 スキンヘッドの男は完全に気絶し、もう一人のモヒカンはその場に膝をつく。


 強い。


 一緒に仕事をした時とはまるで動きのキレが違う。あの爆発させまくってた時は、かなり遊んでいたな?


 これが攻略貴族。武力によって得た権力者の力。


 エレノワールは倒れ込むモヒカンの頭を掴むと、何やら小さく囁いていた。


「おい、田舎野郎。私のクランメンバーに指一本でも触れてみろ。お前の胃に爆薬を仕掛けて腹から吹っ飛ばしたあと、魔物の餌にしてやるからな。私の、仲間に、手ぇ出すんじゃねぇよ」

「は、はひっ........」

「チッ、ここが街の中じゃなかったら殺してたのにな。残念でならん」


 エレノワールは何かを言った後、パン!!とモヒカンの顎も弾いて気絶させる。


 正直に言おう。


 エレノワール、クソかっけぇ。




 後書き。

 ただのテロリスト予備軍ではないエレノワール。やるときはやる女なのだ。

 ちなみに、自分のクランにクソデカ感情を持っているため、被害とか出た瞬間にそいつは国に居られなくなる(下手したら地上から消える)。街で一番の、怒らせたらヤベー奴。

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