初見ボスは大体無理ゲー


 第五階層に足を踏み入れた俺は、その後も馬鹿げた農作ビルドで無双しまくった。


 気持ちよすぎる。これがあるからローグライクは辞められない。


 地面を叩けばあら不思議。敵が倒れて俺の勝ち。


 そんな楽しい楽しい時間も、やがて終わりがやってくる。


 事故死を恐れ、エリートステージを会えて踏まなかった俺は順調に攻略を続けて第五階層のボス戦の前までやってきていた。


「イベントステージで下振れを引かなくて助かったな。それだけが怖かったし」


 第五階層は計10ステージもある。


 その中にはもちろんイベントステージも用意されていたのだが、可もなく不可もなくといった無難なイベントだけが来てくれた。


 スキルカードを得るだったり、オーブを得るだったり。


 事故が怖かったのでできる限りイベントステージは避けて通ったのだが、やはり踏まざるを得ない時が必ずやってくる。


 その度に祈ったものだ。どうか下振れイベントだけは勘弁してくださいと。


 その祈りは塔に届いたのか、下振れを引かなかったのは最高という他無い。


「さて、ここが最後のボス戦だと思うんだが........どうなんだろうな?」


 俺はそう言いながら、ボス戦に挑む前に休憩を取り万全の状態で挑む。


 ゆっくりと体を休めたあと、俺は意を決してボス戦へと望んだ。


 さて、ローグライクの初見ボスステージにおいて、最も大切なことは何か?


 最高のビルドで気持ちよくなること?


 否。


 クリアすること?


 否。


 正解は、ギミックをちゃんと理解することである。


 第三階層でのボス戦でもそうだが、ボス戦とはギミックとの勝負だ。


 適度に相手のギミックに付き合いつつ、自分の火力を通すことにある。


 ボスゴブリンのステージなんかがいい例だろう。盾持ちをちゃんと剥がしてから戦う。無理に攻めずギミックに付き合う。


 もちろん、火力で全てを押しつぶすみたいなやり方もできるが、初見のボスならちゃんと相手を理解した方がいい。


 あー攻略Wikiが欲しいよ。攻略Wikiがあれば、それを見て対策を立てられるのに。


 まぁ、つまり何が言いたいのかと言うと、ボス戦って基本的に初見じゃ勝てない。


 死ぬことを前提に、できる限り多くの情報を持ち帰るのが今回の目標である。


 初撃に即死攻撃があったら知らん。その時はクソゲーって言いながら暫く萎えて不貞腐れるね。


「一発即死がないことを祈りつつ。いざ行かん」


『第五階層、最終ステージ“始まりに終わりを告げる時”。クリア条件、全ての敵の殲滅』


 なんかかっけぇ名前のステージやなと思いつつ、俺は開けた平原に一歩踏み出す。


 何度もお世話になった平原ステージ。


 木の位置が違ったり、魔物のリポップ位置がバラバラで初動で死にかけたこともあったが、何かと戦いやすい場所だ。


「........なんだありゃ。ゴブリンの形をしたスライム?しかも片腕がウルフの頭になってんぞ。そしてデケェ」


 ステージが始まり、ボスが現れる。


 そこに居たのは、俺の知る魔物とはあまりにも違った形容をした魔物であった。


 言うなれば、キメラ。


 青く透き通るスライムの体をしたゴブリン(右腕がウルフの頭)とか言う、どこか生命への冒涜を感じる見た目であった。


 大きさもかなりでかい。少なくとも俺の三倍近くはある。


「とりあえず背中を取るか。先制攻撃させてくれたらいいんだけど」


 俺はそう言いつつ、まだ発覚していないことをいい事に背中へと周りこもうとする。


 が、相手はボス。そこまで優しくはない。


「────!!」

「やべ、バレた」


 まだかなりの距離があるというのに、こちらに相手が気がつく。


 そして、ウルフの頭をこちらに向けてきた。


 ウルフの口が開いており、そこに何やらエネルギーのようなものが集まっている。


 絶対遠距離攻撃だろあれ。ウルフの口からブレスが飛んでくるだろ。


「おいおいおいおい。勘弁してくれよ」


 俺はそう言いながら、回避行動を取りつつ接近を開始。


 バレた以上近づくしかない。


 少しでもダメージを与えること、そしてできる限りの生存が今やるべき事だ。


 ピュン!!(ウルフの口からビームが放たれる)


 ドゴォォォォォォォン!!(着弾した地点が大爆発を起こす)


 ........ファッ?!威力が違いすぎたろ!!


 今まで弓でチクチクしたり、酸性の液を吐いてきたり、風の刃を打ってきたのとは訳が違う。


 まともに一撃くらったら即死は免れない様な一撃。


 どう頑張っても死ぬ未来しか見えない。


 ........シールドのオーブを意地でも手に入れるべきだったかもしれん。あんなん一発貰ったら回復ポーション使う間もなく死ぬわ!!


「ふざけやがって。ボス戦だからって張り切りすぎだろ」


 俺はそう言いながら、大剣を担いで射程範囲内に入る。


 そして、思いっきり地面に大剣を叩きつけた。


「オラァ!!肥料になれや!!」

「────!!」


 先ずは挨拶代わりの一発。


 ボスはこの一撃をまともに食らい、少しの間体がぐらついたがまだまだピンピンしていた。


 反撃とばかりに、今度は左腕を振り下ろしてくる。


 ん?この距離だと届かないぞ?


 距離感を見誤ったとは考えにくい。となれば、ここまで攻撃を届かせる手段があるはず。


 俺は一旦攻撃の射線上から離れると、その横を凄まじい勢いで何かが通過する。


 ズドン!!という音と共に、地面から砂煙が上がる。


「レーザービームの次は剣かよ。体はスライムだから変形できますってか?」

「─────」


 ボスの左手に持っていたのは剣。


 いや、持っていたと言うか、変形したという方が正しい。


 右手はサイコガン、左手は剣。何かそんなキャラどっかにいなかったか?


「射程が伸びてやがる。近づくのも大変そうだな」


 俺はそう言いながらも、今まで培ってきた技術で攻撃を避けながら射程範囲ギリギリで攻撃を当て続けた。


 有難いことに、現状奴の動きは振り下ろしとレーザービームしかない。


 横に薙ぎ払ってくるような攻撃が来たら対処に困っていただろうが、それが無いだけまだ優しさの範疇なのかもな。


「ビームの時にタメ........振り下ろしから戻る時に隙ができる。行動はランダム。剣の範囲かそうじゃないかで行動が決まってるな。今のところ、その場から動く様な場面もなしか」


 頭の中だけで行動の整理をするとゴチャゴチャしてしまう。俺は分かった事を口に出しながら、とにかく行動パターンを暗記していく。


「ビームから振り下ろしまでの時間にディレイが無い。振り下ろしを誘発して殴るのが安牌か。剣の射程は俺よりも長い。踏み込みが悪さをしているな。踏み込む瞬間に殴れたら転んだりしないか?いや、俺の技術的に無理だな」


 とりあえず今は安牌を取るべき。さすがにギミックも分からない相手に気持ちよくなろうと思うほど俺も快楽主義者ではない。


 確かに初見のボス戦は捨てゲーではあるが、できるなら攻略したいのだ。


 相手の剣の間合いで戦いつつ、地道に攻撃を与えていく。


 7~8発殴った頃だろうか。


 ついにボスが違う動きを見せた。


 ボスはガクッと膝を着くと、剣を盾に変える。


 そしてウルフの口の中から、小さくなったボスが姿を現した。


 しかも、かなりの数。


「─────!!」

「マジかよ。子分を召喚してきたぞこいつ!!」


 ある程度は体力を削ったから第二形態突入ってか?


 それはいいが、いくら何でもチビボスを量産してくるのはやりすぎだろ。


 その数、ざっと数えた感じ50体近く。


 全員がボスと同じ姿をしており、正直気持ち悪い。


「農作ビルドじゃなかったら対処できなかったかもな。とりあえず、こいつらを処理してみるか」


 俺はそう言うと、今度はチビボスとの勝負が始まるのであった。

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