壊れちゃった


 中断セーブができる所までやってきた俺は、一旦セーブをして塔の外に戻る........なんてことは無く、昼食を食べて少しゆっくりした後に第四階層へと足を踏み入れた。


 ローグライクをやったことがある人には分かるだろうが、ローグライクを途中で中断すると大体再開した時に下振れる気がするのだ。


 後、強化内容とか普通に忘れがち。


 なんかモヤモヤするので、俺はクリアするか死ぬまでゲームを続けるタイプである。


 どうしても中断しないといけない時はそうするけどね。


 飯の時間とかになってもゲームやってたら怒られるし。


 そんなわけで、スキルカード報酬を受け取ってやってきましたは第四階層。


 前回も潜ったが、その時は2連続で下振れイベントを引いて爆速で死んだ記憶しかない。


 ほんまイベント........ほんま........


 この塔の試練において、絶対に引いてはならない体力減少系イベントを何故二回も連続で引く?


 いい加減にしろよ。今回も1回引いているしよぉ。


「破壊カードの強化。これは期待できそうだな。攻撃力と範囲を大幅に上昇。今から使うのが楽しみだぜ」


 ボス戦を終えて得た報酬、“破壊のスキルカードを強化”。


 効果は破壊の攻撃力と範囲を大幅に強化するものらしく、この破壊を主軸とした破壊ビルドにとってはとても相性のいいものであると予感していた。


 どれほど強くなるのかは知らんが、少なくとも普通にスキルカードを貰うよりは強化されていることだろう。


 もし、全ての破壊のスキルカードのグレードをふたつあげるとかだったら、無双確定である。


 だって(小)の効果が(大)になるってことだろ?


(極小)の射程が1メートル(小)の射程が2メートル増加だったことを考えれば、(大)では4メートルになるはずだ。


 本当に剣を地面に叩きつけるだけで無双できるバカゲーが始まるかもしれない。


 そんな期待を胸に、俺はルートを選ぶ。


 ふむ、エリートが通れるかつイベントステージが少ないところを選ぶか。


 俺は“緑色の平原”を選ぶと、早速ステージに飛ばされる。


 第四階層を攻略していた時は、2連チャンでイベントを引いて爆速で死んだため、詳しいステージの内容があまり分かっていない。


 あの時は“黒色の森”だったか?こちらが魔物を視認する前にボコられたよな。


 思いっきり腕を食いちぎられたからウルフだったとは思うが。


「生きたまま食われる経験をするとは思ってなかったよ。この試練は本当に死に方だけは豊富だな」


 俺はそう言うと、ステージ攻略を開始するために一歩踏み出す。


 さて、予想通りの相手が出てくるのだろうか?


『第四階層第一ステージ“緑色の平原”。クリア条件、全ての敵の殲滅』


 見慣れたウィンドウの先に現れたのは、20体近くのゴブリン達。


 ボスゴブリンがザコ敵として出てこないのは嬉しいが、その持っている武器がかなり豪華になっていた。


「うげ、盾持ちいるじゃん。しかも、弓持ちも見えるな........」


 自分たちの体を覆い尽くす程のデカイ盾を持ったゴブリンが、5体も見える。


 しかも、盾の隙間からは弓を持ったゴブリンも見えた。


 ボスゴブリンが居ないだけで、残りは全部ボスステージで出てきたゴブリンが居そうな雰囲気だ。


 となると、残りの10体は鉄剣持ちか?


 とりあえず、初動で事故がなかっただけ喜ぶとしよう。


 この試練、いきなり目の前に魔物の群れが現れるとか当たり前だからな。


「とりあえずスキルカード強化の恩恵がどこまであるのか試してみるか。ちょっと遠くから一発ぶち込んで様子見だな」


 というわけで、気が付かれないようにある程度接近。


 ゴブリンの弓持ちはかなり目がいい。


 平原ステージということも相まって、割と遠くから知覚されてしまったが、お互いに射程範囲外なので焦る必要は無い。


 もう少し近くで。


 俺はそう思いながら、ゴブリン達に近づく。


 15メートル範囲に入ったぐらいだろうか。


 いつもならば射程範囲外であるはずなのに、弓持ちが攻撃を開始してきた。


「チッ、やっぱり強化されてるか。予想はしてたからいいけども」


 俺はそう言いながら、山なりに落ちてくる弓を避ける。


 これ、俺が避ける事を予測して矢を落とすようになってきたらクソ厄介だな。


 今はまだゴブリンの知能が低いからいいが、知能の高い魔物が出てきたら苦しい戦いになるかも。


 まだ対策は必要ないが、いつの日か対策に迫られそうだと思いつつ俺は、矢を避けながら自分の一撃が届く範囲よりも少し遠い位置までやってくる。


 ここなら届くはずだ。破壊カードの強化の力、見せてくれよ!!


「喰らえ!!」


 ドゴォォォン!!


 スキル2破壊縦斬を使用したその瞬間、自分のいた足元が陥没する。


 俺は一瞬バランスを崩し、運悪く自分に落ちてきた矢が肩を掠めた。


 痛いと思った瞬間、痛みが消える。


 そして、盾を持っていたゴブリンはもちろん、弓持ちや剣持ちのゴブリンが全てその場に倒れてしまっていた。


「........へ?」


『ステージクリア。4ゴールド獲得。スキルカード報酬をお選びください』


「........へ?........へぇ?」


 その光景に俺はしばらくウィンドウではなく、倒れたゴブリン達を眺めていた。


 さすがに予想外すぎる。


 範囲も馬鹿げているが、それ以上に威力もぶっ飛んでやがる。


 おい、カード一つ強化しただけでバランスがぶっ壊れたんだが?


 塔君、バランス調整ちゃんとした?これぶっ壊れてるんだけど。


 実はとんでもねぇ上振れを引いていたのか。


 同じスキルに同じ破壊強化のカードを注ぎ込んだ上で、スキルカード強化で破壊を引くと一撃でザコ敵が死ぬんだな........


 ローグライク初心者は、上振れているかが分からないとは言ったが、確かに上振れているのか分からなかった。


 俺もまだまだだな。あれこれ、同じスキルカードを集めて強化した方が強くね?


 ........ともそれだと序盤の安定性に欠けるのか。


 今回はいい感じにオーブも集められたから、こんなバカみたいな結果になったのかもしれない。


「何気に、サラッと傷も治ってるし........吸血の効果もちゃんと確認できたのはいいけど、それどころじゃないな」


 ゲームバランス壊れちゃった。


 本当の地面を叩くだけで敵が溶けるビルドが完成しつつあるぞ。


 後は事故防止の為にシールドのオーブとかそこら辺を確保したら、ラスボスまで行けるんじゃないか?


「ふへ、ふへへへへ」


 気持ち悪い笑みが浮かぶ。


 あーこれだよこれ。何も予想してない時に急にぶっ壊れるローグライクって楽しいよな。


 序盤は硬派な感じで進んで、ある程度まで行くと急にぶっ壊れるの本当に楽しい。


 俺、こういう系のゲーム大好き。


「分かってんじゃん塔君。俺の趣味がさ」


 一撃で相手を吹っ飛ばせる。それ即ちヌルゲーの始まり。


 今からは、地面を叩くだけで敵が吹っ飛ぶクソゲーの始まりだ。


 え?そんなゲームが楽しいのかって?


 最初から最後まで無双ゲーだったらつまらないが、運ゲーで最初は苦しいからこそこういう瞬間が楽しいんだろうが。


 立ち回りもクソもありゃしない。ここからは俺の時間だ。


「ミスって死んだ時が悲しすぎるから、最低限の安全マージンだけは確保しないとな」


 ここで死んで全部リセットとか笑えない。


 ローグライクは一期一会。再現性がある程度あれど、同じビルドを組むのはほぼ不可能だ。


 似たようなのは作れたりするが。


 この偶然の出会いが楽しいのだ。この偶然のシナジーが楽しいのだ。


 今からは俺の時間だ。魔物共が追いつくまでの間は楽しませてもらうぞ。


「ふへへ、ふへへへへ!!」


 気持ち悪い笑みを浮かべながら、俺はウッキウキでスキルカードを選ぶのであった。


 もちろん選ぶのはスキル2の強化。


 消費魔力が減ったので、更に使いやすくなったことだろう。




【大幅に強化】

 大幅に強化の場合は、基本的にカードの強さが二段階上がると考えてもらって構わない。

 つまり、破壊(小)が破壊(大)になったのだ。そりゃ強い。





 後書き。

 塔の試練、壊れる。

 ちなみに、馬鹿みたいに上振れてます。

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