意外と使いやすい


 片手剣を廃業し、大剣使いへとジョブチェンジした俺は、大剣のスキルを確認した後ステージ攻略を始める。


 今回はスライムの平原ステージ。


 視界もよく、そして最初のステージなので敵が密集しない何ともありがたいステージだ。


 ここで使用感を確かめ、今後どのような運用方法を試そうか考えるとしよう。


「ハロー、スライムちゃん。悪いが、この大剣の使用感確認の実験台となってくれ」

(ポヨヨヨン?!)


 俺は早速孤立していた一体のスライムに目星をつけると、接近して大剣を振り下ろす。


 スキル2破壊縦斬。


 大剣を思いっきり縦に振り下ろすだけの単純な攻撃方法だが、大剣という質量が全てを解決してくれる。


 ドゴォン!!


 と大きな音を立てながら、スライムは一撃で弾け飛んだ。


 やはりと言うべきか、片手剣よりも火力が高いな。


 今の一撃、片手剣ならばスライムを倒せてなかっただろうし。


 パワー系の武器なんだろうなぁとは思っていたが、まさしくその通りだ。


 振り下ろした大剣によってできた地面の割れた後が、その照明をしているのだから。


「そういえば、“破壊”の付与があるって言ってたな。それの確認もしておかないと」


“破壊”。


 以前第三階層のボスを倒した時に得たオーブに、破壊のオーブというものがあった。


 効果は全てのスキルに“破壊”を付与。


 破壊とは、地面や木々、魔物への攻撃が成功した場合周囲へダメージを与えるというものである。


 つまり、範囲攻撃だ。


 片手剣の場合はオーブによって付与されたが、大剣の場合は最初から付与されている。


 破壊力の権化。即ち、周囲も薙ぎ払う一撃。


 分かりやすくていいじゃないか。俺は好きだよこう言うの。


 一撃の破壊力を限界まで引き上げて、周囲へのダメージもあげれば破壊ビルドなんてものが作れるかもな。


 普通に強そう。


「となれば、次は二体で行動してるやつを吹っ飛ばしてみるか」


 という訳で、単体のスライムくん達には退場していただき、最後に残った二体のスライムへ近づく。


 片手剣ならば、一体を確実に持っていくためにシールドバッシュで近づいてスキルを全部吐いていたが、果たして大剣はどうなるのだろうか?


((ポヨン!!))


 ポヨポヨと平原を歩いていたスライムがこちらに気がつく。


 俺は気が付かれた瞬間にスキル1破壊突進を使用。


 大剣の腹を縦のように構えながら突っ込む技であり、シールドバッシュと同じように攻撃をガードしながら突っ込める移動技だ。


 先程確認したが、片手剣のシールドバッシュよりも移動速度が遅く、距離も短い。


 しかし、走るよりも早いので、管理はしっかりとしたい所である。


「オラァ!!」


 ドゴォン!!


 と、ポヨポヨなスライムから聞こえるはずもない音が響く。


 大剣に突撃されたスライムだったが、この一撃は何とか耐えた。


 シールドバッシュもそうだが、突撃系のスキルはほかのスキルに比べて威力が低そうだ。


「ハッハッハ!!やっぱり周囲を巻き込んでダメージを与えてるな。これは楽しくなりそうだぜ」


 そして、攻撃を食らってないはずのスライムも明らかにダメージを貰って弱っていた。


 破壊の効果強ぇ!!ザコ戦が一気にやりやすくなる上に、結果的にスキルの節約にもなるな。


 ボス戦が少し不安だが、あのクソ面倒な盾持ちに対して一気に火力を叩き込めるとなれば、その爽快感は凄まじいだろう。


 まぁ、同じボスが来るとは思えないが。


「オラァ!!破壊縦斬!!」


 ドゴォン!!


 2発目の破壊。


 それは弱っていたスライム達を的確に捉え、そして絶命させる。


 まだこの塔の試練に慣れてなかったというのを加味しても、スキル2つで二体のスライムを同時に持って行けるのは強い。


 最初は移動速度とかの問題があるから心配だったが、思ってたよりも悪くないな。使いやすいぞ。


「スキル主体の戦闘スタイルでやるなら、大剣の方がポテンシャルが高いかもな。片手剣はどう考えても途中で通常攻撃を挟む系の武器だろうし」


 片手剣はスキルの威力が大剣よりも低く、スキルだけで戦うと火力不足に陥ることが多かった。


 恐らく、スキルを使わない通常攻撃を交えてやるのが本来の片手剣なのだろう。


 しかし、俺にそんな技能は今のところない。


 なので、スキルでボカーン!!する大剣の方が相性がいいのかもしれない。


『ステージクリア。4ゴールド獲得。スキルカード報酬をお選びください』


 大剣と片手剣の違いを考察していると、ステージクリアの画面が出てくる。


 今回は残念ながら“飛斬”が出てこなかったので、大人しくスキル2の攻撃力上昇(極小)を選んでおいた。


 というか、全部攻撃力上昇(極小)とか嫌がらせかよ。クールタイム減少とかが欲しかったのに。


 そう思いながら、次のステージへ。


 次は、ウルフの丘である。


「移動が少し早いウルフに対して上手くやれるか?まぁ、攻略方法はある程度確立してるから、なんとかなるか」


 各個撃破。


 それが今のところ安定して強い。


 こう言う攻略法をひとつ編み出しておけば、ある程度事故死は防げるものである。


 やり方が分かれば、ある程度のところまでは行けるのがローグライクだ。尚、下振れは除く。


 踏みたくもないイベントマスを踏んで下振れた時がやばいよな。それで何度死んだか覚えてないぐらいには死んでるわ。


 俺は頭が痛くなりつつも、ウルフと勝負する。


 所詮は第一階層のザコ戦。武器が変わろうが、そこまでボコられることも無く無事に突破できた。


 これ、スキル2がかなり強いかもな。


 地面に叩きつける攻撃だから、外しても必ず破壊の効果が発動する。脳死スキル2ブンブンビルドとか作ったら面白そう。


 次から次へと新たなビルドのアイディアが浮かんでくる。


 あー、早くこの塔の世界をしっかりと理解して気持ちよくなりてぇ。通常攻撃パチンコビルドとか、弾幕ビルドとか、破壊ビルドとか作りてぇ........


「ダメだぞ俺。気持ちよくなるのはまだまだ先だ。とりあえず、安定した攻略ができるようになってからじゃないと........」


 気持ちよくなる為にも、今はまず攻略をしっかりとするべきなのである。


 全てのスキルカードを理解して、スキルオーブを理解して、武器の仕様とそのステージの敵の配置や攻略法を理解してようやく気持ちよくなれるのだ。


 基礎も分からないやつが、気持ちよくなれる権利を持つはずもない。下ブレを引いても攻略できるぐらいには上手くならないとな。


「さて、報酬はなんですか?」


 早く無双したいなと思いつつ、俺は報酬欄を覗く。


 すると、片手剣では出てこなかったスキルカードが出現していた。


「おんおんおん?スキル1の“破壊”強化(極小)?どういう事だ?」


 破壊強化の意味は理解出来る。


 が、それはつまりスキルの攻撃強化と破壊の強化は別であるということなのだろうか?


 いやでも、スキルにデフォルトで付いている“破壊”なんだから、スキルの攻撃強化も適応されるんじゃないの?


 出たよ。塔の悪い所。


 もっと細かく書いてくれ。


 破壊の強化は一体何が今日かされるんだ?火力か?それとも範囲か?その両方か?


 スキルの攻撃強化におけるスキルカードは、破壊まで強化する訳じゃないのか?


「........これも検証か。早めに出てくれたお陰で取りやすいし、取っておくか」


 いい感じに進んでいる時に検証はできない。だってクリアしたいから。


 そう考えれば、この速いタイミングで出てきてくれた事は感謝するべきだろう。


 どうせどこかで死ぬのは確定しているしな。今回も捨て回だと思って諦めて検証を頑張るか。


「あー、でも死にたくはないんだよなぁ........痛いし、苦しいし」


 俺は文句を言いながらも、結局破壊強化のスキルカードを選ぶのであった。




【破壊】

 魔物や地面、木々などに攻撃が当たった際に発動される効果の1つ。その当たった場所を中心として、約2メートル程(強化前)の衝撃派を放ち敵にダメージを与える。

 オーブやスキルカードのでの付与、または大剣の場合は最初からこの破壊が付与されている。

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