雑巾絞り‼︎


 昼食中に自分の死に方を語ると言う地球では経験できない経験をしながら、俺達は昼食を食べ終えてゴブリンの村が確認された場所までやってきた。


 確かにそこにはゴブリンの村と呼べるような家が存在しており、多くのゴブリン達が活動している姿が見える。


 今はまだ村の規模が大きくないから問題ないが、さらに大きな規模になれば人類の脅威となり得るだろう。


 場合によってはゴブリンと人間の戦争にまで発展する。


 危険な芽は早めに摘まなくてはならない。


「ローグ、検証は終わったか?」

「もう十分だよありがとう」

「いいってことよ。自分の才能、秀では能力が気になるのは当たり前だからな。俺もリリーもニアも、似たような事はしたよ」

「検証している時のローグさん、とても楽しそうでしたね」

「僕も最初の頃はあんな顔をしてたのかな?」


 一体どんな顔をしていたんだ俺は。


 早期になってしまうほどには、クランメンバーからの視線が生暖かい。


 なんだか急に恥ずかしくなってきたぞ。1人でテンション上がってはしゃいでたら、親が部屋に入ってきた様な感覚だ。


 そう思うと、急に頬が暑くなる。


「おい、顔が赤くなったぞ。可愛い顔もできるじゃないか。一部の層からは大歓喜が上がるだろうよ。バーバラとか」

「やめてやれ。バーバラさんには世話になってんだから。それにしても、人ってここまで急に顔が赤くなれるもんなんだな」

「ふふっ、ローグさん面白いです」

「僕も似たようなことがあったから、笑えない........」


 顔が赤くなった事がバレ、あっという間に弄られる俺。


 やめて。恥ずかしいから弄らないで。そんな事したら塔に引きこもるよ。ローグライクだけに生きるソロプレイヤーになるよ。


 ........いや、別に弄られなくても塔には引きこもるか。楽しいし。何よりクリアして気持ちよく無双したい。


 そんなことを思っていると、エレノワールがあるものをポケットから取り出す。


 ビー玉サイズの小さなそれは、明らかにやばいものであると俺の本能が告げていた。


「んじゃ、お掃除を始めようか。ゴブリンがこの規模の村を作るってことは、恐らく上位種がいるはずだ。私の予想だと、ゴブリンメイジ辺りだと思うから、みんな気をつけてね」

「ローグさんはどうしますか?」

「リリーが守ってあげて。私は守るのに適してないし。どうせなら先輩風でも吹かさないとね。ムサシ、好きに暴れていいよ」

「原因を探るまでが仕事じゃないのか?」

「んなもん殺した後でも探せるでしょ?という訳で、レッツゴー!!」


 エレノワールはそう言うと、ビー玉サイズの小さな玉をゴブリンの村にぶん投げる。


 コロコロと地面に落ちたビー玉。


 数秒後、その玉は想像もできないほどの爆音を奏でる。


 ドゴォォォォォォン!!


 森が、木々が、大地が、空気が揺れる。


 あの小ささからは想像もできないほどの轟音と衝撃。


爆発爆破爆撃ボマーボマーズボマー”なんて言われている所以を、俺は初めてこの目で見た。


「開戦の合図が雑なんだよ。相変わらずな。もう少しお淑やかにできないのか?」

「誰に物言ってんだムサシ。私は全部ぶっ飛ばすのが好きなんだよ!!」

「なんでこいつが日本に居た時にテロリストとして扱われなかったのか不思議でならんよ。ニア、行くぞ」

「はい!!頑張ります!!」


 爆発の音を合図に、ムサシとニアが突っ込む。


 ムサシは腰に下げた刀をしっかりと構え、ゴブリンと接敵すると同時に抜刀。


 刹那の間に切り裂かれたゴブリンは、胴体が綺麗に分断されて絶命する。


「久々に新入りが来たんだ。格好付けさせてもらうぞ」

「あ、ムサシそこ危ない」

「へ?うをぉぉぉぉ?!」


 めっちゃ格好つけて居たムサシの所に、ゴブリンの残骸が吹っ飛んでくる。


 吹っ飛ばされたゴブリンの元を見れば、そこにはクソデカ大剣を二本、空中に浮かべて振り回すニアの姿があった。


 あの、すいません。その大剣どこから出したんですかね?


 しかも、あの戦い方見たことあるぞ。レバーを半周回したら極太ビームが打てそう。


 男の子でありながら、このクランメンバーの中で一番可愛いニアきゅん。しかし、その戦い方があまりにも可愛さからかけ離れているのは言うまでもない。


 大剣を力任せに叩きつけ、ゴブリンを一刀両断。


 そしてゴブリンの頭を野球のボールとでも思っているのか、大剣でホームランを量産していた。


 その1つがムサシの方に飛んでしまったわけだな。


「危ねぇだろニア!!もっと周りを見ろよ!!」

「ご、ごめんなさい。塔の試練感覚でやっちゃった........」

「ほらほら喧嘩しない。新入りが見てんだからもっとカッコよくやろうよ!!」


 いや、既に無理があるよそれは。


 しかし、強い。


 異世界もののゴブリンは大抵序盤のかませ犬にされるのが常だが、この世界のゴブリンは普通に強い。


 塔の試練の影響もあって、俺はゴブリンをザコ敵だとは全く思わないのだ。


 そんなゴブリンが、俺の頭を二度もかち割ってくれたゴブリンが、無双ゲーの雑魚ばりにバッタバッタとなぎ倒されていく。


 爆破され、ぶった切られて、叩き潰される。


 これが塔の加護によって力を得た攻略者の戦い方。


 連携もクソもありゃしない。純粋な力でゴリ押して、力こそパワーと言わんばかりに暴れている。


「みんな楽しそうですね。こうしてみんなで狩りをする機会は少ないですから」

「リリーは混ざらなくてよかったの?俺も自分の身を守れるぐらいには強いつもりだけど」

「ゴブリンに殺されるとは思ってませんよ。塔の中ならともかく、外ならね。ですが、ほら、この戦いの余波に巻き込まれて無事だとは思えないので」

「........まぁ、そうだな」


 そっか。みんな周りのことなんて考えずに暴れているから、俺が巻き込まれるのか。


 真の敵は敵ではなく味方だったという訳である。


 と、その時、草木の影がガサガサと動いて一匹のゴブリンが姿を現した。


 普通のゴブリンよりも大きいその姿........あ、こいつ第三階層でボスやってたヤツじゃん。


「ホブゴブリンですね。私もちょっとはいい所をお見せしましょうか」


 へぇ、こいつはホブゴブリンって言うのか。俺の想像していたホブゴブリンと違いすぎるが、それはそれこれはこれだしな。


 そんなことを思っていると、持っていた棍棒をホブゴブリンが振り上げる。


 俺は盾を構えながら迎撃しようと試みたその時、ホブゴブリンの動きが止まった。


「どんな死に方がお望みですか?とは言っても選ぶ権利は貴方にありませんがね」

「グギャァァァァ!!」


 動きが止まったホブゴブリンが、空中に浮かび上がり悲鳴をあげる。


 ギリギリと、何やら嫌な音が聞こえ始め、やがてホブゴブリンの全身から骨がへし折れる音が聞こえ始める。


「雑巾絞り!!なんちゃって」


 グシャ!!と、リリーの可愛い掛け声とともにホブゴブリンがひしゃげる。


 一体どんな力を使ったのかは不明だが、なにかやべーことをしたのは分かる。


 普通、生物はあんな風に絞られないんだよ。


「私も中々強いでしょう?」

「そ、ソウダネ........」


 間違ってもリリーを怒らせないようにしよう。多分、彼女を怒らせたら俺もホブゴブリンみたいになる。


 俺はリリーは可愛いけどやばいと言う事を脳裏に刻み込むと、先輩攻略者達の大暴れを眺めるのであった。


 ゴブリンがゴミのように吹き飛ばされ、あっという間に死んでゆく。


 これが攻略者達。これが攻略者の姿。


 どうやら俺は頼もしい先輩達が付いているようだ。


 ちょっとみんな楽しくなり過ぎたのか、目がキマッちゃってるけども。

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