お昼ご飯


 スキルが問題なく塔の外でも使える事、そして塔の外でもローグライクができることを確認した俺は、エレノワール達にお願いしてちょっと魔物を融通してもらった。


 自分の今出来ることを確認したいと言うと、エレノワール達は快くこれを承諾。


 自分達も似たような経験があった為か、懐かしい目で俺を見ていた。


 結果から言うと、スキルカードの取得条件は討伐数である可能性が高い。


 スキルカードを三枚取得するまでは七体の魔物を倒すだけでよかったが、その後、試練の内容と同じく討伐数が増えていった。


 まぁ、レベルが上がると報酬が貰えると考えれば、妥当な感じだな。


 ローグライクゲームはRPG要素もある(ゲームによる)ので、これはこれで悪くない。


 しかし、スキルオーブの獲得条件が不明であった。魔物を倒しても獲得できず、5回目のスキルカード取得で貰えるかな?とか思ったが、そんな事もない。


 もしかしたら、塔の外でスキルオーブを獲得する手段は無いのかも。


 後はこの強化状態で塔の試練に挑めるのかと言う事を確かめれば、とりあえずは検証終了かな。


 これは明日辺りになりそうだ。


「リリーちゃんお手製サンドイッチ!!おい野郎共。可愛い美少女の手作り料理だぞ、泣いて喜べ」

「言うていつも作って貰ってるだろうが。それと、作ったのはリリーであってお前じゃない。なんでそんなに偉そうなんだよ」

「いつもありがとねリリー」

「いいんですよニアさん。私の趣味ですから」


 色々と実験に付き合わせてしまったがために、時刻は昼をすぎている。


 ということで、森の中で昼食を食べようという事になった。


 リリーが作ってくれたサンドイッチ。新鮮な野菜と肉を挟んだだけのものだが、とても美味しそうである。


 この世界の食品は割と地球と似ているらしく、名前こそ違えどレタスやベーコンのようなものもあるそうで食事には困らない。


 美味しいものを食べている時がいちばん幸福を感じると答えた人が多い日本人にとって、食材問題はとてもデリケートなものなのだ。


 ちなみに俺は、自分が考えていたビルドが完璧に完成して無双している時が一番の幸福を感じる。


 やはり、ローグライク。ローグライクは幸せすらも享受する。


 それ以上に理不尽とストレスが着いて回るが。


「どうですか?ローグさん。お口に合いますかね?」

「とても美味しいよリリー。ありがとう。おかげで午後も頑張れそうだ」

「それは良かったです。この後はゴブリンの村に襲撃しますからね。しっかりと英気を養って下さい」


 漫画の話ばかりをするリリーとは、そこそこ仲がいい。


 今の所彼女と話す機会が多いし、何よりエレノワールの言う通り美少女である。


 癒しだな。ニアと並んで癒しとなってくれている。


「リリーも攻略者なんだよな?」

「はい。もちろんですよ。7階まで攻略しています」

「おー。凄い........のか?いまいちそこら辺が俺はまだ分かってないんだよな」


 この世界に存在する塔。


 実は、この塔が最高で何階まであるのかは判明していなかったりする。


 確か、エレノワール曰く、31階が人類の最高到達点とかだったはずだ。


 10階まで登れば、貴族として扱われるということを考えると7階まで登っているのはすごいのかもしれない。


「凄いな。この世界に来て二年で7階まで攻略しているんだから。そこら辺の攻略者よりもリリーの方が偉いんだぞ?」

「そうなんだ。他のみんなは?」

「俺は10階だな。11階から難易度が跳ね上がって足踏みしてる」

「僕は6階だよ。まだこの世界に来て一年だけど、かなり早いペースじゃないかな?」

「ニアも相当おかしなペースで昇ってるよな」


 へぇ。ニアも既に6階まで登っているのか。


 ニアは俺がこの世界にやってくる一年と少し前にこの世界に来たそうだ。


 エレノワールが10年前にこの世界に来て、その二年後にムサシ、そして6年間という長い間を開けて、リリーが2年前にこの世界にやって来て、ニアが一年前に来たらしい。


 そして今、俺が1週間前にやってきた訳だ。


 エレノワールはどのような期間、どのような法則でこの世界に地球の人々がやってくるのかも調べているらしいが、未だに多くのことは分かっていない。


 唯一の仮説としては、この塔の試練に適性のある人物がやってくるという事だけなんだとか。


「1年後に俺にも後輩ができたりするのかね?」

「さぁな。もしかしたら、ローグが最後の来訪者になるかもしれんし、それはなんとも言えない」

「確か、適正のある人物がやって来ることはわかってるんだよね?」

「少なくとも、この5人は適性があるだろうよ。ゴブリンに頭をかち割られたとしても、笑いながら次の日には塔に挑むんだからな。攻略者としての適性があるって訳だ」

「中には一度死んで諦めるやつも多いからな........リリーやニアが初めて死んだ時とかかなり心配だったし」

「懐かしいですね。精神崩壊して自殺したあの日が」

「懐かしいなぁ。餓死したあの日が」


 2人とも笑えない死に方をしてんな。


 特にリリー。


 どう聞いても地雷としか思えない死に方をしている。どんな試練だったのか気になるが、地雷臭がすごすぎて聞けないよ。


 しかも、初めて死んだ時って事はこの世界に来たばかりの頃だ。となれば、一階層を攻略していたこととなる。


 えっぐいな。第一階層から精神崩壊を引き起こして自殺するような試練........想像もつかない。


「私は爆死したな。あれは忘れられん」

「俺は餓死だな。ニアと同じだ」

「........あれ?もしかして俺がいちばんまともな死に方してる?」


 エレノワールは爆死、そしてムサシもニアと同じく餓死。


 死な方にまとももクソも無いが、少なくともそれらしい死に方をしているのは俺なのかもしれない。


 窒息死がまともな死と言われる世界。


 嫌すぎる。


「確かにそうかも。ローグは異世界らしい死に方をしてるよね。最初から」

「その後もゴブリンに二回撲殺されて、一回はオオカミの餌だっけ?一番まともな死に方かもな。じわじわと弱って死んでいく餓死よりはマシかも」

「全身吹っ飛ばされるよりはマシかもな。いやー腕が吹っ飛んだ時は本当にキツかった」

「自分の頭を打ち付けながら自殺するよりはマシですかね?人間、自殺しようとしても意外と死ねなくて困ります」


 先程からリリーの言葉が重すぎる。


 怖いよリリーちゃん。一体どんな試練が彼女には与えられたのだ。


「ま、いつかローグも経験するだろ。最初は“そんな死に方したくないなぁ”と思ってても、嫌でもやらさせるからな。私も自殺したことあるし。いや、私の場合は失敗による事故死か?」

「切腹って思ってたよりも簡単に死ねなくて困るよな。昔の武士が首を切り落とす理由が分かった気がしたぞ」

「走馬灯って慣れると見なくなるんだよね。ローグもそこまで行けたら1人前かも」

「そんな一人前はこちらから遠慮したいね........」


 そんなんだ。死になれる走馬灯とか見なくなるんだ。


 俺、最初から特に走馬灯とか見なかったけど、既に何回か死んでいた........?


 やったね!!俺はもう1人前だ!!(白目)


 そんな馬鹿げた話をしつつ、昼がすぎていく。


 エレノワールが言っていた通り、この世界の住人は死を肴に飯を食う。


 どんな死に方をしたのか、どんな死に方が楽なのか、そんな食欲が失せる話ばかりをしていた俺は既にこの世界の一員なのかもしれない。


 でも、エレノワール。流石に怪我をした場所を放置していたらウジが湧いて焼いて塞いだとか、そういう話は勘弁してくれ。


 今食ったもんを吐き出しちゃう。

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