あれ?弱くね?


 ゴブリンの村の調査をする事となった俺達は、街の南側にある森へとやってきた。


 エレノワールに追いかけ回された過程で、既に塔の外でもスキルが使える事は確認できている。


 あとは、このスキルの強化ができるのか、そしてスキルオーブなどの取得は可能なのかと言う検証をしておけば、ある程度のことが分かるだろう。


「お、ゴブリン見っけ。ローグやってみるか?」

「やってみるよ。塔の中と外の違いも色々と確認しておきたいしね」


 森に入ると、早速ゴブリンの群れが出迎えてくれる。


 俺達にはまだ気が付いていないので、不意打ちからぶった斬ってやるとしよう。


 ただし、今回は死んだら本当にゲームオーバー。塔の中にいた時のような気軽さで戦いに行けないので、さらに慎重に行くとしよう。


 とりあえず逃げにも使えるスキル1は温存。残りのスキルでどれほど戦えるのかを確認しなければ。


 俺は、森の中を移動し、素早くゴブリン達の裏を取る。


 そして、一気に飛び出して攻撃を仕掛けた。


「ギギェ?!」

「オラァ!!」


 もちろん、ゴブリンも真後ろまで人影がやってきたら反応する。


 しかし、俺の方が圧倒的に有利な状況であり、攻撃は既にゴブリンに届いていた。


 スキル2振り下ろしを使い、ゴブリンの一匹をぶった斬る。


 ........ん?あれ?


「グギェ!!」

「よっと。ほい、なぎ払い」

「グギャァァァ!!」


 ゴブリンの遅い攻撃を上手く避けつつ、スキル3なぎ払いを使用。


 ゴブリンの胴体は真っ二つに切り裂かれ、ゴブ/リンになってしまった。


 ん?んん?


 さらに残りのゴブリン達に近づくとスキル4大回転を使用。


 ゴブリン達は為す術もなく、あっという間に死に絶えたのであった。


 あれ?あれれ?


 と、ゴブリンの群れを始末したことろで俺は首を傾げる。


 あれ?弱くね?と。


 塔に出てくるゴブリンは、無強化状態の攻撃を最低でも1発は耐えてくる。


 これが意外と面倒で、一体が盾役をしている間に他のゴブリンが攻撃を仕掛けてくるなんて事が多発するので各個撃破の動き方が必要となるのだ。


 しかし、しかしである。


 塔の外のゴブリン達はあまりにも弱い。スキル一つで倒せてしまったら、それはもうヌルゲーになるに決まっている。


 あれこれ弱くね?


 俺が強くなった訳でもないから、単純にゴブリンが弱いと思うのだが。


「やるじゃないかローグ。さすがはゴブリンに二回撲殺されただけの事はあるな」

「おちょくってんだろそれ。それにしても、弱くないか?塔のゴブリンなら、今の一撃を耐えてたはずだぞ。一発殴って逃げようと思ってたのに........」

「これが塔の中と外の近いだよローグ。僕も最初に同じことを思ったけど、基本的に塔の試練に出てくる魔物の方が外の魔物よりも強い傾向にあるんだ。もちろん、その人の試練の内容によって異なるし、偶に滅茶苦茶強い個体が塔の外にいる時もあるけどね」


 お疲れ様と言わんばかりにタオルを渡してきてくれるニア。可愛い。本当に可愛い。


 静かににっこりと笑いながら解説をしてくれるニアは、血にまみれたゴブリンたちを見た後だとすごく染みる。


 なんだろう。心が浄化されている気がするぞ。


「それにしても、塔の中の方が魔物は強いんだな。かなり警戒してたのに」

「警戒する分には越したことはない。死ぬ確率が減るからな。だが気をつけろよ?塔の中の方が強いとは言っても、こいつらは魔物だ。油断すればあっという間に食われて死ぬ。ゴブリンだからって舐めてかかったやつが、泥水に足を掬われて死んだ姿を見たことがあるからな。所詮私達は人間さ。異世界モノのように、チートを使って暴れられる程優しかねぇ」

「それはそうですね。気をつけた方がいいですよ。割と普通に死にかけますから」

「俺も1回ミスって死にかけたな。ある程度生活に慣れた時期に調子に乗って、スライムの群れな一人で突っ込んで死にかけたわ。やっぱり数は正義だよ」

「あー懐かしいな。当時はお前も数に対処する方法が少なかったし、森を歩き慣れてなかったからな。おかげで転んでパニクって死にかけてたっけ」


 へぇ。そんなことがあったのか。


 多分、この世界の人類は、力は付けられるけど耐久力は据え置きみたいな感じなんだろう。


 もちろん、才能によって多少は上下するが、タコ殴りにされれば当たり前のように死ねるような紙装甲と言うわけか。


 地球の人間と同じだな。人を簡単に殺せるだけの力を手にしたが、簡単に殺されない防御力を手にしていないのが今の人類。


 よくある異世界モノだと思って行動したら、速攻で死にそう。


 ........いやもう既に死んでるか(4敗)。


「そんな訳で、強くなっても所詮は人間であることを忘れるなよ。この世界じゃ常識だ」

「気をつけるよ」


 有難い先輩の忠告を聞きつつ、さらに森の奥へと足を進める。


 そういえば、スキルカードが手に入ってないな。


 数が条件か?それとも、そもそも手に入らない仕様なのか?


 そんなことを考えていると、さらに魔物が現れる。


 俺の初めて(死)を奪ってくれた、スライムだ。


 どうやら一匹でいるらしく、何やら楽しそうにポヨポヨと揺れている。


「えい」

(ポヨヨン!! )


 はい。さらばスライム。


 そのスライムも一撃か。やはり基本は、塔の外の魔物は中の魔物よりも弱いのだろう。


 そして、それは急に訪れた。


『規定の数の魔物を討伐しました。スキルカード報酬をお選びください』


 お、ここに来て報酬か。


 塔の内部にいないのに、青い半透明のウィンドウが目の前に現れる。


 どうやら、俺の力はこの塔の世界の外にまで及ぶらしい。


 これで強化についてはあまり悩む必要は無いかな?まだ検証が必要だが、少なくとも規定数魔物を討伐することでスキルカードを得られるらしい。


「ん、急に立ち止まってどうした?トイレならそこら辺の影ですればいいぞ」

「トイレじゃないよ」


 俺はそう言いながら、青い画面を見つめる。


 見えてないのか。


 あからさまに目立っているはずのこの画面は、俺にしか見えていない。


 才能がバレる心配はなさそうだな。


 ちなみに、選択肢は攻撃強化系が二つと、射程増加が1つ。


 我らが正義の“飛斬”がないので、無難にスキル4の攻撃強化を選んでおいた。極小だけど、ないよりかはマシだからね。


「........」

「ローグ?どうしたんだ?さっきから様子がおかしいぞ?」

「いや、なんでもない。ちょっとスライムに殺された記憶が蘇ってイラッとしただけだ」

「あー、あるよな。俺もよくある。特に塔に潜った翌日にその殺された魔物への憎悪が凄くなる」

「分かります。私も過激になっちゃうんですよね」

「分かるよ。僕も結構過激にやっちゃうかも」

「私は爆破させるだけだからいつもと変わらんぞ!!」

「お前はもう少し自重しろエレノワール」


 とりあえず適当に誤魔化しておいて、俺はゆっくりと考える。


 倒した魔物の数は7体。塔の試練において、第一ステージに出てくる魔物の数も7体。


 もしかして、塔の試練で出てくる数と連動している?


 そうなると、次も7体倒せばOKか。これは今日中に確かめられそうだな。


 後は、リセット条件とスキルオーブの取得方法。既にスキルカードを所持した状態で塔の試練に挑めるのかとか、そこら辺の検証が必要か。


 でもこれいいな。ここである程度カードの効果を知っておけば、塔の攻略で“何だこのカード?!”となる事が少なくなるかもしれない。


 あの余裕のない場所で検証とかできないからね。まだ外の方が心が休まる。


「あはは。ちょっと楽しくなってきたな」


 攻略Wikiは無いのだから、自分で全部探さなければならない。


 俺は始めたばかりのローグライクゲーム特有の手探り感が楽しくなりつつも、ゴブリンの村へ向かうのであった。

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