大剣ビルド

ピクニック‼︎


 死に対する倫理観があまりにもズレている世界に来てから、一週間が経過した。


 初めはどうなるのかと思ったが、エレノワールが日本人のために設立してくれたクランのおかげで俺は今結構楽しい異世界生活を送ることが出来ている。


 最初にスライムにぶっ殺された後、牢屋にぶち込まれそうになったからなぁ。あのまま日本人である事を言ってなかったら今頃どうなっていたのか、不思議でならない。


 ........エレノワールって、確かこの世界に10年前にやってきた最初の日本人なんだよな?


 彼女は一体どうやって今の地位を築き上げたのだろうか?


 少し聞きたい気持ちもあるが、地雷の臭いがプンプンと漂う。


 仮にも彼女は俺を救ってくれた恩人だ。地雷を踏み抜くような真似はしないし、迷惑になるような事もできる限り避けたい。


 そんな事を思いながら、今日もクソッタレの運ゲーに身を任せてみようかと思いつつ、既に用意されていた朝食を食べていると、エレノワールがやってくる。


「ふわぁ........おはようローグ。いい朝だな」

「今日は曇りだぞエレノワール。寝ぼけてるなら顔を洗ってきなよ」

「ん?........んー、あー曇りかもなぁ。リリー私の分のご飯も用意よろしく」

「はいはい。分かってますよー」


 エレノワール達と暮らし始めて分かったことだが、エレノワールは朝があまり強くない。


 一度ちゃんと目を冷ませばピンピンとしているが、寝ぼけている時は注意が必要である。


 この中で一番エレノワールと付き合いの長いムサシ曰く、朝寝ぼけすぎて階段から落ちる事が何度もあったそうだ。


「この世界はどうだ?ローグ」

「今の所楽しいよ。ムサシ達に拾われたおかげでね。一人だったら絶対まだ牢獄で臭い飯を食ってた」

「だろうな。俺も来たばかりの頃に食った事がある。あれはクソまずいぞ。人間が食うもんじゃない」

「ムサシも牢屋に入ったことがあったの?」

「ある。俺がこの世界に来たばかりの頃にな。そして、エレノワールに拾われた。今は確固たる地位を築き上げ、貴族だろうがなんだろうがお構い無しに傲慢な態度を取れるぐらいにはなったが、昔は本当に大変だったよ」


 そういうムサシの顔は、あまりにも疲れていた。


 余程のことが昔あったのだろう。でなければこんな顔はできない。


「んーあー。目が覚めた。おはようみんな」

「おはようございますエレノワールさん」

「おはよう」

「おはようございます」

「おはようさん」


 このクランハウスではエレノワールの起床がいちばん遅い。そして、エレノワールが朝食を食べ始める。


 俺は既に朝食、食べ終えていたので塔に向かう準備をしていた。


 塔の内部には、一応水と食料が持ち込める事が判明している。途中で携帯食料は買っておかないとな。


 そんなことを思いながら、今日は別の武器を試してみようかなと色々と考えていたその時。エレノワールが待ったをかける。


「あ、そうだローグ。悪いが今日の攻略は中止にしてくれ」

「ん?分かったけど、理由は?」

「お前、このクランハウスに来てから一週間、何をしてた?」

「何をしてたって、そりゃ塔の攻略だね。四回死んだよ」


 何が言いたいんだ?と首を傾げると、エレノワールはちょっと寂しそうな顔をしながら俺に訴えてきた。


「そう。塔の攻略だな。この世界に来て、軽く世界の説明をしたらあっという間に塔に引き篭もりやがって。普通、もっとこう、私達と親睦を深めようとかしないか?普通。正直ちょっと寂しかったぞ!!遊ぼうよ!!折角異世界に来た同胞達なんだから、もっと遊ぼうよー!!」

「えぇ........」


 急に駄々をこねる子供のように騒ぐエレノワール。


 精神年齢が急激に幼くなったエレノワールを見て、俺は困惑するしか無かった。


「出た。エレノワールの遊びたい病。新入りが来るといつもこれだ。普通この世界に来たばかりなら塔に入りたいだろ。俺達のような変わり者は特に」

「まぁエレノワールさんですからね。当時の私を無理やり引っ張り出しては遊びに連れていきましたし」

「僕の時もそうだったね」


 そして、そんな彼女の行動はもはや見慣れているのか、呆れた様子の三人。


 新入りが来る度にこんな駄々っ子みたいな事をしているのか?


 しかし、確かにエレノワールの言う通り俺はちょっとクランメンバーとの会話が足りない気がする。


 今の所まともに話したのはリリーぐらいで、その内容もほぼ漫画の話だけであった。


 エレノワールはチュートリアルしてくれただけだし、ムサシは換金のやり方を教えてくれたぐらい。ニアきゅんに至っては、このクランハウスの中ですらあまり話したことがない。


 まだこの世界に来て一週間しか経ってないが、されど一週間。これから更に長い付き合いになるのだから、もっとより深く彼らのことを知るべきだろう。


 攻略は楽しいが、時としてそれよりも重要なものはあるのだ。学校の勉強とか。


 試験一週間前に死ぬ気で詰め込むよね。ちゃんと授業を聞けばいいのに、毎回徹夜でゲームやって寝てるからね。しょうがないね。


 そして地獄の一週間が始まり、ローグライクを封印する。学生の悲しき現実だ。


「で、エレノワール。何をするつもりだ?とは言っても大体予想は着くが」

「よくぞ聞いてくれたムサシ!!実は既に攻略者ギルドからある依頼を奪っ────ごほん、貰ってきてな!!みんなでこれに行こう!!」


 おい今、“奪って”って言おうとしてなかったか?大丈夫なのかその依頼。


 この街で最も恐れられる頭のイカれた攻略者とまで言われるエレノワール。そんな彼女が持っていた依頼書は、面白そうなものであった。


「ゴブリンの村の調査及び殲滅?」

「そう。最近、街の近くでゴブリンの村が発見されてな。そこの調査をしようというわけだ。次いでに殲滅もよろしくって訳だな!!みんなでピクニックさ!!」

「ごめんなんで急にピクニック........?」

「無視した方がいいよローグ。エレノワールは楽しくなるといつもこんな感じて変なことを言い出すから。ほら、攻略者ってみんな頭がパーでしょ?その筆頭格なんだよウチのクランマスターは」


 自分の所のクランメンバーからもこんな扱いをされるクランマスターぇ........


 本当にこんな人が13階まで塔を攻略し、この国においてかなりの力を持った権力者なのか?


「あ、ところで俺武器とか持ってないんだけど........依頼を受けるってことは外に出るんだよね?」

「あーそこら辺の心配はしなくていいと思うぞ。どうせエレノワールが既に手配しているだろうからな。こういう時だけは行動が早いんだ」

「普段からその行動力の半分でも活かしてくれればいいんですけどね。この前ギルドマスターが怒ってましたよ。書類の提出があまりにも遅すぎて」

「あー怒鳴り込んできたやつだね。しかも、丁度エレノワールが居なかったから、僕らが相手したやつ........」


 なんと言うか、聞けば聞くほどエレノワールがダメ人間になっていく。


 大丈夫なのか?こんな人がクランマスターで。


 いや、感謝はしているが、心配とはまた別の問題だ。


 それにしても、街の外か。この世界に来てから塔にしか行ってなかったから、この街の外がどんな景色になっているかなんて考えたこともなかったな。


「なぁローグ。折角異世界に来たんだ。どうせなら、全部余すこと無く楽しまないとなァ?」

「それはそうだね。ありがとエレノワール」

「ハッハッハ!!私は気が利くんだよ!!それじゃ、みんな準備をして!!ローグの武器を選んだら早速街の外に出発だ!!」


 この世界に来て一週間。俺は初めて、街の外に出て、異世界を目にすることとなるのであった。


 そういえば、外でもローグライクの才能は発揮されるのか?


 丁度いい機会だし、色々と検証もしてみるか。もちろん、外の世界は死んだら終わりなので細心の注意を払いながら。

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