何とかやっていけそうだ


 初めてのボス戦。初めての中ボス撃破。


 そんなゲームでは心躍る激闘も、リアルとなればキツイ。主に体力面が。


 ここで言う体力はHPじゃなくてスタミナね。日頃から学校の体育以外で運動してこなかった弊害がここで出てくるとは思ってもなかった。


「こんなところでゲームとリアルの違いを感じるとは........明日からランニングでも日課にするか」


 そんなことを思いながら、俺は疲れた体をゆっくりと起こす。


 連戦しまくっていた時も、一応スタミナ配分は考えて戦っていた。とは言っても、基本は相手の隙を伺って殴るという戦法を取っていたので、そこまで疲れることもない。


 後、単純に奴らの足が遅く、シールドバッシュによる移動に頼っていた面もあった。


 が、ここに来て本気の鬼ごっこ。


 引きこもりにとって、その運動はあまりにもキツイ。


「あー体がだるい。今日はもうやりたくない........」


 そう思いつつ報酬画面を覗く。


 報酬はボス戦なだけあってかなり豪華だった。


「鍵は固定か?それともランダムか?そこが問題だよな。またここまで昇ってきて検証しなきゃならん。それと、知らんオーブがまた来たって」


 破壊のオーブ(極小)。


 えーと、効果は、全てのスキルに、スキル攻撃を命中させた又は地面などの障害物に当てた際、周囲にダメージを与える(極小)?


 つまりどういうことだってばよ。


 あれか?FPSゲームのロケットランチャーみたいに、範囲ダメージが追加されるよって認識でいいのか?


 ただし、与えるダメージは極小。このオーブをメインに立ち回る戦い方は無理だろうが、ちょっとした火力補助になるよと考えていいのだろうか?


「まぁ、次のステージでやれば分かるか。んで、次はスキルカードだな。ここは変わらん」


 そう言いながら、カードの選択画面を開くとそこには見たことの無いカードが並んでいた。


 いつもなら攻撃力増加や、クールタイム減少系のカードが並んでいるのだが、今回はそんなものがひとつも並んでいない。


 3つとも見たことの無いスキルカードであった。


「なんだこりゃ。

 飛斬カード強化(スキル3)

 炎属性カード強化(スキル2)

 スキル4に貫通効果を付与

 強化系のカードは初めて見たな」


 最後のスキル4に貫通効果を付与はとりあえず置いておいて、問題はカード強化だ。


 デッキ構築ローグライクにはよくあるシステムなのだが、既に構築されているデッキ内部のカードを強化することによってデッキをさらに強くするというシステムが存在している。


 カードゲームで言えば、新たな効果を付与したり、数値を上昇させたりするのだ。


 これが意外とバカにできない。


 例えば、10ダメージを与える攻撃が12ダメージを与える攻撃に強化されたとしよう。


 ターン制を採用していることの多いデッキ構築ローグライクは、この2ダメージの差が今後の勝敗を分けるなんてことはよくある。


 あーこれを強化していたら、今頃こいつ倒せてた。みたいな事が稀によくあるのだ。


 俺もそれで何度後悔したことか。


 まぁ、コスト0の攻撃をぶん回して殴りま来れば関係なし!!とか言って脳筋デッキとか組んだりしてたかともあったけど。具体的にはナイフ軸とか。


 おっと、伝わる人にしか分からない話をしてしまったな。


 ともかく、カードの強化はバカにならないのだ。それこそ、新たにカードを獲得するよりも有益な場合が多くある。


 今の塔の試練では、デッキ圧縮とかそういうのを考えなくていいので別だが、強化がどれほど強いのかは気になるのだ。


 という訳で、今回は飛斬カード強化(スキル3)を選ぶとしよう。


「どんな強化内容なのかを教えてくれないって結構意地悪だよな。デッキ構築型ローグだったら大問題だぞ」


 俺がそう言いながら次のステージに向かおうか迷っていると、ひとつの選択肢が現れる。


 今度はなんだ?と思いながら画面を見ると、そこにはとてもありがたく、そして当たり前すぎる選択肢が用意されていた。


『塔の攻略を一時中断し、塔の外に出ますか?(次回試練を受ける時、中断場所から始まります)』


 中断セーブだ。中断セーブがある。


 ローグライクはとにかく一プレイの時間が長い。ものによっては中断セーブができないゲームもあるのだが、多くの場合は途中で攻略を中断して次回に持ち越すなんてことが出来るのだ。


 勘違いしてはならないが、途中から再開できるだけであって、全ての能力、アイテムを引き継いで最初から強くてニューゲームができる訳では無い。


 あくまでも、攻略の途中でセーブができるだけである(再開して死んだらまた最初から)。


 これがゲームならば、強化した内容とか普通に忘れるのでセーブせずに死ぬかクリアするまで続けるのだが、今の俺は満身創痍。


 しかも、腹まで減って喉も乾いている。


 となれば、一旦攻略をやめて飯を食べゆっくりと休むことだって必要だ。


 ゲームは楽しいが、程々に。やりすぎ、良くない。


「一旦帰るか。塔の外の世界に。あー腹減ったし喉乾いたー」


 次の挑戦の時は水と食料を幾らか持ってこようかな。俺はそう思いながら、一時中断を選択し、目の前が真っ暗になるのであった。




【スキルカード強化】

 ボスを倒す、又はエリートステージクリアで得られるスキルカードの効果を強化するシステム。ボスの方が強化の選択肢が出る確率が高い。

 対応するスキルカードを持っていない場合は選択肢に出ないので注意。強化はどれも強力で強いが、場合によっては普通に新たなスキルカードを得た方が強かったりするので本人の技量が試される。




 ........


 ........


 ........


 勝った!!


 目が覚める。


 四度目ともなれば最早見慣れた天井と言っても差支えもないだろうその素朴な天井が、今日ばかりは死ぬことなく塔から帰還した俺を称えているような気がする。


 そう。初めて死なずに帰ってきたのだ。ゴブリンに撲殺されることも無く、スライムに窒息させられることも無く。


「おや、今日も来たのか。今日はどんな死に方をしたんだ?」


 そして、いつものようにバーバラが俺の様子を見に来てくれた。


 いつものように優しい目と、優しい口調。多分、同郷であるクランメンバー達を除いて1番話しているのが彼女である。


「フッ、今回は死んでない。死なずに塔から出てきたのさ」

「ほー?死んでないのにここにいるってことは、試練を攻略して次に挑まずに出てきたか、そのほかの要因ってことだな。通りで顔色が言い訳だ」

「多分後者かな。試練を攻略した訳じゃないしね」

「そうか。攻略できたのならなにか祝ってやろうかと思ったが、それは残念だ。だが、死なずに塔を出てこられたと言うのは間違いない。やったな。今日は死なずに済むぞ。この後また塔に潜るなら別だが」

「いや、今日はちょっと休もうかな........さすがに疲れたし、やらなきゃ行けない事があるからね」


 塔の攻略において、体力作りは必須であることが判明した。


 剣の修行やら何やらをするよりも前に、基礎トレーニングをするべきだろう。


 じゃないと死ぬ。絶対どこかでスタミナ切れして死ぬ。


「そうか。ともかく、死んでないなら問題ないだろう........ん。問題ないな。どうだ?この世界に来て五日程経ったが、やっていけそうか?」


 ふと、バーバラがそんなことを聞く。


 その声はまるで我が子を心配する母親のようであった。


 だから、俺は満面の笑みで答えてやるとしよう。大丈夫。俺は俺が思っている以上にタフな精神をしているのだ。


「あぁ!!何とかやっていけそうだよ!!」

「ふふっそうか」


 スライムに窒息死させられる事1回。ゴブリンに撲殺される事二回。


 これからも、色んな死に方を俺は経験するだろう。


 だがそれ以上に楽しい。ローグライクと言うランダム要素に翻弄され、まだビルドを明確に組むことすら出来ていないが、それでも楽しいことに変わりはない。


 もっと理解が深まれば、さらに楽しくなるのは間違いないのだ。


「エレノワールが心配していたが、問題なさそうだな。頑張れよローグ」

「もちろん。折角この世界に来たんだから、楽しめるだけ楽しむさ」


 俺はそう言うと、ベッドから起き上がってご飯を食べに行くのであった。


 尚、翌日再挑戦して第四階層でみごと下振れを引いて死んだ。ほんまイベント許さんぞ。いやまじで。





 後書き。

 この章はこれにておしまいです。

 いつも沢山のコメント、ありがとうございます。全部読んでるよ。

 ローグライク、もっと流行って欲しい。ヴァンサバの時みたいに。

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