vsボスゴブリン
盾持ちは殴れば勝てる。
簡単な話だったのだ。やはりパワーパワーこそ正義。
殴って殴って殴って殴って。
殴りまくって相手が崩れたところに攻撃を叩き込む。それだけなのだ。
戦闘開始から約12分。俺は空から降ってくる矢を気合いで避け続けながら兎に角スキルを連打して盾持ちを一体づつ殺して行った。
五枚あった盾がやがて四枚となり、四枚が三枚となり、三枚が二枚となる。
こうして徐々に相手の戦力を削り、結果として盾持ちは全て死んだ。
もちろん、盾が再使用されないように破壊して。
「グルガァァァァ!!」
「第二ラウンドか?!上等!!」
盾持ちが全て殲滅されると、ゴブリン達は動きを変える。
剣を持ったゴブリン達が突撃を開始し、矢の援護を貰いながら俺に肉薄してきた。
司令塔であるボスゴブリンはまだ動かない。これは助かるな。
「棍棒が剣に変わったからと言って強くなった気になってんじゃねぇぞ!!こちとら一撃貰った時点で終わりなんだよ!!体が貧弱すぎてなぁ?!」
「グギャッ!!」
甲羅を捨てた亀が、サメに噛み砕かれずに生き残れるのか?
答えは否だ。
強固なる守りを失ったゴブリン達は、俺の斬撃を受け止めるか気合いで避けるしかない。
しかし、ゴブリン達にそこまでの頭は用意されていない。
愚直に殴ってくる以外の選択肢が、こいつらにはない。
「振り下ろし!!」
燃え盛る炎の剣撃がゴブリンを切り裂き、身体に焼け跡を作る。
一体一体確実に、そしてできる限り距離をとって。
こいつらは矢の援護がない場所まで出てこないのは、ほかのステージで確認済みだ。
全く同じだと思って油断してはならないが、一定の距離を保てば処理は難しくない。
3分後。あっという間に五体のゴブリンが鎮圧された。
「グガ........」
「ようやくボスのお出ましか。第3ラウンドだな」
残り四体。
弓持ちとボスだけとなったところで、ようやくボスゴブリンが動き始める。
俺は盾を構えて矢に備えながら、スキルをぶっぱなす準備をしておいた。
「グガァァァァァァ!!」
「........っ!!速っ!!」
子供と大人が50m走をしたらどうなるのか。年齢にもよるが、6歳の子供と30歳の大人(ちゃんと運動をしている健康的な大人)が走れば、まず間違いなく大人が勝つ。
そもそも足の長さが違いすぎるし、筋肉の発達だって違うのだ。
それはゴブリンにも言えることであり、ボスの足はほかのゴブリン達よりも断然速い。
なんなら、多分俺よりも早い。
ヒットアンドアウェイ戦法をする前に、そもそも距離を話せるのかだいぶ怪しい。
「振り下ろし!!なぎ払い!!」
「グガァ!!」
俺はボスが迫ってきているのに対してスキルで迎撃を試みる。
が、ここでもボスは更に強かった。
その手に持った剣で俺の斬撃を弾いてきたのだ。血が肌から滲み出ているのが確認できるため、完全にダメージを向こうされている訳では無いのは分かる。
だが、明らかな威力は弱まっていた。
「ガードできるんかい!!シールドバッシュ!!」
ゴブリンがちゃんと自分の身を守れることに驚きつつも、俺は即座にスキル1シールドバッシュを使ってない距離をとる。
そして再び牽制。
スキル2と3を撃つと、走って逃げた。
殴って、逃げて、殴って、逃げる。
地味な戦法かもしれないが、確実に勝つためならどんなに時間がかかっても俺は確実に勝てる手段を選ぶぞ。
今回はもう、“死んでもいいか”回じゃないんだよ!!ちゃんと勝ちに来てるんだからな!!
それと、ぶっちゃけ初見で中ボスがクリア出来そうで滅茶苦茶ひよってる。
あれ?勝てるんじゃね?と思ったその瞬間から、俺のプレイスタイルは安全第一になっているのだ。
「こちとらじっくりとやりすぎて、もう攻略に四時間ぐらい掛かってんだ。こんなところで死んで全部やり直しは勘弁願いたいねぇ!!」
ローグライクゲームがなぜそこまで流行らないのか。昔そんなことを考えたことがある。
もちろんちゃんと流行っているゲームもある。某コウモリから逃げるゲームや、某デッキ構築ローグライクなんかは世界的に大ヒットしているのだから。
ただ、日本だと流行りにくいゲームジャンルだとは思っている。
何故か。
それは、ローグライクは一プレイが死ぬほど長いのだ。
30分で終わるならまだ全然良心的であり、酷いものだと10時間、下手をすると100時間を超えるものもある。
この忙しい現代日本において、そんな長い間ゲームをやり、しかも負ければ全ロス。
失う行為があまり好きではない日本人の気質と相まって、あまり人気が出ないのも納得だ。
誰かもっと手軽にできるローグライクを作ってくれ。いやホントに。
で、そんな時間の長さというのかこの世界でも壁となっている。4時間やってんだよこっちは。朝8時から挑んでんのに、もう昼なんだよ!!
一プレイの時間の長さと、負けたら全てを失うと言う恐怖感。
リアルにされるとさらに際立つな。リセマラしてんなら別だが、真面目に攻略しようとしている時は緊迫感が凄いや。
「いい感じに進めてるし、やり直さずに中ボスぐらいはクリアしたいんじゃぁぁぁぁぁ!!」
全力ダッシュで逃げつつ、俺はボスに牽制を続ける。
そして追いつかれそうになったら、シールドバッシュでさらに距離を取る。
逃げの一手。しかし、俺だって何も考えてないわけじゃない。
3度目の接近。かなり近づかれ、初めてボスの剣が俺に届きそうになる。
もうここまで離れれば問題ないだろ?態々、離れるように誘導したんだからな!!
俺は地面を滑って急ブレーキをかけると、今度はボスに向かってスキル1シールドバッシュを使用。
しかし、盾をボスに当てることはしない。
横を通り過ぎるように、俺はスキルを使って移動した。
「グガ?」
「お前、俺に集中しすぎだ。厄介な弓持ちがガラ空きだぞ」
弓持ちをボスから引き剥がした。となれば、浮いたコマを先に沈めるべきである。
今一番の不安要素は視覚外からの狙撃。それが無くなれば、常に弓持ちに意識を割く必要が無くなる。
先に潰すべきは弓持ち。やはり、この階層全てに言えることだ。
俺の狙いに気がついたボスだが、もう遅い。スキルのクールタイムを短縮しているおかげで、俺の方が圧倒的に速く弓持ちに辿り着くのだ。
少しの間追いかけっこをしていると、弓持ちがこちらに向かってノコノコと走っているのが見える。
俺を散々苦しめやがって。死ね!!
「振り下ろし!!なぎ払い!!シールドバッシュ!!大回転!!」
「「「グギャァ!!」」」
全てのスキルを吐いて、ゴブリン達が矢を放つ前にゴブリンを始末する。
よし、残すはボスのみ。後は牽制と逃げを繰り返せば俺の勝ちだ。
油断せずに殴り続ければそれでいい。引きこもり気味のゲーマーだったが、若いからかまだ体力にはそれなりの余裕があるのだ。
「捕まえてみろよボスゴブリン!!俺はここだぞ!!」
「グルガァァァァ!!」
スキル2と3で兎に角遠距離攻撃。
大半はガードされようが、知ったこっちゃない。ダメージが1でも入れば後はそれを繰り返すだけなんだよ!!
────6分後。
「ハァハァハァ........」
「グガ........」
流石にほぼ全力疾走で六分も走り続けたのはきつい。俺は息を上げながら、血まみれになって倒れていくボスを見つめる。
保険のバリアは使わなくて済んだな。にしてもキッつい。
『ステージクリア。15ゴールド獲得。破壊のオーブを獲得。銅の鍵を獲得。スキルカード報酬をお選びください』
そして、目の前に浮び上がる青く透明なウィンドウ。
「は、ははっ........俺の勝ちだ........」
疲れきった俺は、背中から地面に落ちるとしばらくの間報酬画面を開いたまま勝利の余韻に浸りつつ疲れを癒すのであった。
........この回復ポーションってスタミナの回復とかしてくれるのかな?
後書き。
初見でもボスは勝てる時もある。ローグライクって基本一プレイが長くて、ロストもあるから敬遠されがち。最初はちょっと怖いけど、やってみると楽しいよ‼︎
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます