初めての報酬


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 ポーション!!


 目が覚める。


 あぁポーション持ってたんだから使えばよかった。完全に存在を忘れてたよぉ........


 使ってたらワンチャンあったかもしれないのに。


 慣れないゲームをやる時、大体の人はアイテムの使用を忘れる。


 特に、その場で状況が変わり続けるアクション系のゲームは、キャラクターの操作で手一杯でアイテムに意識を向ける余裕が無い。


 最初は意識していても、いつの間にか頭から抜け落ちるというのがよくあるのだ。


 今回俺もそれをやってしまったというわけである。


 これからも何回かやらかして死ぬなこれは。間違いない。


 そんなことを思いながら、もう見慣れたベッドから体を起こす。


 すると、部屋を分けていたカーテンが開いて、優しいお姉さんことバーバラが呆れた顔をしていた。


「今度は何で死んだんだ?」

「撲☆殺☆」

「なるほど、またゴブリンに頭を殴られたのか。お前みたいなやつは初めてだよ。大抵の攻略者は一度死ねばその日は攻略を諦めるってのに。もしかして、死ぬ時の快楽を忘れられなかったのか?」

「バーバラ?俺を変態扱いしないでくれ。俺だって好きで死んでる訳じゃないんだから」


 俺だって撲殺される痛みを気持ちよく思ったりなんてしていない。普通に痛いし、目の前に迫ってくる棍棒は軽くトラウマになりかけている。


 しかし、それ以上に塔の攻略が楽しく、悔しいのだ。


 あのクソッタレゴブリンめ。顔は覚えたから覚悟しておけよ。


「外傷は無し。精神状態も悪くないな。いや?既に壊れているのか?私としては助かるがな」

「今の言葉で心が壊れそうだよ」

「そう言える内は元気だな。本当に死の恐怖を覚えてしまった攻略者の末路は悲惨なものだ。新人に多いが、大抵はその場から動けなくなって声もまともに上げれずに震える。死んだ原因となったものに恐怖を覚え、過剰に反応するんだよ。私が見てきた酷いものだと、スライムに殺されたあと水がスライムに見えて飲めなくなった奴だな」


 ワーオ........それは、なんというか大変だな。


 水が飲めない。それ即ち、人としての生存活動ができない。


 その新人がどうなったかは語るまでもないだろう。水が飲めず、喉が渇いて干からびる。


 この世界、思っていた以上にエグイな?


「だから、一日で二回も撲殺されても悔しそうな顔をしている奴は珍しい。ローグ、お前は既に生粋の攻略者だよ」

「褒め言葉として受け取っておくよ」


 俺はそう言いながらゆっくりとベッドを出て立ち上がる。


 すると、そのベッドの横にあった小さなテーブルに色々なものが置かれていることに気がいた。


 その中には、俺が使えなかった回復ポーションと魔力ポーションも含まれている。


 なんだこれ?


「ねぇ、バーバラ。これは何?」

「塔がお前に渡した報酬さ。おめでとうローグ。君は攻略者として初めて自分の報酬を得たんだ。エレノワール辺りがとても喜びそうだな。あいつは身内に死ぬほど甘い」


 報酬。


 そう。塔は人々に潜って貰いたいがために、報酬を用意する。


 それは人によって異なるが、どうやら俺にも報酬が渡されたようだ。


 どんなものが報酬となったのか確認してみよう。


 まずは、ポーション二種。これはイベントステージとかで貰ったやつだな。


 んで、次は赤黒い毛皮とこれまた同じく赤黒い透き通った宝石のようなもの。


 この赤黒い見た目をしている特徴のある毛皮と言えば、エリートステージに出た狼以外に考えられない。


 そして赤黒い透き通った宝石はおそらくエリートウルフの魔石だろう。


 本来魔石とは青色の宝石のようなものらしいのだが、エリートだからね。赤黒い方が様になるよね。


 そして、最後に普通の魔石。


 これはゴブリンとかスライムを倒したからかな?


「結構多いな。これ、幾らぐらいになるんだろう?」

「んー、そこまで値段に詳しい訳でもないし、私も分からんな。ギルドで査定に出して見て貰え。もし保護者が必要ならエレノワールを呼んでこい。報酬は売るも使うも本人の自由だ」

「取り敢えず今回は全部売ってみるよ。どれだけの金額になるのか気になるしね」

「好きにするといいさ........ん、誰か蘇生されたな。私はこれで失礼するとしよう。改めて、おめでとうローグ。初めての報酬ってのは記憶に残るもんだ。その経験は大切にしろよ」


 バーバラはそう言うと、モフモフな手で俺の頭を優しく撫でてから他の蘇生者を見に行ってしまった。


 本当に優しいお姉さんって感じだよな。滅茶苦茶人気高そう。


「さて、俺も今日は売ってたら帰るか。分かったことに関してはちゃんとメモもしておこうっと」


 俺はそう言うと、初めて得た報酬を持って攻略者ギルドへと向かうのであった。


 そういえば、何が条件で報酬を得られたのだろうか?


 やっぱり、第一階層を突破したからかな?その可能性がいちばん高そうだけど。




【ゴブリン】

 醜く、全身緑色の肌をした子供ぐらいの魔物。塔の外では雑魚扱いされることが多いが、塔の試練ではその試練内容も相まって凶悪な魔物となることが多い。

 力はそこまで強くないが、殴られれば普通に痛いし殴られ続ければ死ぬ。ゴブリンに撲殺された攻略者はかなり多く、“今日ゴブリンに殺されたんだよー”と言っても別に笑われない。ちなみに、殺され方としては割とキツイ方。攻略者からすれば即死の方が有難かったりする。




 報酬を持ってきましたは攻略者ギルド。


 ここではいつも頭のおかしな連中が騒ぎ、そして喧嘩をしているような世紀末な場所である。


 今日もその喧騒は健在で、また下らないことで殴りあっている攻略者が目に付いた。


「ん?ローグじゃないか」

「あ、ムサシ」


 取り敢えず受付の人に話しかければいいかな?そう思いながらギルドを歩いていると、同じくクランメンバーにして同郷のサムライ、ムサシが声をかけてくる。


 見た目は30代前半ぐらいで、やはり見た目を弄ってはいなかった。


 三度笠と呼ばれる、侍がいかにもしていそうな帽子を被っているこの変わり者。


 エレノワール曰く、侍に憧れて厨二病を捨てきれなかった痛々しい大人らしい。


 ムサシは、俺の持っていた報酬を見ると、今日の朝俺が塔に挑戦する事を知っていたので全てを察する。


 そして、にこやかに笑うとバンバンと背中を軽く叩いた。


「ハッハッハ!!もう報酬を貰ったのか?凄いじゃないか!!」

「二回死んだけどね。ゴブリンに殴り殺されるのはしばらくゴメンかな」

「........あぁ、ゴブリンは即死させてくれないからキツイよな。俺もタコ殴りにされて死んだことがあるけど、しばらく堪えたよ」

「やっぱりムサシもあるんだ。ゴブリンに撲殺されたこと」

「本当に新人でもない限り、ゴブリンに撲殺されるのとスライムに窒息死させられることを経験していない攻略者なんて居ないとすら言われているからな。定番の死に方だよ。一発ギャグやってと言われて、布団が吹っ飛んだと言うぐらいには定番さ」


 そんな定番嫌すぎるんですけど。


 初めて聞いたよ定番の死に方なんて。この異世界、やはり普通の異世界とは違いすぎる。


「いやーそれにしても、ローグが来てくれて助かるよ。クランは暖かいんだが、ちょっと肩身が狭くてな........」

「ん?なんで?」

「ほら、エレノワールとリリーは女の子だから一緒になることが多いだろ?すると必然的に俺はニアと一緒になる訳だが........その、可愛すぎて気まずいんだ」


 あぁ、ニアきゅん可愛すぎるもんね。ほぼ女の子だもんね。


 あの可愛さで男は無理がある。そりゃ、ムサシも色々と気を使ってしまうのだろう。


 だから、異様に喜んでたのか。他のクランメンバーと比べても喜び方が凄まじいなとは思っていたが。


 こうして、俺はムサシの苦労を少しだけ知りつつ、ムサシに換金のやり方を教わって無事にお金に変えることができたのであった。


 その金額、なんと32200ゼニー。内訳を見たが、ポーションと毛皮がかなり高かった。


 そして、その日の夜は俺の初報酬を祝ってクランハウスでお祝いされた。


 みんな自分の事のように喜んでくれるから、楽しかったよ。いい人たちすぎる。





 後書き。

 ローグの試練は金稼ぎがしやすいです。でも、その分最初から難易度がクソ高く、それでいて登るのが大変。

 逆に最初は金稼ぎがしにくい試練の攻略者は、試練が簡単。だけど、登ると難しくなる代わりに金(報酬)が増える。

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