撲殺(二度目)


 ついに足を踏み入れた第二階層。その攻略はヒットアンドアウェイ戦法によって、比較的安全に進むことが出来た。


 殴って逃げて殴って逃げて。


 これを繰り返しておけば、そこまで大きなリスクをとる必要も無い。


 結局、リスク管理が全てのゲームだ。どれだけ低いリスクを取って、大きなリターンを得られるのか。


 ローグライクにおいて重要なのはここである。


『第二階層第4ステージ。ゴブリンの群れ。クリア条件、全ての敵の殲滅』


 さて、3つの戦闘ステージをクリアした俺は、第4ステージ“エリートステージ”に足を踏み入れていた。


 スキルオーブの有用性は言わずもがな。スキルカードでは1つのスキルにしか適応されない効果が全てに適応されるスキルオーブは、かなりの価値がある。


 死ぬリスクを負ってでも、できる限り取りたい。


 体力状況はほぼ満タン。魔力はステージを移動する度に元に戻るので、ほぼ万全な状態と言えるだろう。


「またゴブリンの群れか。この第二階層は“群れ”が好きだな。スライムの群れとウルフの群れだったぞさっきは」


 俺はそう言いながら、ステージ攻略を始める。


 この階層における要素は2つ。1つは“群れ”と言う言葉のとおり、魔物の数が第一階層よりも多い。


 そして必ず固まって動いている。


 2つ、群れの数はランダムである。


 実は、3つのステージを攻略して全て平原ステージであったのは確認済みだ。しかし、魔物の初期配置がかなり違っている。


 今のところ確認できたのは2つ。1つは全ての魔物が固まって出現するパターン。もう1つはその群れを半分に分けて2箇所に出現するパターンである。


 尚、魔物の総数は変わらないと思うので、戦力分散をするか全戦力を纏めて運用するかの違いだ。


 そして今回はと言うと........


「やべ、初めて見たパターンだ。3つに別れてやがる」


 ご丁寧に知らないパターンを用意してきていた。


 正面と左右。その3箇所にそれぞれ5体づつ。


 正直、まとまって動いてくれていた方が周囲に気を使わなくて助かる。突っ込んで殴って逃げるという、俺のお得意戦法も使いやすいのだ。


 挟まれるとやばそうだよなぁ........また撲殺は嫌なんだけど。


 俺はそう思いながらも各個撃破を試みる。


 スキル3なぎ払い、をかなり強化しているから、このスキルを主軸に戦うとしよう。


 という訳で戦闘開始。


 俺はまず右側に居たゴブリンの群れに向かって走り始め、あることに気がついてその場から飛び退いた。


 ザクっと、何かが地面に突き刺さる音が聞こえる。


 つい先程まで俺が居たところに視線を向けると、そこには矢が突き刺さっていた。


「........特殊なエネミーを用意するタイプのエリートステージかよ。これならまだ単純に強化されてくれた方が良かったぞおい」


 矢が飛ばされてきたであろう右側の群れに視線を向けると、一体だけ明らかに違う武器を持っているゴブリンがいる。


 弓だ。


 古来より狩猟や戦において遠距離の攻撃手段として使われてきた、弓をあのゴブリンは装備している。


 聞いてないってそれは。ゴブリンなんだからせめて棍棒を投げてくる程度にしてくれよ。殺意高すぎか?


 どうやら今回のエリートステージでは、新たな敵が追加されるらしい。


 しかも、遠距離攻撃持ちの。


 今までは肉弾戦がメインであり、ヒットアンドアウェイで何とかやってきた俺だが、これで一気に近づきにくくなったのは間違いない。


 下手に突っ込めば、あっという間に殺されて終わりだ。今度は矢に刺されて死亡ってか?


「そいつは勘弁願いたいねぇ!!」


 しかし、今の俺が遠距離攻撃持ちの敵に大して対策があるのかと言われると、特に何も無い。


 とにかく今は数を減らし戦闘を楽にすることが最優先。幸い、スキル3が“飛斬”によって強化されているので、こちらも遠距離で対抗することはできるのである。


「フッ!!そして逃げる!!」

「グギャ?!」


 スキルの射程ギリギリでスキル3なぎ払いを発動。飛んで行った斬撃がゴブリンを切り刻むが、一撃でゴブリンを仕留めるには至らない。


 本当なら突っ込んでスキル4大回転とか撃ちたいが、絶対死ぬと思うのでスキル3のクールタイムが戻るまで逃げることにする。


「........あぁクソ!!あっちも気が付きやがった!!」


 が、しかし、それを許してくれるほど敵も甘くない。


 最初は俺を見てなかったほかの2つの群れが、俺に気がついて向かってきている。


 このままいくと、挟み撃ちだ。何とかして数を減らさないと。


「スキル戻ったな?!もう一回だ!!」

「グギャ!!」


 スキル3のクールタイムが戻ったので、再び使用。これにより、前衛の2匹のゴブリンが死ぬ。


 しかし、俺は殺す順番を間違えた。


 やるなら先に弓使いから殺すべきだったのだ。


 ヒュン!!と、風を切り裂く音が耳元で鳴り、矢が頬を掠める。


 あっぶな。今三途の川の向こうで死んだはずのおじいちゃんが手を振ってたぞ。


 孫に会いたい気持ちは分かるが、そっちに行くにはまだ早すぎるよおじいちゃん。


「本当に弓がうぜぇな。残りは3体だけだし、なんとかなるか?」


 俺の正面にいるのは残り3体。肉壁が二体と弓使いが一体である。


 まぁ、こいつら始末しても後10体残ってるんですけどね。遠距離攻撃持ちが居るだけでここまでやりにくくなるとは。


 俺はできる限り早く数を減らすことを優先し、賭けに出る。


 連撃のオーブの効果によって、連続で相手を殴れば攻撃力にプラスが付くのだから、スキルコンボでタコ殴りにして速攻で終わらせよう。


「シールドバッシュ!!」


 ということで、スキル1シールドバッシュを使用。盾を構えて突っ込み、矢を番えようとしていた弓使いゴブリンに限界まで近づく。


 肉壁ゴブリン達は俺が近づいてきたと同時に棍棒を振り上げたが、こちらには範囲攻撃があるんだよ!!


「大回転!!」

「グギャ!!」


 スキル4大回転でゴブリンの攻撃を止めると、そのままの流れるようにスキル2振り下ろし、を使用して弓使いを仕留める。


 そしてクールタイムが返ってきたスキル3を連続で使用。確実に残りの肉壁も仕留めたその瞬間、俺の左足に衝撃が走った。


「........っ!!」


 ふと左足を見るとそこには矢が突き刺さっている。貫通はしていない。だが、確実に痛みを俺の足に齎している。


 いっってぇ........撲殺された経験がなかったら泣き喚いてた。


 しかし、ここからどうすればいい?痛みは続くし、これで機動力が落ちたのは明白。


 ただのゴブリンが相手ならまだしも、相手は矢を放ってくるため動き続けなければならない。


 盾で矢を弾けるだろうが、今の俺では限界もあるだろう。


 つまるところ、ほぼ詰みである。


「........まぁ最後までやるけどな。ワンチャン勝つ時だって割とあるし」


 ローグライクに限らず、ゲームは諦めなければ奇跡が舞い降りることだってある。


 もうダメだと思っていた時に会心の一撃や急所を引いて勝ったり、ジリ貧で殴りあってたら何故か勝ってたりと色々とあるだろう。


 まだ諦めるな。俺は勝─────


「うぐっぐへっ、ぐはっ!!」


 ────てる訳もなく、俺は本日二度目の撲殺をその身に味わうのであった。


 即落ち二コマかよ。


 あー、クソ。そういえば回復のポーション持ってたんだから、矢を引っこ抜いて使えばよかった。


 ローグライクあるある。ゲームになれていない時は、ポーションやアイテムの存在を忘れがち。


 回復ポーション使ってたら勝ててたかな?くっそー悔しすぎる。


 死ぬ直前、俺の反省も虚しく振り下ろされた棍棒は、俺の頭を叩き潰した。




【スキルカード:飛斬】

 斬撃系統のスキルを所持している武器を選択していた場合に出現するカード。近距離攻撃に遠距離攻撃を付与するスキルであり、他のスキルカードの強化も上乗せされるためかなり使いやすく、分かりやすく強い。

 特に近距離攻撃しかない武器種には必要であり、これがあると無いのでは攻略難易度が大きく変わることがしばしばある。射程は10mほど。スキルカード:スキルの射程距離上昇、を引けると、さらに射程が伸びる。





 後書き。

 初めてやるゲームあるある。操作に手一杯でアイテムの存在を忘れがち。

 分かりにくいお金の表記を変えておきます。

 塔の中でのお金はゴールド。

 塔の外でのお金はゼニーにします。

 紛らわしい表記をしてしまい、申し訳ありませんでした。

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