ボマーボマーズボマー
ゴブリンにタコ殴りにされ、撲殺されるとか言う今どきの異世界転生系の話ではまるで聞かない弱さを見せた俺は、2日ぶりにこのベッドの上でバーバラと顔を合わせていた。
ケモナーならば大歓喜しそうなその見た目は相変わらず美しく、モフモフそうな毛並みにちょっと触れてみたいとすら思ってしまう。
やらないけども。
「お久しぶりです........」
「おう。久しぶり。日本人なんだってな。悪いな。日本人の特徴は知っていたんだが、見分けられなかった」
バーバラはそう言うと、俺の頭に手を置く。
優しく、そしてもふもふなその手は、つい先程ゴブリンに殴り殺されたことなど忘れてしまいそうな程に暖かい。
なんだこの人女神様か?
それはそうと、やはりこの街では日本人と言う言葉が当たり前のように存在している。
転移者であるほかの四人。ちょろっと聞いた話では、かなり有名らしいのでその影響なのかもしれない。
「ふむ。怪我はなし。後遺症も無さそうだな。あぁ、そうだ。自己紹介が遅れたな。私はバーバラ。この街の攻略者ギルドにおいて医師をしている。魔物との戦闘や戦いにおいて怪我を負った場合は尋ねてくるといい」
「ローグです。よろしくお願いします」
「ふむ。ローグか。よろしく」
バーバラはそう言うと、俺の前に座る。
そしてジッと俺を見つめた後、さやわかに笑いながら話しかけた。
「この世界に来て三日目か?調子はどうだい?」
「まだ慣れないことも沢山あるけど、何とかやっていけそうだよ。エレノワールのお陰かな。あの人が居なかったら、俺は今頃牢屋にぶち込まれて臭い飯を食べる派目になってた」
「アッハッハ!!牢屋の飯は不味くて食えたもんじゃないらいしな!!エレノワールが言ってたよ!!」
........ん?
その言い方だと、エレノワールは過去に牢屋にぶち込まれたという事になるが?
俺の言葉の理解の仕方が悪いのだろうか?それとも、事実?
「エレノワールは捕まったことがあるの?」
「ん?聞いてないのか?アイツはこの街で最も問題児な馬鹿野郎だ。大抵強いヤツには二つ名があるんだが、アイツは酷い」
「どんな名前なの?」
「
ウチのクランマスター、超危険人物じゃねぇか。
衛兵が常に警戒している。つまり、衛兵が常に監視の目を向けている。
そんなやべーやつがウチのクランマスターらしい。
しかも、話を聞く限り爆破に関する事柄で騒ぎを起こしている。異世界テロリストじゃん。
ちなみに、クランとは攻略者ギルドの中に存在する攻略者たちの派閥のようなものだ。
メリットはクランの援助が受けられること。デメリットはクランに縛られる為自由な行動がしにくくなる事である。
俺は歓迎された時点でクランに入っていることになっていた。まぁ、これに関しては、他に頼れる場所もないので仕方がない。
クランの名前は“ブレイクタワー”だ。
「エレノワールってやばいんだな........」
「あぁ。やばい。言っちゃ悪いが、1歩間違えれば犯罪者になりかねないほどには頭がどうかしているよ。だが、同郷にはとても優しいし、面倒見も良くて市民からも好かれてる。彼女を毛嫌いするのは、問題事が起きて迷惑をする衛兵ぐらいさ。ローグは運がいい。エレノワールのクランはこの街の中じゃ滅茶苦茶甘いんだぞ」
「........?甘い?」
「そう。甘いのさ。クラン運営には必ず金が必要となる。金がなければ人は生きていけないのが今の社会だからね。だから、クランはその団員にノルマを課すのさ。そうだな........例えば毎日1000ゼニー納めろとかそういうのが。だけど、エレノワールのところはそんなものは無い。なのに、団員に対する待遇は、私が知る限り1番いいぞ。私がクランにはいるなら、間違いなく彼女のところを選ぶ」
へぇ。クランによってはノルマがあるのか。
それもそうだ。クランの恩恵に預かれたければ、それ相応の対価も払わなければならない。
その点、ウチのクランは自由らしい。今度からエレノワールさんって呼ぼうかな?
「ま、クランにはいる条件が日本人のみだから、私は無理だがな!!だからローグは運がいい。あそこのクランは入りたくても入れないんだぞ」
「そうなんだ。日本人に生まれてよかったと思うよ。二回も死んでるけど」
「なぁに、二回なんで序の口さ。ちなみに、今回は何で死んだんだ?」
「ゴブリンに囲まれてフルボッコにされた。棍棒ってすごい武器なんだな。頭をガンガン殴り付けられて、気がつけばあの世行きだ」
「あぁ........撲殺か。あれば結構堪えるよね。中々に辛いよ」
まるで経験したことがあるかのような言い方。
というか、経験したことがあるのだろう。
この世界に生まれた者達は、人生で1度は死を経験すると言われている。それが貴族だろうが王族だろうが、一度は塔に入って試練を受けるのだ。
義務ではない。だが、神の試練を乗り越えたいと人は言う。
だから、大抵の人々は一度死んでいる。
その先に進めるのかどうかは、その人次第らしい。
二回死ねている俺は、才能があったということだ。だって昼飯食ったらもう一回入るつもりだし。
ローグライクの悪い所。中毒性が高すぎる。
PCゲームを沢山売っている某サイトのレビューを見た事がある人達ならば知っているだろう。ローグライクゲームのレビューサイトには、狂ったような時間をやっているやつがよく居るのだ。
1000時間は当たり前。ローグライクゲームによっては100時間まではチュートリアルなんて言われていたりする。
そして俺は既に中毒者だ。どんなローグライクが来ようとも、骨の髄までしゃぶりつくしてやりたいというのがローグライカーなのである。
例え、現実で死のうとも。
死んでも生き返るからへーきへーきの精神で行こうぜ。
そんなことを考えていたら、また塔に行きたくなってきた。
まだまだ分からないことだらけなのだ。先ずは全てのシステムを理解するところから始めなければならない。
そんな俺のウズウズとしたローグ魂を見たバーバラ、ふっと笑うと席を立つ。そして、再び俺の頭を撫でると、ニッと笑った。
「2回死ねている時点でローグ、君には才能がある。ここで会う回数もきっと多くなるだろうよ。その時は、試練の話でも聞かせてくれ」
「おうよ。その日の死に様を教えてあげるよ」
「ハッハッハ!!飯が不味くなりそうだ!!」
こうして、俺は再び塔に挑む。
お小遣いはエレノワールから貰っているのだが、いつまでもあれこれ貰っていてはダメだ。
せめて、自分の足で歩けるようにならないとな。
「........ところで、塔の報酬が貰えるとか言ってたけど俺何も貰えてないんだけど。もしかして、階層を突破しないとダメなのか?それとも元々俺の試練には報酬がないのか?」
報酬なしはきついな。外で仕事しないといけなくなるし、その分塔の攻略も遅れる。
しばらくはエレノワール達に甘えられるが、ちゃんと金を稼ぐ術を身につけなければ。
「ちょっと外の世界も気になるし、この世界はやることが多そうだ」
俺はそう言うと、衛兵のおっちゃんに攻略者証を見せて昼飯を食べに行くのであった。
俺を案内してくれたおっちゃんは非番かな?今日は出会わなかったな。
【クラン】
攻略者ギルドの中にある攻略者達の派閥のようなもの。ギルドも一々彼らを管理するのが面倒なので、自主的に管理してくれるのは有難かったりする。
クランによってルールや入団条件が異なり、ローグが居るクランは激甘なクラン。ノルマが存在せず、しかも基本自由と言う破格な条件の代わりに、入団条件が日本人のみと言う転移者の為だけに作られたクランである。創始者はエレノワール。
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