イベントステージ
ハイリスクハイリターンのステージであるエリートステージをクリアした俺は、スキルカードの報酬欄で困っていた。
なぜ困っているのか?
それは、そのスキルカードの効果がよく分からないからである。
ローグライクに限った話では無いが、ゲームにおいて表記が難しく効果が理解できないスキルというのは割とある。
今回は、そんなスキル強化に遭遇してしまったようだ。
「スキル2に飛斬を追加ってどういう意味なんだ?新たにスキルが増えるのか、それともスキルに何らかの新たな効果が乗るのか?」
分からない。
残りの二つは攻撃強化と魔力消費減少のカードなので、効果の意味はわかる。だってそのままの意味だからね。
「飛斬........斬撃が飛ぶって事だろうけど、どんな挙動になるのか分からんなぁ。とりあえず取ってみるか」
分からなかったら取っておけ。攻略情報もないローグライクゲーにおいては、経験と知識が先ずは必要だ。
たとえ結果的に弱くなってしまったとしても、その効果を理解するのが必要なのである。
という訳で、取得。
スキル2が強化され、全て報酬を獲得。俺は次のステージを選ぶ事となる。
『ステージを選んで下さい』
再び出てくる画面。しかし、次はあれこれ選ぶ必要は無い。
何故ならば、全てのルートが同じ表記がされているのだ。
「全部“?”マーク。つまりは、イベントマスかな?」
イベントマス。
その名の通り、何らかのイベントがランダムに発生するステージだ。
自分を強化してくれる有難いイベントから、自分にデバフを掛けてくるクソ迷惑なイベント、他にも戦闘に突入するイベントなんかがある。
ここのイベントに関しては本当に数が多い。何度もやっても一度しか遭遇したことの無いレアイベントとかもあるのだ。
今回は出来れば無難なイベントがいいです。お願いします塔様。
「その後のステージを考えると、真ん中が無難か。ちょっとスライムを連チャンで見たくない」
俺は、イベントステージの後のルート選択でスライムと戦わなくて済むルートを取れるステージを選択。
すると、次の瞬間には俺は青い空に戻った平原に戻され二つの道が用意されていた。
『貴方はこの世界に舞い降りた。分かれ道だ。どちらに向かう?
・右:スキルカードを1枚獲得
・左:体力の20%を消費しスキルオーブを獲得』
予想通りのイベントステージ。
今回は戦闘がないステージらしい。
1つはデメリットなしでスキルカードが1枚貰える。もう1つは、体力の20%を消費してスキルオーブの獲得ができるらしい。
基本的に強力な効果を持ったアイテムを手に入れる時は、デメリットが付きまとう。
つまり、スキルオーブは塔の試練に強力な効果を持っていると判別されているようだ。
「体力の20%消費ってのが分からんな。この試練、ゲームみたいなシステムをしているくせに、HPとかMPの表記がないんだよ。お陰で管理が難しくて困る」
体力の消費。
この塔の試練は絶妙に不便で困る。体力バーなんて分かりやすいものは表示されてないし、魔力に関する表記もどこにもない。
ここら辺のことは全部感覚でやるしないのだ。お陰でスキルや魔力の管理が難しい。
微妙にリアリティのあるゲーム。これがもし本当にゲームとして発売されていたのならば、きっと低評価で溢れかえっていただろう。
リアルの不便さを追加すればいいってもんじゃねぇんだよ。いや、ここはリアルなんだけどさ。
ゲームのようでゲームではない。この世界は現実であると、塔が俺に突き付けてきている感じがする。
「まぁ、今回は検証だから左だな。体力が減らされたらどうなるのか確認しないと」
という訳で俺は左側を選択。
おそらく左に歩けばいいんだろ思い、左側の道を歩き始めたその時であった。
「ゴフッ........へ?」
ぽたぽたと、口から赤い液体が流れ落ちる。
俺は慌てて周囲を見渡すが、魔物がこの場に存在しているはずもない。
それはつまり、このイベントによって発生したダメージである。
おい嘘だろ。想像以上に火力が高いぞこのイベント。
全身に痛みを感じる。凄まじい痛みだ。だが、不思議と頭は冷静で、痛みに泣き叫ぶ事は無い。
口の中が鉄の味で満たされていく中、俺はこの世界における体力の概念について頭を巡らせていた。
例えば、体力が100あれば万全、体力が0になれば死亡となる場合。現実で体力1の者が通常通り動けるのか?
答えは否である。
正直、三割ぐらい体力を持っていかれた時点で体のあちこちに支障が出るだろう。
体力が50になったら半殺しの状態だと考えれば、20の体力減少は骨が折れているレベルである。いや、それよりももっと上かもしれない。
「........なるほど。こんなところもリアルなのか。これは予想してなかったな」
俺は自分の口から流れ落ちる血を手の平で受け止めながら、半笑いする。
全身の力がかなり抜けている。マトモに走るのも辛いだろう。
今度から、体力減少系のイベントステージはできる限り避けた方が良さそうだ。20%の体力を持っていかれただけで、このザマなのだから。
許容範囲は5~10%ぐらいか?これも検証が必要そうだな。
「で、これだけのデメリットを貰いながら得られたのがこんなゴミかよ」
血を吐きながら手に入れたスキルオーブは、守りのオーブ(小)とかいうどこかで見た事のあるもの。
俺、その極小版を持ってるんですわ。そして、その恩恵があまり感じられないんですけど。
このイベント、思ってたよりもクソだな。もしかしたら、できる限りデメリットは避けるべきかもしれない。
俺はそう思いながら次のステージ(第4ステージ)へと行き─────
「ゴフッ、やめっ!!ゴハッ!!」
─────ゴブリンにタコ殴りにされて撲殺されるのであった。
ちゃんと守りのオーブの効果はあったよ。体が頑丈になったおかげで耐久力が増したけど、その分殴られる時間が増えたがな!!
【エリートステージ】
その階層に出てくる通常の魔物よりも強化された魔物が出てくるステージ。相手が強くなっている分、リスクが高くなっているのはもちろんだが、その代わりに報酬が豪華になっている。
もしクリアできるのであれば、積極的に挑戦したいステージだ。
........
........
........
はっ!!
目が覚める。
俺は自分の頭を触り、棍棒に殴り殺された感覚を思い出していた。
クソが。体力の20%を持っていかれると、痛みと苦しさでロクに動けやしないし、判断もままならない。
スキルが問題なく使えたのはもちろん、“飛斬”の効果も確認はできたから良かったが、ゴブリンに囲まれてメッタメタに殴られた気分は全く宜しくない。
棍棒ってクソ痛いんだな。何度頭を殴られたのか記憶にないぐらい殴られたぞ。バカになったらどうしてくれるんだ。
ちなみに、“飛斬”の効果はスキルを使用した時にその剣の軌道に沿って斬撃を飛ばすというものであった。
射程距離は大体10m程度。威力はちょっと分からないが、かなり使える部類のスキルだと思っている。
突っ込んで殴って切り飛ばすしかできない片手剣に、遠距離攻撃が追加されたのだ。
弱いわけが無い。
全部のスキルに“飛斬”をセットしたら楽しいことになりそうだな。あと、クールタイム減少のカードかオーブが欲しい。
「おや?君は一昨日の........」
そんなことを思いながら、ひとりで反省会をしているその時であった。
カーテンが開き、俺を興味深そうに眺める先祖返りの獣人。
「やぁ、少年。話は聞いたよ」
ケモナーが喜びそうな見た目(多分顔は狐がモデル)をした、医師のバーバラがそこにはいた。
後書き。
塔の試練において、体力減少系のイベントはほぼハズレ。一応、リカバリーできる手段もあります。
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