ハイリスクハイリターン


 ほかのステージとは少し違う雰囲気をまとったスライムの平原を選択した俺は、次のステージに飛ばされる。


 第一階層第二ステージ。


 以前スライムの丘を選んだ時は晴れ晴れとした爽やかな天気であったが、ステージに入った瞬間以前とは全く違ったステージであることを理解した。


 空が赤い。


 真っ赤な空が世界を支配しており、それに合わせてステージ全体もかなり暗かった。


 さらに視界が悪くなりそうだ。嫌なステージだな。


『第一階層第二ステージ。スライムの丘。クリア条件全ての敵の殲滅』


 ちょっとホラーな雰囲気を味わいながら、1歩踏み出すとステージが始まる。


 クリア条件は同じか。となると、敵が強くなっているパターンが1番有り得そうだが........


「体に異常は無し。デバフを食らってるとかは無さそうだな」


 デバフ。


 デバフとは、相手に不利な状況を発生させ相手の能力を下げることである。


 分かりやすい例で言うと、攻撃力が下がったり防御力が下がることだ。


 現状、少なくとも体が違和感を感じるようなデバフは付与されておらず、いつも通りに動ける。


 となると、魔物の強化の方が有り得そうだがどうだろうか?


 そんな事を思いながら周囲を見渡す。


 今まではステージが始まると同時に近くに魔物が出現して即戦闘開始となっていたが、今回はかなり離れた場所に魔物が出現しているのが見える。


 平原ステージの為見晴らしもよく、かなり戦いやすいだろう。


 数は先程よりもひとつ増えて8体。見晴らしがいいから奇襲されることも無いはずだ。


「あいつが孤立してるな。あのスライムで試してみるか」


 俺は右側にいた孤立したスライムに標的を合わせると、盾を構えながら近づいていく。


 俺にデバフが掛かってないと想定すると、スライムに強化が掛かっていると考えた方がいい。


 このステージはほかとは違うのだ。油断禁物である。


(ポヨン!!)

「気づかれた。シールドバッシュ!!」


 以前見た時は、半透明のグミのような見た目で60cm前後のポヨポヨしたなんとも可愛らしい(殺し方は可愛くない)魔物であったが、今は空の色を反映しているのか若干赤黒い。


 なんか怖いなと思いつつ、俺は即座にスキルを使用。片手剣はスキルの構成的に接近しないと何も出来ないので、とりあえず近づくのが大事だ。


 盾を構えながらスライムに突進。


 以前ならたとえ反応していても避けられなかったが────


(ポヨン!!)

「なっ!! 」


 なんと今回は素早く横に飛び退いてこの攻撃を避けた。


 前に見た時よりも少し早い。速度に関する強化を受けてそうだな。


 そしてこれで確定した。このステージは間違いなくエリートステージだ。


 敵が強化され、かなり強くなっている。攻略する側もかなりの苦戦を強いられるのは当然だが、代わりに報酬がかなり美味しいためハイリスクハイリターンなステージとなる。


 第二ステージの時点で出てくるとは。こちとら一回しかスキル強化してないってのに。


 俺はそう思いつつ、飛び退いたスライムに向かって次のスキルを放つ。


 殺られる前に殺れ。攻撃こそ最大の防御手段!!


「オラァ!!」


 攻撃を避けられた事により、若干剣が届かない位置にいるスライム。


 しかし、スキル3なぎ払いは、つい先程射程距離を伸ばした攻撃なのだ。


 俺はそれを信じて攻撃を振るう。すると、本来ならば届かなかったはずの攻撃がスライムに直撃した。


(ぽよーん!!)

「よし。ちゃんと射程が伸びてるな。たまにあるんだよ。これ必要か?みたいなゴミ強化が。今回はちゃんと強化が生きてくれて助かったぜ」


 しかし、体力も強化されているのかスライムは一撃では死なない。


 前に戦った時はこれで死んでたんだがなぁ。


 そこで俺は、あえてスキルを使わずに静かに待った。


 というか、距離が開きすぎてスライムを殴れない。しかも、こちらは今2つのスキルを使用したばかりでクールタイムがある。


 特に距離を縮めるシールドバッシュを使えないのが痛い。攻めにも逃げにも使える便利な子だから、管理はしっかりとしないとダメそうだな。


 盾を構え、スライムが来るのを待つ。


 1度斬られたスライムは怒っているのか、ポヨンポヨンと揺れながら何度か地面を跳ねると一直線にこちらに向かって突撃してきた。


 前も見たぞ。スライムはそのポヨポヨな体を使って突撃をかましてくるのである。ちなみに、結構強い。


 これがターン制のゲームなら、俺は大人しく攻撃を喰らうしかなかっただろう。


 しかし残念。この塔の試練はゲームに似た現実なのだ。


 相手が動いている時、自分も動けるし、自分が動いている時相手も動ける。


 俺は剣の射程に入ったタイミングで、スキル2振り下ろしを発動。


 スライムはバッサリと縦に斬られ、ようやく息絶えた。


「........フゥ。復活は無さそうだな。それにしても、一撃で死なないとなると厄介だな。囲まれたら何も出来ずに死ぬかも」


 俺の頬から汗が流れ落ち、俺はそれを手の甲で拭う。


 明らかに以前のスライムより強い。そして、以前もクリア出来なかった相手よりも強い相手に勝てるのかと言われると、ちょっと........いや、だいぶ怪しい。


 タイマンならなんとかなるが、囲まれたらやばそう。


 また窒息死は嫌だよ。いやマジで。


「何とかして孤立している奴らから倒さないとな」


 俺はそう言いながら、残りの7体を片付けに向かうのであった。




【スライム】

 言わずと知れたザコ敵。魔物の中では最弱クラスだが、高い粘液で身体を構成しているために顔に引っ付かれると窒息死する恐れがある。

 普段はポヨポヨしている可愛いやつ。だが、1度でもスライムに殺されたことがある攻略者達は口を揃えて言う。“スライムに殺されるのは勘弁だ”と。




 15分後。俺は何とかこのステージをクリアしていた。


 いやー疲れた。流石に精神がゴリゴリ削られて行った。


 以前スライムに殺されたと言うトラウマもあるが、単純に強化された魔物が強い。


 上手く孤立した瞬間を狙って、スキルを使うという戦法を取っていたが、最後だけは絶対に二体同時に行動するのかはぐれることがなかった。


 お陰でスキル全ブッパして倒しきれたら俺の勝ち、倒せなかったら負けとかいうギャンブルをする羽目になったのだ。


 まぁ、結果は俺の勝ち。


 スライム君達はなんで負けたのか明日まで考えておいてください。


「さてと、報酬報酬〜」


 これだけ苦労したのだ、さぞかし報酬も素晴らしいものだろう。


 俺はそう思いながら、報酬画面を見る。


『第一階層第二ステージクリア。10ゴールド獲得。スキルオーブをひとつ獲得。スキルカード報酬を選んでください』


 おぉ!!やっぱり報酬が豪華になってるぜ!!


 先ずはゴールドの増加。大体3~4程度貰えていたであろう報酬が、一気に倍以上になった。


 多分買い物出来るステージがどこかで出てくる。それまでは貯金だな。


 そしてスキルオーブ獲得。


 スキルオーブは今のところ常時発動スキルパッシブだと認識している。攻略する前に選んだ報酬で、防御強化(極小)を貰っている。


「お、今度は攻撃強化か........でも、これ使えなさそうだな........」


 貰ったスキルオーブは攻めのオーブと言うもの。効果は、“通常攻撃強化(極小)”である。


 そう。通常攻撃強化。つまり、スキルを使用していない場合の攻撃が強化されるのだ。


 今の俺には要らんやつやな。正直困る。


 多分俺自身が強くなったら欲しくなるオーブだ。また必要になった時に出てきてくれ。


 そして最後、スキルカード報酬。


 これは同じだな。スキルカードの中身が豪華になっていたりするのだろうか?


 俺はワクワクしながらスキルカード報酬を受け取り........ちょっと困るのであった。


 なんだこの“スキル2に飛斬を追加”って。もっと詳しく書いてよ!!

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