ルート選択は全てを決める


 最初のイベントを選び、次にやってきたのはルート選択であった。


 ローグライクにおいて、ルート選択はその後のクリアに関わってくる重要な要素であり、正直ある程度そのゲームへの理解が深まれば高難易度でもない限りルート選択次第でそこそこのクリア率を出せる。


 逆に言えば、ルート選択をミスると爆速で死ぬ。


 それがローグライクというゲームだと俺は思っている。


 もちろん、ゲームによってはそもそもルート選択が必要なかったりするゲームもあるのだが、この塔の試練ではルート選択、分岐があるシステムのようだ。


「最初は3択か。んで、合計で5つのステージを攻略すると。道順は結構選択肢があるな。ところで、この赤くなってるステージは何なんだろう?」


 最初のステージは3択。ひとつはゴブリンの森、ひとつはスライムの平原、ひとつはウルフの丘ステージである。


 だが、なんもわからん。そのステージに出てくる敵がゴブリンかスライムかウルフというのは分かるが、強さ配置等はさっぱりだ。


 ローグライクゲームは死にゲー。


 とにかく数をこなして、クリアのやり方を覚えながら進んでいくのがローグライクなのだ。


 今回の攻略は勝ち負けよりも、情報収集をメインに動くべきだな。踏んだことの無いステージをなるべく踏めるようにしよう。


 というわけで、最初はウルフの丘からスタートである。


 ウルフという魔物を見たことがないというのもあるが、ここから始まるルートが1番知らないステージを通れる。


 俺がステージを選択すると、ふと視界が切り替わり、丘のステージが出現した。


 あぁ、一昨日ここで窒息死した記憶が蘇る。スライムが口の中に入ってくる感覚が、今がにはっきりと残っているのは気分が悪い。


 今回はどんな死に方をするのだろうか。俺はそう思いながら、武器の選択に入った。


「とりあえず今回も片手剣で行くか。武器の特徴も何も分からずに攻略すると即死しそうだしな」


 ゲームシステムを完全に理解するまでは、とりあえず片手剣で行くとしよう。下手にうまぶって難易度の高い武器を使うと、大抵痛い目を見るものだ。


 片手剣のスキルは四つ。


 ーーーーーーー


 スキル1 シールドバッシュ

 魔力消費 極小

 クールタイム 極小

 盾を構えて突っ込む


 スキル2 振り下ろし

 魔力消費極小

 クールタイム極小

 片手剣を振り下ろす(攻撃時補正アリ)


 スキル3 なぎ払い

 魔力消費小

 クールタイム小

 横に剣を薙ぎ払う(攻撃時補正アリ)


 スキル4 大回転

 魔力消費中

 クールタイム中

 一回転して周囲の敵に大ダメージ


 ーーーーーーー


 これが片手剣を装備した時に使えるスキルである。


 突っ込んで切って切ってぐるっと一回転。それさえ覚えておけば、とりあえず戦えるだろう。


「俺自身の攻撃力があるのかも知りたいよな。通常攻撃ができないなんてことは無いだろうし、一体だけ魔物を残せたらやってみるか」


 しかし、スキルに全て頼った戦い方は絶対に良くない。スキルには必ずクールタイムが存在し、そのクールタイム時間中はどう足掻いてもスキルが使えないから俺自身が凄まじく弱体化するのだ。


 それを補うために、俺自身がスキルを使用せずに戦えるのかというのも知らなければならい。


 流石に自分の意思で剣を振るのはダメとはならないだろう。


『第一階層第一ステージ、ウルフの丘。クリア条件全ての敵の殲滅』


 武器スキルの再確認も終わり、俺は一歩踏み出す。


 すると、ウルフ、つまり狼がこの丘に出現した。


 大体体長1m程であり、牙を向きながら俺を視認すると同時に襲いかかって来る。


 数は丘によって少し視界が悪いので正確には分からないが、少なくともこの場から見えるのは3体であった。


「先ずは目の前のヤツらを叩き潰す。スキルは........全部吐いちゃうか」

「グルぁぁぁぁ!!」

「オラァ!!」


 最初に接敵したウルフに向かって、俺はスキル1シールドバッシュを使用。


 体内から魔力と思われる力が抜ける感覚を味わいながら、俺は狼を盾でぶん殴った。


「キャン!!」

「振り下ろし!!」


 鼻を思いっきり潰された狼は痛そうに顔を背けるが、その隙を俺が逃すはずもない。


 スキル2振り下ろし、を使用し、俺はウルフを真っ二つに切り裂く。


 そして、素早く残りの2体に視線を向けると、既に真後ろまで迫ってきている。


 こういう時は、自分の後ろまでカバー出来るスキルで何とかするしかない。


「大回転!!」


 スキル3は飛ばして、スキル4大回転を使用。


 グルっと一周しながら放たれた一撃は的確にウルフ達を捉え、そして、相手を殺す。


 よし。これでとりあえず周囲の安全は確保出来たか?


 クリアと画面が表示されないので、まだ魔物がどこかに潜んでいるのは間違いない。だが、一旦落ち着ける時間が出来たのは間違いない。


 俺は血生臭い死体を見て顔を顰めつつ、ステージの特徴を把握するために周囲を見渡した。


 このステージは丘が多く存在している。小さな丘があったり、ちょっとした山にもなりそうな大きな丘があったり。


 これにより、死角がかなり生まれていて、敵からの奇襲を受けやすい地形となっていた。


 だからスキルを全て使った後にスライムから奇襲されて殺されたんだよ。かなり面倒な地形だな。


 今のところ、平原のステージが1番やりやすそうである。


 特に理由がなければ平原を選ぶのが無難かもな。


 そんなことを思いながら、俺は1つづつウルフ達を処理していく。


 このステージ自体にもランダム要素があるのかどうか分からないので、とりあえずウルフと接敵した場所はできる限り記憶しておくことにした。


 戦闘開始から5分後。


 7体のウルフの処理が完了する。


 ちなみに、通常攻撃の検証をしてみたが、普通に問題なかった。


 ただ、やはりスキルより威力が弱いのか一撃で倒せるものでは無い。スキルなしで一度戦ってみたのだが、死にそうだったのでやめておいた。


 これ、本人の技量も必要になりそうだな。ちゃんと剣やその武器を扱う練習が必要かも。


『第一階層第一ステージクリア。3ゴールド獲得。スキルカード報酬を選んでください』


 そして、2度目の報酬画面が俺の前に出てくる。


 やはり、ランダムに3つの選択肢が現れてその中からひとつ選ぶ形式のようだ。


「えーと、今回はスキル3の攻撃強化(極小)と、スキル3の攻撃範囲増加(極小)と、スキル1の魔力消費減少(極小)か。全部“極小”な辺りケチだな。もっといい感じの報酬をくれよ」


 現れた選択肢は3つ。


 その内二つはスキル3なぎ払いの強化であり、ひとつはスキル1シールドバッシュの強化であった。


 現状、どれが強いのかが分からない。が、最初と最後のスキルカードは効果が想像出来る。


 となると、スキル3の攻撃範囲強化。これの検証をした方が良さそうだな。


 俺は真ん中に提示されていた“スキル3の攻撃範囲強化(極小)”を選択。残りの報酬は闇に消え、次のステージ選択画面が現れる。


「とりあえずこの時点で何か変化がある訳では無いか。んで、次のステージは決まってるんだよな」


 俺はそう言うと、“スライムの平野”を選択。


 これは平野が戦いやすいからとかそう言う理由ではない。実はこのステージ、何故かほかのステージ画面と違って赤いのだ。


 ほかの選択画面は緑なのに、このステージだけ赤く染っている。


 大抵こういうステージは、普段のステージよりも難易度が高い代わりにいい報酬をくれる“エリート”と呼ばれるステージだったりする。


 ちょっと強い魔物がでてきたり、出てくる魔物に何らかの強化及び、プレイヤーに対してのデバフがかけられていたり。


 その可能性がおそらく高い。


「またスライムで死にたくはないんだけどなぁ........」


 俺はそう言いつつも、この赤いステージを選択するのであった。


 頼むから窒息死はやめてくれ。あれは苦しすぎてきつい。




【魔物】

 この世界に存在する特殊な生物。ゴブリンやスライムと言ったものがこれに該当し、基本的に“知能が無く尚且つ魔石を体内に保持している”者のことを指す(知能があっても魔物と呼ばれる種族もいる)。

 魔石とは体内に宿る魔力が集まった器官。魔物においては心臓のような役割をしている。


【ウルフ】

 灰色の毛皮を持った狼。体内には魔石が存在し、鋭い牙で相手を噛み殺す。尚、ただのウルフはそこまで危険度が高くなく、あまり強い魔物ではない。序盤のザコ敵と呼ばれるにふさわしい弱さをしているが、群れを作ると統率が取れた行動をするので注意。

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