再び塔の世界へ


 エレノワールがいつの時代の人なのか透けて見えそうになりながらも、俺はその後も異世界チュートリアルを続けた。


 大体はそこまで重要な内容では無かったのだが、一つだけかなり重要な話があった。


 それは金の稼ぎ方である。


 どこの世界に行っても、結局金がなければ生きていけない。


 という訳で、攻略者がどのように金を稼ぐのかという話になったのだが、大まかに分けて2種類の金の稼ぎ方がある。


 1つは、その才能に合った職を探すこと。


 攻略者の中には料理人だったり画家だったりと、色々な才能を持つ物がいる。


 彼らは自分の才能に合った職を探して、金を稼ぐのだ。


 しかし、戦士やその他戦闘職の才能を持った人達は無理がある。運が良ければ衛兵として雇って貰えるらしいが、それも極わずかなのだとか。


 攻略者達は頭がおかしいから、統率が取りづらくて国も常日頃から彼らを使いたくないらしい。


 それでは戦闘の才能がある人達はどうやって金を稼ぐのか。


 この世界には魔物が存在しており、それは塔の内部以外にも居る。


 そして、攻略者ギルドはその魔物の討伐依頼や街の外への薬草採取など危険な仕事を任せるのである。


 要は、異世界漫画でよく見られる“冒険者”としての役割を持たせるのだ。


 魔物の素材の買取や依頼料を貰って、彼らは生活している。エレノワールも“よくある異世界のシステムだな”と言っていた。


 ........インターネット老人の時代に異世界系の話が流行っていたとは思えないんだが?妙だな。


 そして、もう一つの方法は塔で得られた報酬を売るということである。


 塔はその階層をクリアするか、試練の中で魔物を倒すと、素材の一部を貰うことができるらしい。


 それを売ることで、金を稼ぐのだ。


 ただ、これは個人によって違うらしくて、塔の試練によって稼ぎ額が異なる。


 俺はまだ検証できていないので分からないが、とりあえず売れそうなものが出るのか試してみないとな。


 ちなみに、この世界の金は“ゼニー”で換算されている。レートは全て日本円の同じぐらいと考えていいらしく、一日を過ごすなら2000ゼニー(生きるだけなら)あれば何とかなるそうだ。


 とりあえず、一日2000ゼニーを稼ぐことを目標に頑張ればいいんだな。


 エレノワールは“暫くは適当に遊んでみろ”と言っており、俺の生活を保証してくれている。


 ありがたい限りだ。今度から先輩と呼ぼうかな。


 という訳で、翌日。


 異世界チュートリアルを終えた俺は早速塔の試練に向かった。


 色々とあって頭からすっぽ抜けてしまったが、俺はリアルなローグライクを遊べるようになったのだ。


 ならばやるしかないだろう。ローグライカーたるもの、リアルでローグライクができるならやらない手などない。


「攻略者証の提示を」


 塔に向かっている途中、塔に入る前の検問を通ることとなった俺は攻略者証の提示を求められる。


 塔の中に犯罪者が逃げ込まないようにするための対策であり、ここで攻略者証を持っていないと追い出されるのだ。


 俺は素直に攻略者証を出す。


 ちなみに、昨日エレノワールに一通りの流れは教わったので問題なし。予習は大事である。


「はい」

「........ローグ?新入りか?」

「昨日から攻略者になったんだ。これから、お世話になります」

「おう。頑張れよ少年。塔はきっと君を歓迎する」


 検問をしていた兵士は俺の名前を見た事がなくて首を傾げるが、新入りだと話すと笑顔で応援してくれた。


 ここの街は暖かいな。エレノワールに連れ回された時も思ったが、かなり雰囲気がいい。


 俺は、攻略者証をしまうと、塔の中へとはいる。


 ここからはローグライクの始まりだ。できる限り死なないように、気合いを入れて頑張るとしよう。


『塔へようこそ。あなたの才能はローグライクです』


 塔の中に入ると、塔は俺を歓迎する。


 そして、2日前に見た塔のメッセージ画面が勝手に開いた。


 やはり塔の中はゲームのような感じだな。ここだけ明らかに世界観が違う。


 それじゃ、レッツローグと思っていると、画面が切り替わり選択肢が現れた。


『貴方は塔に足を踏み入れた。祝福が授けられ、その歩みを進める。

 1.スキルカードを一つ獲得(ランダム)

 2.ポーションの獲得(ランダム)

 3.現在のゴールド全てを失い、スキルオーブを獲得(ランダム)』


 はい、出た。初心者に優しくない急なイベントと、専門用語。


 説明してよ。我、初心者ぞ?


 塔はかなり初心者に優しくない。俺はローグライクをやってるから“あぁ、このイベントか”と何となく分かるが、何も知らんやつからしたら訳が分からんぞこれ。


 これは、ローグライクにおけるゲームを始める前のイベントだ。


 ゲームによってあったりなかったりするが、基本2回目以降からこのようなイベントが現れる。


 最初に報酬を選択して、攻略を楽にしましょうねと言う要素であり、序盤の攻略においてはかなりの効果を発揮するのだ。


「ちゃんとローグライクだけど........その他説明が欲しいなぁ。ポーションはまだ何となくわかる。回復薬とかそういう系のアイテムが貰えるんだろ?で、問題はスキルオーブだな。これはなんなんだ?」


 ポーションはRPGゲームなんかによく出てくるから想像が着く。自分の身体能力を上昇させたり、体力を回復したりと自分にとって有益な効果をもたらしてくれるものだろう。


 問題は、スキルオーブ。


 スキルカードは以前確認したから分かっている。選んだスキルの強化をしてくれるカードのことだ。


 では、オーブは?それと所持ゴールドとは?


 俺はとりあえず半透明なウィンドウと睨めっこする。画面の端から端まで見て、ようやくその存在に気がついた。


「左上にある金貨のアイコン。これが所持ゴールドか」


 画面左上にあった金貨のアイコン。その金貨の横に10という文字が浮かんでいる。


 多分これが所持ゴールドなのだろう。


 ゲームスタート時から既に持っているお金である。


 お金があるということは、どこかでお金を使って買い物をする要素があるということ。しかし、俺はその買い物要素がどれほど重要なのかを理解していない。


 まぁ、大体の場合は超重要なのだが、今回はスキルオーブが気になるのでこれを選択してみよう。


 俺はウィンドウを操作して3番目の選択肢をタップする。


 すると、左上の金貨の数字が0になり俺の目の前の、白い輝く球体が現れた。


 そしてその球体は俺の体の中へと入り込み、力を溢れさせる。


 ウィンドウを再び見ると、そこには今獲得したスキルオーブの効果が書かれていた。


『守りのオーブ(極小):自身の防御力強化(極小)』


「あー、多分あれだな。常時発動スキルパッシブ系か」


 常時発動スキル。


 その名の通り、自身に永続的な効果をもたらすスキルの事をそう呼ぶ。


 おそらくこのスキルオーブは、別ゲーで言うレリックや遺物と同じ扱いなのだろう。


 自身の持つスキルには直接的な強化が施されないが、自分自身が強くなるタイプのものだ。


 全てを確認しているわけじゃないからなんとも言えないが、強化バフ関連のものが多分多い。


 ある程度やってるからね。想像が着く。


『ステージの選択をしてください』


 と、ここまで来てステージの選択が入る。


 スキルオーブについての考察はまた後でやろう。今からはローグライクにおける最も重要な要素“道選び”が始まるのだ。


「今回でクリアしたいけど、多分無理なんだろうなぁ........そもそもクリア条件知らねぇし」


 俺はあまりにも不親切すぎる塔に愚痴を吐きながら、今後の自分の命を握ると言っても過言では無いルート選びを始めるのであった。


 まぁ、正直何もわかんないんですけどね!!





 後書き。

 今日は休日らしいので、もう一話お昼頃に上げます。

 ちなみに、スキルオーブはかなり強力なのでなるべくとった方がいい(下振れると終わるけど)。

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