ようこそ異世界へ
リリーの説明により、ある程度この世界のことについて把握した俺は、片っ端から漫画のネタバレを言い続けていた。
某有名海賊の漫画から、ちょっとマイナーな漫画まで。中には俺が知らないものもあったのでそれのネタバレはできなかったが、話の続きを知れたリリーは大変満足そうであった。
俺も、異世界に来て早々にわけも分からず死んで逮捕されそうになったりしていたので、こうして自分の心を落ち着かせる時間があったのはありがたい。
そんな話をしていると、バン!!と扉が開く。
視線を向けると、そこには深紅の長髪をした特徴的な服装をした女が立っていた。
「ただいまー........ん?誰そいつ」
「あ、エレノワールさん。お帰りなさい。彼は私達と同じく、この世界に来てしまった被害者ですよ」
「ふぅん。今度は野郎か。しかも、1年ぐらいしか経っていないのを考えると、規則性が分からないな。リリー、この世界についての話はある程度したか?」
「はい。最低限はしたかと思います」
「そっか。なら明日私が補足しながら話せばいいね」
エレノワール。
確か、ジョーンが“クランマスター”とか言っていた人物だ。この世界において“クラン”というのがどういう立場にあるのかは分からないが、とりあえず偉い人だと言うのはわかる。
身長はかなり高めで、175cm近く、髪と目が燃え盛る炎のように赤い。
相当な美人であり、スタイルも抜群だが、俺の本能がこの人と関わるとロクなことにならないと告げていた。
と言うか、なぜに髪の色が赤色なんだ?同じ日本人なら黒色のはずなんだが........
そんなことを思っていると、エレノワールは俺を下からじっくりと見る。
まるで猛獣に品定めされている気分だ。俺はうさぎか?
「うーん。君、名前は?」
「俺は────」
「あ、地球での名前は聞いてないよ。こっちでの名前。既に付けたはずでしょ?」
「........???」
何を言ってるんだこいつは。
俺が首を傾げると、俺の反応を見たエレノワールは何かを察したのかリリーを見る。
そして、リリーはエレノワールから顔を逸らした。
「リリー?ちゃんと説明したと聞いたはずなんだけど?」
「えーと、基礎中の基礎だけ説明してました。そしたらエレノワールさんが帰ってきたんです」
「........(にっこりと笑って圧をかける)」
「........嘘ですごめんなさい。漫画の続きが気になって途中で投げ出しました」
「素直でよろしい」
エレノワールはそう言うと、リリーの頭を優しく撫でる。
そして、よく分かっていない俺に説明してくれた。
「この世界じゃ私たちの昔の名前は違和感がすごいんだ。日本人の名前が........そうだな。ソン・リュンミルみたいな名前だったらおかしいだろう?」
「まぁ、確かに」
「私達は余所者だ。そんな余所者がこの世界に慣れていくには、その世界に合わせた名前にした方がいい。この髪なんかもそういう理由で染めてある。これは他にも理由があるんだが........それはその時に説明しよう。まずは自分の名前を考えてくれ。ゲームを始める時みたいにね」
なるほど。だからリリー、エレノワールと言った日本人らしくない名前を使っているのか。
なら、俺はいつも使っているゲームネームを使わせてもらうとしよう。考えるの面倒臭いし。
「決まったかい?」
俺の顔を見て、名前を決めたと察したエレノワールは俺の名前を聞いてくる。
これから俺は、この世界でこの名前で生きるとしよう。ローグライク大好き男が名乗る名前なんて、ひとつしかないのさ。
「ローグ。そう名乗ることにします」
「いい名前じゃないか。それと、タメ口でいい。初対面の相手に敬語なんて舐められるぞ?異世界は思っている以上に弱肉強食の世界だ」
「はい........じゃなくて分かった。よろしくエレノワール」
「おう。よろしくなローグ」
これからはローグと名乗るとしよう。地球にいた頃の名前は一旦忘れて、俺はこの世界で生きるしかないのだ。
運良く見つけた同胞達。彼女達と上手くやっていくことが、とりあえずの目標になりそうかな。
そう思っていると、エレノワールはソファーにドカッと座ってニッと笑う。
「リリーが漫画の話をしていたってことは、お前は日本人で間違いないだろう。途中で放り投げたとは言えど、多少の説明も受けたはず。なら、明日は私と街を回るぞ。アレだ。チュートリアルをしてやるよ。この世界で生き抜くための知恵をさずけてやる」
「助かるよ。軽い説明を受けても、実際に目にしないと分からないことは多いだろうからね」
「分かってるじゃないか。さて、そんなお前さんには、先にこの世界の同郷達について──────」
エレノワールと話していると、ガチャと扉が再び開く。
後ろを振り向くと、そこには1人のおっさんとくっそ可愛い女の子が立っていた。
おっさんは身長180ぐらいのゴリゴリの日本人。ほかの人たちと違って、一目見た時点で日本人とわかる位に日本人の顔と特徴をしている。もちろん、髪の色や目の色も変えていない。
その手には刀のようなものが握られていた。
もう1人は、緑色の髪にメッシュが入ったかわいい女の子。目の色はエメラルドのように透明な緑色で輝いており、見る者を魅了する。
その背中にはクソデカ大剣が背負われている。自分の体よりもデカイ鉄の塊をよくもまぁ持てるものだ。
「帰った........あ、お客さんか」
「本当だ。珍しいね」
「喜べ野郎共。野郎が増えたぞ。こいつは日本人だ」
「本当か?!日本男児?!ジャパニーズボーイ!!」
「うわぁ!!やったー!!」
俺が日本人であることが明かされると、2人は大喜びで俺の方によってくる。
特におっさんの喜び方が凄まじい。おっさんに喜ばれる趣味はしてないんだがなぁ........
そして、女の子の方は近い。
めっちゃいい匂いがするし、距離が近すぎて困る。
「おいお前ら。まだこいつはこの世界に来て一日目のひよっこだ。あまりそうガツガツするな。自己紹介しろよ自己紹介」
「む、そうだな。初めまして同胞よ。俺はムサシ。見ての通り刀を使う。よろしくな」
「初めまして。僕はニア。大剣使いだよ。よろしくね」
「ローグだ。つい数時間前にこの世界に来たばかりの右も左も分からない子羊だ。何か分からないことがあったら聞くかもしれんが、その時はよろしく頼む」
武士のようなおっさんがムサシ。そして大剣を背負った女の子がニアか。
俺は人の名前を覚えるのがあまり得意では無いが、ちゃんと1回で覚えておかないとな。
と、頭の中で名前を整理しているととんでもない爆弾が落とされる。
エレノワールはおもむろに口を開くと、ニアについて一言言った。
「ちなみに、ニアは男だぞ」
「........!!?!?!?!」
男........だと........
「お、固まった。いやー私達と同じような反応をしててウケるな。ニアがこの世界に来たばかり時を思い出す」
「俺も女の子だと思ってたしな。しょうがない。と言うか、街の連中も女の子だと思っているやつはごまんといるぞ」
「あー、この前ニア君と一緒にいたら、お婆さんに“可愛い子たちだねぇ”って言われてお菓子をもらいましたよ。もちろん、ニア君は女の子扱いでした」
「うぅ........僕のせいなのそれ?」
「「「そうだね」」」
こんなに可愛い子が男の子........?
世界とは不思議なものである。可愛い男の子。つまり、男の娘。
日本にもこんなファンタジーな子が存在していたとか、バグかよ。
「さて、私達は彼を歓迎してやろう。今日は派手に飲もうぜ!!」
「いいな。久々に酒でも開けるか」
「料理作りますね」
「あ、手伝います!!」
こうして、俺は彼らと出会った。
いきなりゴブリンと戦わされ、スライムに殺された挙句逮捕されそうになったが、なんやかんや上手くやっていけそうだ。
「あぁ、そうだ。ローグ。ようこそ異世界へ。塔の世界は君を歓迎するよ」
その日は、俺の歓迎会という事でどんちゃん騒ぎをしてぶっ倒れるまで飲み食いした。
多分、人生で忘れられない一日となったことだろう。
後書き。
今日から一話づつの更新です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます