同郷
出身国が日本だということを伝えたら、別の場所に行くと言って連れていたれた俺。
数分歩いた先に待っていたのは、シェアハウスのような少し大きめの家であった。
作りは日本の建築とはかけ離れており、どちらかと言えば西洋風。
アレだ。異世界転生(転移)系によくある表現を使うならば、中世ヨーロッパ風とでも言うべきだろうか。
「おーい。エレノワール!!いるなら出て来い!!」
そんな家をドンドンと叩くジョーン。
どうやら、ココが目的地らしい。
扉を叩き、しばらく待っていると扉が開く。その扉の向こうから出てきたのは、紫の髪をした小さな少女であった。
先程から嫌そうな雰囲気が出ていたジョーンは、その少女を見た瞬間とても優しい雰囲気に変わる。
この世界でも大人の多くは子供に優しいのだろうか。
「ジョーンさん。こんにちは」
「こんにちはリリーちゃん。クランマスターはいるかい?」
「いえ。今家にいるのは私だけです。他のみんなは外出しています」
「そうか........あー、リリーちゃん、こいつが“ニホン”出身だと言っている。リリーちゃんさえ良ければ、ここに彼を置いていくが........どうする?」
「日本人ですか?!」
日本人という言葉を聞いた瞬間、リリーと呼ばれた少女の目が輝いた。
そして、彼女は俺を頭の先から足の先まで眺めて深く頷く。
「わかりました。こちらで彼の身柄は預かります」
「助かるよ。それじゃ、俺はこれで失礼させてもらう。また今度来たら飴でもあげるからね」
「はい。楽しみにしています」
ジョーンはそう言うと、俺の手に縛り付けた縄を解いてくれた。
ちょっと痛かったから助かる。これで自由の身や!!
「何も問題なかったら近いうちに会うだろうし、自己紹介はその時でいいか。じゃあな兄ちゃん」
「あ、はい。ありがとうございました」
こうして、ジョーンは去っていく。
俺は結局最後まで名乗ることなく、次はこの少女のお世話になりそうだ。
「えーと、とりあえずお入りください」
「あ、はい。お邪魔します」
なんとも言えない空気の中、俺はリリーの指示に従い家の中に入る。
靴置き場があったので、俺はそこに靴を脱いでちゃんと揃えてから家に上がった。
部屋の中は綺麗で、しかも、どこか日本を感じさせる作りとなっている。
もちろん、違う点は多いが、そんな雰囲気があった。
「それではここにおすわり下さい。えーと、お茶飲みます?」
「あ、じゃぁ頂きます」
すごく気まずいなぁと思いつつ、俺は言われた通り椅子に座る。
そしてお茶を出されたので、大人しく飲んでおいた。
毒が入っているかもとか考えてしまったが、ここで俺を殺すメリットなど無い。死んだらそこまでだと思いつつ、俺はこの一連の騒ぎによる混乱によって乾いた喉を潤した。
「お茶、美味しかったですか?」
お茶を飲み終えたのを確認してから、彼女は
この世界に来てから、言語は理解できるものの日本語とは違う他の言語を聞かされていた俺は目を見開いた。
この人、日本人だ。
この場でどう返すのが正解なのか。いくら馬鹿な俺でもそれぐらいはわかる。
俺は今試されているのだ。本当に日本人なのかどうかを。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
だがら、日本語で返す。
リリーと呼ばれた少女は俺が日本語で言葉を返したのを確認すると、パァと顔を笑顔にして喜んだ。
「日本語が通じるということは日本人で間違いないですね!!同郷が増えて嬉しいです!!」
「........ということは、リリーさんも?」
「はい。私も日本人です。あ、えーと、貴方は今何も分からない状況だと思うのでとりあえず色々と説明しますね」
リリーはそう言うとパタパタと二階へと走っていき、数分後に戻ってくる。
俺はその間、ようやくこの世界について解説してくれる人が現れたことにほっとしていた。
無知は罪。知らないことで犯罪となることは良くある事だ。お金を払わなきゃ物を買えないことを知らなければ、万引き犯となる。
この世界の事を知らなかった俺は、実際に犯罪者になりかけていたわけだしな。
戻ってきたリリーは、一冊の本を持っていた。
そこには日本語で“この世界についての説明マニュアル”と書かれている。
「おまたせしました。今から、簡単にこの世界について説明しますね」
「よろしくお願いします」
こうして、ようやく異世界チュートリアルが始まった。
簡単に説明すると、この世界は俺の思っていた通り地球とは別の世界である。
中世ヨーロッパのような街並みや、あの人間とは姿の違う医者のように、異世界転生系の話が好きな者ならば誰でも分かるようなコテコテな異世界なんだとか。
まぁ、その辺の説明は一旦省くとしよう。それよりも重要な話があったからな。
この世界は異世界であり、魔法やら魔力が存在しているのはもちろん、人間と姿の異なる別種族が存在している。
ここまではよくある異世界の話だが、それとは大きく異なる部分も存在していた。
それが“塔”の存在。
この“塔”と呼ばれる建物は、世界各地にて観測が可能であり、どのように存在しているかは不明だが世界各地に存在している。
そして、この世界の人々はこの塔から恩恵を授かり、塔を攻略することを目的としているらしい。
この世界では生まれて直ぐに塔の加護を受け取る。その加護は人の発展に欠かせないものであり、この世界の人々は才能としてその加護を分類しているそうな。
例えば、“戦士”という加護を授かれば戦士としての才能が付与され、“料理人”という加護を授かれば料理の才能を付与される。
こうして人々は塔からの恩恵によって生きている。もちろん、その才能とは異なった職業に着くことも可能だ。
だが、加護と違った職業に対して才能が開花することは滅多にない。
そして人々は塔を神としている。
そりゃ、力をくれる塔を神の象徴としても仕方がないだろう。人とは、生物とはそういう生き物だ。
さて、塔が神と同義であるこの世界だが、この世界では塔を攻略していくことが人々の課題だとされている。
塔の内部には入ることが可能であり、そこで試練を受けるのだ。
試練は人によって様々であり、戦士であれば戦闘系、料理人であれば食材の見分け方や料理を作るなど、本当に人によって違うらしい。
塔に挑むもの達の事を“攻略者”と呼び、彼らは攻略者ギルドによって管理されている。
なぜ管理をする必要があるのか。
それは、犯罪者が塔に逃げ込んだ場合のことを想定しているかららしい。
塔は試練。試練に打ち勝つには、それ相応の力が必要だ。しかし、世の中皆が皆その力を持っている訳では無い。
時には試練に負けて死ぬこともあるだろう。
塔もそれを分かっているのか、塔の内部で死んだ場合は塔の外で生き返らされる。
俺がスライム相手にみっともなく殺されたのにも関わらず、今をこうして生きているのは塔の内部で死んだからだ。
さて、犯罪者の話に戻るが、基本塔の試練は1人で挑むものだ。1度試練に挑むと、別の人が同じ世界に入ることは出来ない。
犯罪者はこの特性を利用して、塔に逃げることがある。
が、試練の中で生き続けるのは難しい。必ずどこかで死に、外で蘇生される。
その時に犯罪者は身分証を持ってない。何故ならば、身分証を見せたら自分が犯罪者だとバレるから。
こうして、身分証を持ってないやつは犯罪者と断定できるわけだ。よく考えられているシステムである。
「だから俺は捕まったのか........」
「そういうことです。さて、産まれたての赤子でも知っているようなこの世界の基礎知識はこれにて終わりです。あとはエレノワールさんが明日この街を案内しながら色々と話してくれると思います。ですので─────」
リリーはそういうと、ずいっと身を乗り出して目を輝かせる。
「────漫画の続きを教えてください!!」
........あぁ。異世界転移してして漫画とか途中で読めなくなったもんね。
こうして俺は、そのクランマスターであるエレノワールという人が帰ってくるまで、有名漫画のネタバレを言わされ続けるのであった。
だから、俺が日本人と聞いて目を輝かせていたのか........
でも、すまんなリリー。俺も
【塔】
この世界の神とも呼ばれる存在。世界各地に存在しているが、そのどれもが同じ1つの塔である。塔は人々に才能を与え、塔の内部に入った者に試練を与える。
試練の内容は人それぞれ。その人の才能が十全に生きるような試練を与える。
塔の内部で死んだとしても、それは現実の死とはならず塔の外で蘇る。
後書き。
今日はここまで。明日から0時頃に一話ずつ更新となります。
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