第18話 それから……
イゼベラの元気な姿が見れた私は城で政務に励んでいた。卒業すれば仕事も本格的になる。それまでにするべきことは山ほどあった。
そんな忙しい卒業式の3ヵ月前に父の執務室に呼ばれた。
私は執務室に入ると大きな声を出した。
「参りました」
「座れ」
「はい」
父の言葉で私はソファーに座ると、父と母が座っていた。
今日はどうやらいい話のようだな。
私は2人の顔を見てほっとした。
「実はな、イザベラ嬢の再建した孤児院を視察したスピカ国のニコラス殿下が、感銘を受けていた。そして、『ぜひ我が国も学ばせてほしい』と使節団を送るとのことだ」
「え?! あの大国スピカ国の使節団ですか?」
私は思わず息を飲んだ。そして、父は嬉しそうに言った。
「ああ。それを聞いたアンタレス国も『ぜひ使節団の受け入れを』と言ってきた」
「アンタレス国まで!!」
「ああ。この件の責任者をイザベラ嬢にお願いしようと思う」
私は驚いた。
「イザベラですか? イザベラはなんと?」
「引き受けてくれるそうだ」
「そうですか……ふふふ。彼女は元々、頭がよく、機転もききます。適任だと思います。」
すると、父が嬉しそうな声を上げた。
「そうか!! ではこの件は彼女に任せよう」
「はい。では、お話はそれだけですか? でしたら失礼します。やることが山積しておりますので」
私が席を立とうとすると、母が声を上げた。
「待って!リード。あなたの婚約者が決まったのよ」
「そうですか。わかりました」
すると、父と母が眉を寄せた。
「誰か聞かないのか?」
「はい。どなたでも結構です」
すると父が悲しそうな顔をした後、母が何かを思いついたようにニヤリと笑って、父の耳元に口を寄せた。すると、父もニヤリと笑った。そして、私を見て言った。
「では、卒業式の日に伝えよう!! それまでにはその山積しているという用事を全て終わらせろ!!」
「卒業式までに全てですか?」
私は眉を寄せた。すると母が王妃のような威厳のある顔で言った。
「当たり前です。あなたには卒業式の後、婚約した令嬢と、懇意になる時間を作ることを命じます。最低でも一週間は令嬢との仲を深めること。いいですね」
するとそれを見た父も姿勢をただし、国王の顔をした。
「そうじゃ。卒業式の後は休暇とする。以上だ!!」
「御意」
私は気づかれぬように溜息をついた。王命を出されては、従わないわけにはいかない。
自分の執務室に戻る途中の窓からは空が見えた。
いい天気だな。
そして、空を見ながら私は気づけば小さく笑っていた。
イザベラの再建した孤児院が認められたのか……。彼女は王妃教育を頑張っていた。それが少しでも報われたのならよかった。きっと彼女なら各国要人相手でも対等に渡り合えるだろう。その姿を見れるだけで幸せだと思わなければな。
◇
執務室に入るとエイドとクラウドがいた。
長期休みが終わり、クラウドは学園に通っていたので城にはほとんど姿を見せていなかった。私はすでに卒業のための学びはすべて終えており、かつ執務も忙しかったので、なかなか学園に足を運べていなかった。なのでクラウドに会うのも久しぶりだった。
「クラウド? どうした?」
「ああ、騎士団の団長に呼ばれた。卒業式の後に、第6部隊の隊長になるのだそうだ」
「そうか!!」
「ああ」
私が喜ぶとクラウドも照れたように笑った。
「ところで、陛下からのお話はなんだったのですか?」
「ああ、イザベラの再建した孤児院を視察したいと各国が使節団を送ってくるそうだ」
「それは素晴らしいですね!!」
私は思わず笑った。
「ああ。さすがイザベラだ」
するとエイドが目を細めた。
「イザベラ嬢のことになると殿下はいい笑顔ですね? それなのになぜそんな落ち込んでいるのです?」
私は思わずエイドを見つめた。
「落ち込んでいるか?」
「はい」
「そうだな」
エイドとクラウドも頷いた。
私は溜息をつくと、執務机に座った。
「私の婚約者が決まったらしい」
「「…………」」
すると2人ともつらそうな顔で俯いた。
「それで、卒業式の後その令嬢との仲を深めるために一週間の休暇だと!! だからそれまでに全てを終わらせろだそうだ!!」
エイドが眉を寄せた。
「令嬢との一週間の休暇…」
クラウドがつらそうに呟いた。
「残酷だな……」
私は溜息をついた。
「仕方ないさ。私は王族だ。いつまでも婚約者が不在のままというわけにはいかない」
エイドがつらそうに言った。
「それでお相手は?」
「聞けるわけないだろ!! イザベラ以外の令嬢の名前など!!」
私は大声をあげていた。
「申し訳ありませんでした」
エイドは深々と頭を下げた。
「いや。私こそ大声をあげてすまない」
私もハッとして座り込んだ。
「とりあえず、この山積みの政務を終わらせることにしよう」
「はい」
すると、クラウドが拳を握りしめて扉に向かった。
「陛下にお話に行ってくる!!」
「待て!! 無駄だ!!」
「無駄でもなんでも俺は行く!!」
クラウドが執務室を出て行った。
「大丈夫でしょうか?」
「ああ。クラウドなら大丈夫だろう。よく報告に行っているからな。私たちは仕事に戻ろう」
「はい」
しばらくするとなんともいえない顔のクラウドが執務室に戻ってきた。
「どうでした?!」
エイドの声にクラウドは困ったように答えた。
「ん~~。あ~、そうだな。とりあえず、卒業式までに絶対にやることは終わらせた方がいいな。うん、確実に終わらせた方がいいだろうと思う。それでは俺は騎士団に戻る。では」
クラウドはよそよそしい態度で素早く帰って行った。
「どうしたのでしょうか?」
「さぁな…とりあえず、終わらせるぞ」
「はい」
そして、私は卒業式までに終わらせるための全力を尽くしたのだった。
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