第17話 新たな決意



 それから気が付くと昼食の時間になっていた。私は甲冑を着ていたので、昼を持って木の影に移動した。

 私は皆に見えない場所で、一人甲冑を取ると、「ふぅ~」と息を吐いた。

 風が髪をくすぐるように吹き抜けた。


 涼しいな……。


 私が目を閉じていると「アル様~」と呼ぶイザベラの声が聞こえた。


 え? イザベラ?! マズイ!!


 私が大急ぎで甲冑をかぶろうとすると、イザベラが大きな声で言った。


「アル様!! そちらには行きませんので、甲冑は外したままで!!」


 まぁ、食事なのだから外していると思うか……。


 私はイザベラの言葉に甲冑を持つ手を止めた。すると、木の向こうにイザベラが座った気配を感じた。

 今、私たちは木を挟んで背中合わせて座っている。


 イザベラ……?


 イザベラの様子に私は困惑した。


「アル様。聞いて頂けますか?」


 ――カシャ


 頷くと甲冑の音が聞こえた。私はイザベラの言葉に耳を傾けた。


「私、ずっと完璧を探していたんです。でも私には完璧は見つけられませんでした」


 そんな!! イザベラは十分よくできている!! なぜそのような物を求めるのだ?!


 私は思わず、木の後ろにいるイザベラの方を振り向いた。するとイザベラまた話を始めた。


「だからこれからは……探すんじゃなくて、作ろうと思います。小さくても自分が出来ることをして、自分で自分を作っていこうと思います」


 探すのではなく作る!? それなら私も、イザベラと共に作っていきたい!!


 私はすぐにでもイザベラを抱きしめたかった。抱きしめて側にいてほしいと言おうとした、その時、イザベラが口を開いた。


「こう思えるようになったのもアル様のおかげです。あなたに(もう一度)お会いできてよかった。お食事の邪魔をしてすみません!! では皆の所に戻ります!!」


 ――………それはイザベラからの別れの言葉だった。


 イザベラが私のことに気づいているのかいないのかわからない。だが先程の言葉は彼女からの別れの言葉だ、私にはそう思えた。

 イザベラが去った後、私は涙を流していた。


 イザベラはすでに私と離れる道を歩き始めたのだな……。


 もう、そこには以前のイザベラはいなかった。

 生まれ変わった、別のイザベラだった。


 私も生まれ変わる必要があるな。


 そうして私もようやく彼女と離れることを決意した。



 その日は彼女との最後の時間を楽しむために全力で楽しんだ。

 彼女も笑っていて、それが嬉しくて私も笑った。そして、畑作りが終わって、彼女を馬車で送り届ける時間になった。

 いよいよ彼女と別れの時がきた。


 きっとイザベラと会うのはこれが最後だ。


 私はぎゅっと自分の手を握りしめた。するとクラウドがこちらをチラリと見ると、イザベラの方を見た。クラウドは真剣な顔をして言った。


「イザベラ嬢、最後にアルに笑いかけてくれないか?」

「え?」

 え?


 イザベラも驚いていたが、私も驚いていた。私たちが困惑していると、クラウドが頭を下げた。


「頼む」

「はい」


 イザベラは返事をすると私の正面に座り、微笑んだ。


 ああ、やはり彼女の笑顔は美しい。


 気が付くと私は涙を流していた。


「今日はありがとうございました。とても素敵な畑が出来ました。アル様……どうか、お元気で」


 私はイザベラの手を取ると何度も頷いた。


 ありがとう!! どうかいつまでもその笑顔でいてくれ!! 幸せにな。さよなら……――イザベラ。


 イザベラと別れ私は馬車の中で、甲冑の顔の部分を外した。


「すまないな」


 私が呟くと、クラウドが苦しそうな顔をした。


「いえ」


 私はできるだけ笑顔を作った。


「クラウド!! 心配するな!! お前のおかげで、良い別れになった。私も前を向けそうだ。あれほど元気なイザベラが見れたのだ……感謝する」


 クラウドが唇を噛んだ。


「やはり、もう戻れないのでしょうか?」


 私は笑いなら言った。


「ああ、もう戻れない」


 するとクラウドが涙を流し出した。


「泣きながら言わないで下さい。私も泣いてしまいます」

「え?」


 笑ったつもりだったが涙が溢れていた。


 ――……今日だけ。今日だけは……思い切り泣くことにした。



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