第16話 せめぎ合う想い
そして私たちは共に馬車に乗った。私はイザベラの前に座りイザベラを見ていた。イザベラの頬には赤みが戻り、またまだ細いとはいえ少しだけ以前の健康的なイザベラに戻っているように見えた。
顔色がいいな。食べているというのは本当だな。前ほど倒れそうではないし、寝れているようだ。クマが消えている……良かった。
私はイザベラの変化をとても嬉しく思った。
しかし同時に……。
イザベラにとって私との結婚はそれほどまでに重圧だったのか……。私と離れた途端このように以前のイザベラに戻るとは……。やはり私はイザベラと離れるべきなのだろか……。
私はイゼベラが元気になったという嬉しさと、自分と婚約破棄をしたからこそ元気になったという悲しさという相反する感情に挟まれ、苦しんでいた。
そんな中、孤児院に着いて院長に話をすると感動した院長がイザベラの手を握ってきた。
私は触れられないのに……院長め!! ……いけない!! 私は何を!! 手を握るなどたいしたことではない!! 落ち着け!!
私は、不相応のみっともない嫉妬心を隠して、イザベラの後に付いて行った。
◇
イザベラにたちについて行き、着いた場所はただの空地だった。
……? 何をするのだ?
そういえば、孤児院に行くとしか聞いていなかったので、これからなにをするのかわからなかった。するとイザベラが腕まくりをして鍬を持って大きな声で言った。
「さぁ!! みんなここに畑を作るわよ!!」
え? 畑?? しかも、まさかイザベラが耕すのか?!
私は衝撃を受けた。
イザベラの家の庭師が説明をした後、「やってみたい!!」と張り切る子供たちに鍬を持たせてやらせてみたが、子供にできるはずがなかった。すると「じゃあ、私が」とイザベラが鍬を持とうとした。
あ!! それなら私が!
イザベラの前に鍬を持とうとすると、素早く庭師が鍬を持った。すると次にクラウドが鍬を持った。そして2人は耕しだしてしまった。
完全に出遅れたな……。
私は急いで鍬を手に取った。
鍬は3本しかなかったようで、これでイザベラの手がマメだらけになることはないだろう。私がほっとしていると、イザベラから話しかけられた。
「あの!! 甲冑で耕すのはさすがに大変ではないですか?」
大丈夫だ!!任せろ!!
とは思ったが伝える手段がなかったので、とりあえず手でやってみた。するとイザベラが首を傾けて言った。
「え~、『大丈夫!任せて!』ってことかしら?」
さすが!! イザベラだ!! 私の思った通りのことだ!!
私は嬉しくて、浮かれながら指で『〇』を作った。すると次の瞬間、奇跡が起きた!!
「ふふふ。ありがとうございます。無理しないで下さいね」
イザベラが笑ったのだ。昔のように花のような笑顔を向けてくれた。
今…イザベラが笑った?
まさかイザベラの笑顔が見れるとは思っていなかった私は気が付けば涙を流していた。ずっと見たかった。
何年も待ち続けていた……。
「夢みたいだ……イザベラが笑った……」
そして思わず呟いてしまった。
いけない!!
私は急いで口を押さえた。
「あの……アル様?」
私の様子を不審に思ったイザベラに話しかけられた。
なんでもない!! がんばるぞ!!
私は鍬を持って反対の腕を曲げた。するとイザベラが嬉しそうに笑ってくれた。
「『畑を耕すのを頑張ります』ですか?」
俺は嬉しくてまた指で『〇』を作り空地に向かった。
嬉しい!! 嬉しい!! またイザベラが笑ってくれた!!
私は嬉しくて踊るように鍬を使った。
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