第15話 姿を隠して
「ダメです!!」
クラウドが眉を釣り上げて断言した。
「なぜだ!! 私も元気なイザベラが見たい!!」
いつもならこれほどクラウドに止められれば受け入れるが、今回は私も簡単には引けなかった。あのイザベラが元気にしているのなら……一目だけでも彼女に会いたいと思った。
そんな私にクラウドが大きく息を吐いた。
「折角イザベラ嬢が立ち直ろうとしているのに、もし殿下に会って元に戻ったらどうするのです? 今はまだ会わない方がいい!!」
「だが、私と会っても問題ないかもしれないだろう?」
「問題ないという保障はありません!!!」
クラウドがさらに大きな声を出した。
クラウドは冗談のような言い方はするがここまで真剣に言うのは珍しい事だった。
それでも私はあきらめられないほど、イザベラの元気な顔が見たかった。
笑顔が見たいなんて贅沢は言わないせめて、無表情ではない彼女が一目みたい!!
「少しだけでもよいのだ……」
「殿下……」
クラウドが困ったように呟いた。するとエイドが「ポン」と手を叩いた。
「あれはどうです?」
そして、指さした先には甲冑があった。
「甲冑?!エイド本気か?」
クラウドが驚いて尋ねた。するとエイドは真剣に言った。
「はい。殿下はイザベラ様に会われる時は常にカッコつけていたので、まさか、そんな殿下が甲冑など孤児院に全くそぐわない滑稽な恰好で現れるとは夢にも思わないでしょう!!」
エイドの言葉にクラウドが頭を押さえた。
「エイド…悪意がなければ何を言ってもいいわけではないのだぞ?」
「はい?」
私はつかつかと甲冑に歩み寄り、甲冑の頭を手に取った。
「クラウド!! 私は甲冑を着て彼女と会う!!」
「殿下?! 正気ですか?」
クラウドが驚いて大きく目を見開いた。
「ああ。それに声でバレぬように決して口は開かぬ!! どんな滑稽であろうと構わぬ!! 私は彼女の元気な姿が見たいのだ……」
最後の方は小さくて聞き取れなったかもしれない。クラウドが困ったように頬を掻いたあと口を開いた。
「御意」
こうして私は甲冑を着て彼女に会うことにしたのだった。
◇
次の日、私は甲冑を着て馬車に乗っていた。
「なかなか動けるものだな」
私の言葉にクラウドが眉を上げた。
「それは…殿下が真面目に有事の際のために甲冑を着た訓練もされていたからでしょ?」
「ああ、それもそうだな。訓練しておいてよかった」
するとクラウドが小さく笑った。
「まさに有事の際ですしね」
「ふん! 減らず口を!!」
クラウドと言い合いをしているうち公爵家に着いた。気が付くと手に汗を握っていた。
私は、緊張しているのか?
そわそわと、はやる思いでイザベラを待っていると、イザベラは庶民の女性が作業を行う時に着るとてもラフな服を着ていた。髪もみつあみをしただけの簡単なものだった。
イザベラのこのような姿は初めて見たな……。
初めて見たイザベラの姿は私の知っている彼女は違ってとても新鮮に思えた。イザベラは私を見るととても驚いていた。
イザベラが驚いている!!
無表情ではない彼女の驚いた姿に私は感動していた。イザベラは少し考えるように首を傾けたあと、私の方を見た。
「おはようございます。クラウド様。あの……この方は?」
するとクラウド様が困ったように言った。
「イザベラ嬢の孤児院の立て直しの話をしたら興味を持ってな。今日は……え~名前は……アールも護衛として同行する」
アールって!! リードのRってそのままじゃないか!!
私はイザベラに気づかれぬようにクラウドをバシバシと叩いた。すると聞き取れなったのかイザベラが口を開いた。
「アール? それともアル様ですか?」
さすが!! ナイスだ!! イザベラ!! アルの方が断然いい!!
クラウドの隣で大きく頷くと、クラウドは視線を泳がせながら言った。
「え? アル? あ~、え~。(アールだと割とそのままだな)そうだアルだ!! アルは口はきかないが気にしないでくれ」
クラウドは誤魔化すのが壊滅的に下手だった。
おい、しっかりしろ!! 私だと気づかれてしまうだろう!!
「は、はい」
私の心配をよそにどうやらイザベラは納得してくれたようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます