第13話 苦しみの婚約破棄
とうとうイザベラに――婚約破棄を告げる日が訪れた。
婚約破棄などしたくない!! だが、イザベラをこのまま放ってはおけない!!
この期に及んで、私は直前まで婚約破棄を回避できないかと、もがいていた。
「イザベラ、おはよう。綺麗だね」
私はエスコートするためにイザベラを迎えに行った。
「本日は宜しくお願い致します。リード殿下」
イザベラはまるで人形のように答えた。以前のイザベラなら顔を赤くして「ありがとうございます。リード殿下も素敵ですわ」と笑ってくれた。
イザベラ……。
手を握ると骨が浮き出していた。
顔も髪も以前のイザベラの面影はどこにもなかった。
イザベラ……くっ!! やはり婚約破棄しか道はないのか?!
パーティー会場は王宮ではないが、私はイザベラを王宮に連れて行った。皆にこの姿のイザベラを見せることができなかったからだ。だから王宮の一室をパーティー会場に仕立てた。
婚約破棄を告げたら、イザベラの意識が戻るかもしれない。
もしかして、イザベラが断ってくれるかもしれない。
婚約破棄のショックで元に戻ってくれるかもしれない。
私は最後まであがいていた。
そして、私はわずかな望みをかけて婚約破棄を告げた。
「君との婚約を破棄させてもらいたい」
私は決死の覚悟でイザベラに婚約破棄を告げた。
――だが……。
だがイザベラの表情には一切の変化は見られなった。
「………イザベラ、君は……私がこんなことを言ってもなお、顔色一つ変えないのだな」
イザベラ!! 頼む!! イヤだと……婚約破棄などしたくはないと言ってくれ!! そうしてくれたら、私は何があっても……手放しはしない!!
思わず私は縋るような想いでイザベラを見た。
「リード殿下……」
イザベラが口を開いた。私は緊張してイザベラを見つめていた。
イザベラはまるで倒れそうなほどやつれた身体を必死に動かしながら、美しく礼をした。そして、スッと背筋を伸ばして告げた。
「承りました……」
私はまるで何かに殴られたような衝撃を感じていた。
え……? 婚約破棄を受け入れた? しかもこんなあっさりと? ……イザベラも私を想ってくれていたのではなかったのか?
「……そうか……それが君の………答えなのか………」
思わず泣きそうになって尋ねたが、イザベラの表情は変わらなかった。
「はい。リード殿下、息災であられますことを」
イザベラの言葉でまるで世界が回っているようで気分が悪くなり立っていられなくなった。
こんな簡単にイザベラは別れを受け入れるのか?
イザベラは私のことなど想ってくれてはいなかったのか?
私ではイザベラの涙一滴、取り返せないというのか!!!!
「くっ!!」
私はつらくてその場から立ち去った。
戻る途中に私はクラウドに合図をした。クラウドは頷くとイザベラの元に向かった。私は割れそうになる頭を押さえた。
「私には何もできないのか!!」
『ドン!!』
私は思わず壁を殴りつけ、その手からは血が流れた。
「うっ!!」
そして痛みに思わず声を出した。私は自分から流れる血に視線をうつした。
自分の不甲斐なさを壁にぶつけるとは……。
そして何も現状は変わっていないことに気づいた。イザベラは戻らず、私から離れて行った。
結局私には……最後まで何もできなかったのか……。
その瞬間私の中で全てが崩れた音がした。
――私は考えることをやめた。
そうだ。イザベラは無事に屋敷に戻れただろうか。
その途端イザベラのことが心配になり、無意識に彼女の後を追っていた。
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