第10話 それから……




 それから数ヶ月後。ついに、孤児院は完成した。

 本来なら数年は掛かるところをお父様が裏で手をまわしてくれたらしく、予定よりも随分早くできたようだった。


 お父様……何をしたのかしら?


 孤児院が完成した時は、お父様とクラウド様も駆けつけてくれた。アル様は来られなかったが、クラウド様がアル様からの約束の品を運んで下さった。


 そしてクラウド様やお父様が、子供たちの服やベットやテーブルなど生活用品をプレゼントしてくれたおかげで孤児院は見違えるような立派な施設になった。

 元々、院長はかなり綺麗好きな人だったらしく、施設はどこも磨きあげられ、いつお邪魔しても美しく保たれていた。


 野菜は順調に育ち、子供たちのお腹を満たしてくれているようで前より皆、健康的な体つきになっていた。

 果物などを収益にできるのはもう少し先になりそうだ。


 そして、子どもたちも随分と変わった。

 オリバーはたった数ヵ月で、読み書き計算をマスターしてしまった。

 しかも! オリバーの将来の夢は私の執事になることらしい。彼ならきっとなれると思う。

 それにオリバーのおかげで、今では、孤児院の多くの子供たちが、本を読み、計算が出来るようになった。


 12、13歳の子たちも読み書き計算を覚えたおかげで、無事に職を見つけたが、暫くは手伝いのために孤児院から職場に通い生活費を援助してくれるらしい。2、3年はお世話になった孤児院に生活費を援助してくれるそうだ。


 院長が言うには、こんな風に孤児院から育った子たちが協力してくれるだけでも大変助かるそうだ。

 私と、クラウド様は時間を見つけては、孤児院の子供たちに剣を教えたり、文字を教えたり、畑を見に行った。

 なんとクラウド様が子供たちに剣の基礎を教えたおかげで、元々剣の才能のあった子供たちは頭角を表している。剣の基本も代々伝えていってくれるそうだ。

 数年後に騎士試験を受けるのを目標にしている子もいる。

 クラウド様はここから未来の騎士の仲間ができることを楽しみにしている。


 そして、私は孤児院の立て直しに尽力したことで、国王陛下からお褒めのお言葉を頂いた。

 実はこの孤児院は今、国内だけではなく国外からも多くの注目を浴びているらしい。各領や各国からの視察要請を受けており、近隣の国から我が国への評価が大きく上がったとの報告を受けた。

 私はそのため、各国の使節団の方にあいさつをしたり、孤児院の紹介をしたりで目が回るほど忙しかったのだ。

 貴族は大抵、学園を卒業するまでに婚約者を選ばなければならない。例外なのは、騎士と文官くらいだ。

 彼らは任務などもあるので、婚約に縛られない。自由なタイミングで婚約者を選べるのだ。

 私は騎士でも文官でもないので、卒業式までに婚約者を決める必要があった。そして卒業式の後の卒業舞踏会は、皆その婚約者と出席するのが慣例なのだ。

 この舞踏会には生徒だけではなく、保護者も来るのでパートナーのお披露目の場としては丁度よかったのだ。


 だが私は、婚約者を決める時間が取れず、卒業式ギリギリになってしまったのだ。

 婚約者の選定は前と同じようにお父様にお任せしたので、私は誰なのか知らない。



 ――そして迎えた卒業式当日。


 私は久しぶりにドレスアップした。苦しいコルセットも、重い頭もどこか懐かしい。

 だが食事をバランスよくとり、毎日動き回り健康的になったからか、前よりも身体が軽く、ドレスもあまりつらいとは思わなかった。

 肌艶も良くなり、髪の艶やかになったおかげで以前よりドレス姿も美しく見えた。


「お嬢様!! とてもお綺麗ですわ!!」


 侍女が嬉しそうに褒めてくれた。


「ありがとう。いってくるわ」

「はい。いってらっしゃいませ」


 私は背筋を伸ばし、お父様の選んで下さった婚約者の待つエントランスへと向かった。



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