第9話 孤児院再生プロジェクト始動(6)


 その日の夕方ようやく畑が完成した。

 荒地だった場所に、畑と果樹園になるスペースが生まれた。

 私たちは畑に野菜の苗を植えた。こちらは食料になる野菜を選んだ。ジャガイモや人参などの根菜類や葉物野菜などをバランスよく植えた。


 果樹園スペースには自分たちで食べる分というより、売るための果物として、リンゴや栗やクルミなど高額で買い取ってもらえたり、保存ができる物を選んで植えた。

 特にリンゴはジャムなどに加工さすために、新しく立てる孤児院の炊事場スペースは広くする予定だ。


 これで、子供たちの食べる分は確保できそうね。


「私、明日から毎日、草抜きと水やりするね!!」

「あ、僕もします!!」

「私だって!!」


 苗を植え終わると、子供たちは一回り成長したように見えた。ジンは院長と子供たちに畑の手入れの説明をした。


 私は院長にオリバーに読み書き計算を教え、皆に伝える役目を任せたことを告げた。すると、院長も「彼なら適任でしょう」と言って、オリバーを私の屋敷に連れて行くことを承諾してくれた。

 庭師のジンと執事長とオリバーは別の馬車に乗って屋敷に戻った。

 私とクラウド様とアル様は三人で馬車に乗っていた。

 私は馬車の中で、ニ人に頭を下げた。


「本日は手伝って頂き、本当にありがとうございました。おかげで、子供たちの心からの笑顔が見れました」


 するとクラウド様が微笑んだ。


「そうだな。イザベラ嬢の笑顔も見れたしな。やはりイザベラ嬢は笑っていた方がいいな」

「え? それは……その…ありがとうございます」


 私が思わず顔を赤くしていると、アル様がクラウド様の肩をドンドンと叩いた。

 クラウド様は困った顔で笑った。


「はは。どうやら私はアルのセリフを奪ってしまったようだ」


 私はアル様を見て思わず笑ってしまった。


「ふふふ。アル様もありがとうございます」


 すると、アル様がピクリとも動かなくなった。その様子を見ていたクラウド様が突然笑い出した。


「あはは。いや~イザベラ嬢助かった。これで明日からアルは元気に仕事に戻ると思う」


 すると、アル様が急いでクラウド様を見た。そして話すのをやめるように口の前で『×』を作っているが、クラウド様は構うことなく話を続けた。


「最近のアルは、生きてるんだか死んでるんだか…。仕事は手につかずに失敗ばかり、食も細くなるし、顔もクマだらけ。酷いものだったんだ」

「………」


 私はそれを聞いて胸が痛くなった。そしてクラウド様が私の顔を見て微笑んだ。


「だが……子供たちやイザベラ嬢の笑顔を見て普段のアルに戻れるはずだ」


 私がアル様の方を見ると、アル様は大きく頷いた。すると丁度馬車が屋敷に着いたようだった。

 クラウド様が私を見て言った。


「イザベラ嬢、最後にアルに笑いかけてくれないか?」

「え?」

「頼む」

「はい」


 私はアル様の正面に座ると、微笑んだ。


「今日はありがとうございました。とても素敵な畑が出来ました。どうか、お元気で」


 すると、また甲冑の中ですすり泣く声が聞こえた。アル様は私の両手を取ると何度も頷いた。

 そして私は去りゆく馬車に向かって呟いた。


「ありがとうございました……」


 もう馬車は見えなくなったというのに私はその場から動けなかった。目からは涙がとめどなく流れてきた。


 あなたを愛せたことが私の誇りです……それは生涯変わりません。

 どうか……お元気で――。


 私は今日だけは思い切り泣こうと決めた。

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