第7話 孤児院再生プロジェクト始動(4)




 次の日。私はエントランスで目を白黒させてしまった。


 え? 何?? なんなの??


 馬車の前にはクラウド様と共に甲冑を来た男性が立っていた。


「おはよう! イザベラ嬢」


 私は甲冑の男性に視線を向け、そしてクラウド様を見た。


「おはようございます。クラウド様。あの……この方は?」


 すると、クラウド様が困ったように言った。


「イザベラ嬢の孤児院の立て直しの話をしたら興味を持ってな。

 今日は……え~名前は……アールも護衛として同行する」

「アール?それともアル様ですか?」


 私が尋ねると、クラウド様が視線を泳がせた。


「え? アル? あ~、え~。(アールだと割とそのままだな)そうだアルだ!! アルは口はきかないが気にしないでくれ」

「は、はい」


 私はクラウド様とその謎のアル様と共に馬車に乗って孤児院に向かった。

 馬車の中はなんともいえない気まずい空気だった。

 ちなみに執事長と庭師のジンは別の馬車ですでに向かっていた。

 

 ◇


 畑と孤児院の立て直しの話をすると院長に手を握られ、何度も「ありがとうございました」と言われ涙を流されてしまった。

 孤児院にはほとんど物がないそうで、3日後には建て替え作業に移れることになった。その間、子供たちと院長はここからすぐの空き家を3件借りて生活することになるそうだ。

 そして私たちは話し合いの後、大きな子供たちを連れて、孤児院裏の空地にやってきた。私は腕まくりをして、大きな声を出した。


「さぁ!! みんなここに畑を作るわよ!!」

「え?」

「自分たちの畑??」

「すごい!!」


 子供たちは嬉しそうにはしゃいでいた。

 庭師のジンが日焼けした顔でにっこりと笑った。


「うん!! 川も近いし、土もいい。お嬢様。ここはいい土地ですねぇ~~腕がなります!!」


 ジンは一通り説明を始めた。

 説明が終わると子供達は鍬を持って、耕し始めた。だが、まだ荒れた土地を耕すのは大変そうだった。

 そこで庭師のジンが楽しそうに鍬を持った。


「いや~きれいなお庭を保つのも、もちろん楽しいですがね。新しく土地を耕すってのもロマンなんですよ」


 するとクラウド様も鍬を持った。


「ふむ。その気持ち、わかる気がするな」


 そして、ジンと共に畑を耕しだした。


「え? クラウド様も手伝ってくれるんですか?」

「当たり前だ。それに畑を自分たちで作るというのは私も楽しみだ!」


 すると、甲冑を着たアル様も鍬を持った。


「あの!! 甲冑で耕すのはさすがに大変ではないですか?」


 アル様は手の平を立てて横に振ると、今度はその手を握り、自分の胸を叩いた。


「え~、『大丈夫!任せて!』ってことかしら?」


 すると、アル様は指で『〇』を作った。私はその姿に思わず笑ってしまった。


「ふふふ。ありがとうございます。無理しないで下さいね」


 すると、甲冑の中からすすり泣く声が聞こえた。


「(夢みたいだ……イザベラが笑った……)」


 何か声が聞こえた気がしたが、甲冑で何もわからなかった。


「あの……アル様?」


 私がもう一度声をかけると、アル様は鍬を握ると、鍬を片手で持ち上げて、持ってない方の腕を曲げた。


「『畑を耕すのを頑張ります』ですか?」


 アル様がまた指で『〇』を作った。

 そして、凄い勢いで畑を耕し出した。

 『ザク、ザク、ザク』

 庭師のジンが軽快に鍬で土を耕していく。

『ザクッ、ザクッ、ザクッ』

 クラウド様も、力ずよく鍬で土を耕していく。


 そして――。


 『ザクッシュカシャン、ザクッシュカシャン、ザクッシュカシャン』

 アル様が甲冑の金属音を響かせながら動きにくそうに見えるが、確実に土を耕していく。

 荒地が三人によってみるみる耕されていく景色は壮観……だった。




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