第5話 孤児院再生プロジェクト始動(2)
私が胸を痛めていると、奥から長身でまだ若い男性が出てきた。
「ようこそおいで下さいました。私がこちらの院長です」
出迎えてくれたこの孤児院の院長は明らかに栄養不足という出で立ちだった。院長も今にも倒れてしまいそうなほど栄養が足りていなかった。
私は背筋を正し、院長に尋ねた。
「あの失礼ですが……この施設の運営資金は?」
私たちのような高位貴族が孤児院や病院や学校などを訪問する場合、その施設が適切かを判断する義務がある。それが例え私のような小娘であったとしてもだ。
つまりこの訪問は公爵代理としてこの施設が適切かを判断する公の役割があるのだ。それを承知しているのか、院長もすんなりと口を開いた。
「はい。年に一度、貴族バザーで出た収益を使っております」
私は首を傾げた。貴族バザーには高価なドレスや宝石だけではなく、著名な画家の作品なども出品されているのだ。売上は孤児院や教会や病院に分配されるが、かなりの額なはずだ。
「……貴族バザーの収益でもこの状況ですか?」
すると横からクラウド様が耳に口を寄せた。
「貴族バザーの収益は大半がバザーを担当した貴族に経費として支払われるんだ」
「そんな!!」
私はクラウド様を見ると、困った顔をした。
「まぁ、変えたい風習ではあるんだが……中々な……」
「そうですか……」
私は院長を見た。
「他には?」
「そうですね。近所の方の好意で余った野菜や、冒険者さんの好意で買い取りのできない薬草などをもらうこともあります。ここから巣立っていった子がたまに何かを持って来てくれることはありますが、ここを出て働いている子もその日暮らしの子が多いのでなかなか……」
私は思わず頭を抱えた。
え?! それって、つまり運任せってことじゃない!! そこをなんとかしなきゃ~~!!
私は孤児院を隅から隅まで見て回った。
◇
孤児院には0歳から11歳までの子供が20人以上も生活していた。ここはこれだけの人数が生活するには狭すぎる。元々は何かの工場だったらしく、生活スペースが見た目ほど多くはなかった。
工場だったスペースにベットを置いているので、冬は寒いし、外とほぼ変わらない。冬になると体調を崩す子も多いらしい。
職員は4人ほどいる。
職員というか…12、13歳のこどもで働き口の見つからなかった子供はこの孤児院のお手伝いとして無給で置いて貰っているらしい。孤児院を出てもなかなか職に付くのは難しいらしい。最近では文字や計算ができないと働くのも大変と院長が言っていた。
せめて文字と計算が出来れば……。
だがここには本もなければ黒板もない。数字を覚えられそうな物も何もなかった。
本は高額だし。本を買うなら今日食べるパンを買うわよね……。ん~なんとかならないかしら……? 貴族である私がここに入り浸るのは、周りの住人が嫌がるでしょうし……。
私は子供たちへ読み書き計算を教えるにはどうすればいいのかを考えていた。
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