第3話 久しぶりの日常



私はドレスからゆったりとしたワンピースに着替えた。もしかしたら普段着もドレスのように苦しかったらどうしよう、と思っていたので、楽な服でほっとしていた。

ドレスを脱ぐと、身体中の力が抜けてお腹が空いてきた。


「お腹空いたな~~~」


 私はぼんやりと呟いた。ふと、私の腕を見ると、骨と皮しかない。


(イザベラ……痩せすぎ……)


 足だって折れそうだし、体力もない。イザベラはずっと座って王妃教育を受けていた。運動と言えば、ダンスくらいだが、すでに踊れるイザベラは別のことに時間を取り、全く動いていなかった。


 私は鏡を見た。頬はこけて、艶もハリもない。


(これはちょっと……まずいでしょ?!)


 イザベラの身体を心配していると、『ぐぅ~~』と盛大にお腹の虫がなった。


「とにかく、何か食べたい」


 丁度その時、食事の時間になったようで、私はわくわくしながら食事に向かった。


 ◇


 (え? これだけ?)


 私は思わず、食事を運んできた侍女の顔を見た。


「……イザベラ様? どうされました?」

「あ、いえ……」


 お皿を見ると、スープと皿には一口大の野菜が数種類凝った様子で並べられた。


(こんなのすぐお腹空くよ~~)


 するとお父様が溜息を付いた。


「また、それだけなのか? イザベラ……久しぶりの食事だ。今日くらいは、私と同じ物を食べないか? 全て食べる必要はないから……。それではいつか倒れてしまう」


(うん! うん!! それが出来るなら私もそれがいい)


「はい。料理の準備ができるのなら……私も同じ物を……」


 すると部屋の執事を始め、部屋中の侍女たちも驚いて目を丸くした。言ったお父様本人も驚いていた。


「問題ありません。早速ご準備致します。お嬢様!!」


 執事が颯爽と答えた。そしてすぐさま、私のテーブルにお父様と同じ物が置かれた。


「(これが婚約破棄の影響か……予想はしていたが…凄まじいな…)」


 お父様が何かを呟いたがよく聞こえなかった。

 結局私は出された料理を綺麗に食べた。


「お嬢様、食後のデザートはどうされますか?」


 私は口を拭きながら言った。


「お願いします」


 すると、また皆が驚いた!! そしてお父様が大声を上げた。


「お前がデザートなどを口にするのは何年ぶりだろうか!!」


 そして、お父様は涙を流し出した。


「これならば、私はお前と共に食事ができる!! イザベラ!! 明日からは毎日私と共に食事をしよう!!」


(……なるほど。お父様は食事を我慢してる私の前でごはんを食べるのがつらかったんだ。それで屋敷で食べなかったんだ……。気づかなかったけど…迷惑かけてたんだな~)


「はい! お父様!!」


私は笑って返事をした。

その後、デザートまで食べ終わり、私はお父様に尋ねた。


「何か私ができる公務のお手伝いはありませんか?」


 私はもう王妃教育もなければ、顔繋ぎのためのお茶会もない。学園は長期休暇中なので時間があったのだ。それに、忙しくしていた方が色々考えずにすんでいいと思えたのだ。

 お父様は「ん~」と考え、口を開いた。


「では、私の代理で孤児院を訪問してくれ」

「孤児院ですか。はい」


 そして、お父様は穏やかに笑った。


「孤児院までは馬車で移動だし、あまり歩きまわることはないが、程よく身体を動かせるだろう」


 どうやらお父様は私が屋敷に籠っているよりも子供たちと会う方がいいと判断し、この公務を選んでくれたようだ。


(ありがとうございます、お父様)


 私はお父様の気遣いに心から感謝した。


「ふふふ。はい、では早速行って参ります」

「ああ。連絡は入れておく」

「お願い致します」


 こうして、私はお父様の代理で孤児院に行くことになったのだった。




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