第6話

「どういうこと……?」


目の前に広がるその光景に僕は呆然としていた。


「どうしてクヴァリスが……」


スフィアも驚いた表情で、その光景を見ていた。

地球には竜はいないし、そもそも魔物がいるわけない。


その事はスフィアに説明している。


じゃあここが地球じゃなくて別の世界で、転移に失敗?


でも、それだと僕の家があることがおかしくなるからここは間違いなく地球だ。


ああもう!分からなくなってきた!


「主、焦っておられる気持ちは分かりますが落ち着いてください」


頭を抱える僕に、スフィアが声をかける。スフィアは冷静に見える。


でも、一緒に生活していた仲だ。動揺はしているみたいだ。

僕を落ち着かせるために声をかけてくれたんだ。


そうだよ。僕が今ここで焦ってどうするんだ?雪音を探すと決めたんだ。

こんなことで焦ったらダメだ。


「はあぁぁああ」


大きく深呼吸をする。


「スフィア。取り乱してごめんね」

「いえ、いつもの主に戻りましたね」

「クヴァリスがなんで地球ここにいるのかは分からないけど、あれは危険だし、倒しに行こう」

「分かりました」


僕らはビルから飛び降りる。


僕らの身体能力をもってすれば、ビルの屋上から飛び降りたところで怪我はしない。


地面にヒビが入ったけど……。


見たかったことにしよ。


僕は走ってクヴァリスの方へ向かう。


「近くに複数の魔力を感知しました。クヴァリスと交戦しているのかもしれません」

「それなら急がないと!」


僕は一撃で倒すことができるけど、相手は異世界あっちではSSランクの魔物だ。


クヴァリスと戦ってる人達の強さは分からないけど、勝てるかどうかは分からない。


「っ!クヴァリスが私たちに気付いたようです」


スフィアの言葉通り、クヴァリスが僕らの方を向いた。


「ギヤァァォァ!!」


口を大きく開けたクヴァリスが咆哮を放ってきた。


竜の咆哮は受けた人間の動きを止める。


まぁ、僕らには効かないんだけどね。


数秒咆哮を放ってきたが、効かないと分かると、クヴァリスは大きな翼を広げた。


「何する気?」

「分かりません!主、注意してください!」


バサッバサッ………


クヴァリスはそのままどこかへ飛んでいってしまった。


「え?」

「……どうやら、咆哮が効かなかったことに気付き、撤退したのかと思います」

「魔物にそんな知性なんてあったっけ?」

「クヴァリスはSSランクの魔物です。それに竜種は知性があるので、逃げるという選択ができたのでしょう」


そうなんだ。


「なぁ、まさかお前は天雷か?」


ふと後ろを振り返ると、ボサボサの茶髪で眼鏡をかけている少年がいた。


僕の名前を知ってる……?


この声。そして僕と同じくらいの身長。眼鏡。眼鏡?ぁあ!


「もしかして神谷康介かみやこうすけくん?」

「そうだよ!久しぶりだな」


康介くんは中学生の時に一緒のクラスで、帰り道がおんなじだから頻繁に一緒に帰ったりしてた。


まさか、こんなところで会えるとは思ってなかった。


「それよりも、大丈夫か?竜に何もされなかったか?」

「うん、どこかへ飛んでいってしまったし。それよりもどうしてここに康介くんが?」

「いや、俺だけじゃないんだ。おーい!天雷が生きてたぞ!」


康介くんが大声を出す。


すると、集まってくるように、数人の少年少女が向かってきた。


あれ?みんなどこかで見たことある気がする。


「天雷くんだ!生きてたの!?」

「君は?」

「あ、ごめんなさい!私は同じクラスだった村田妃乃むらたひなのだよ」

「あ、委員長?」

「そう!覚えてくれたんだね」

「うん。なんとか」

「じゃあ俺は分かるか?」

「ごめん、覚えてない」

「まぁ、そうだよな。俺は小森唯斗こもりゆいと。いちおう同じクラスだったんだ」

「あ、そうなの?ごめんね忘れてて。でももう覚えたよ」


僕のところに集まってきた少年少女は皆僕のクラスメイトだった。


しばらく、軽い自己紹介をしていた。


すると突然、意識を切り替えるように康介くんが言う。


「村田、死者は?」

「いないよ!」

「よし、とりあえずデパートに戻ろうぜ」

「うん!みんなもいい?」

『ああ!』

「じゃあ先に行っててくれ!俺は天雷と向かうから」

「OK!先に行っとくぞ」


僕と康介くん。そしてスフィアを残し、皆は走ってどこかへ行ってしまった。


「先に行かせてよかったの?」

「あぁ。行先は分かってるしな。それよりも、天雷、お前は今までどこにいたんだ?それに、その子は誰なんだ?」


これを聞くためにみんなを先に行かせたのかもしれない。


康介くんはボサボサの髪と眼鏡のせいで、眠そうな見た目をしている。


でも、康介くんは頭が良い。

それに、周りを見て行動もできるし、何より信用してる。


彼になら僕のことを話してもいいかもしれない。


でもその前に。


「僕が何をしていたのかは話すと長くなるから先に僕の質問に答えてほしいんだ」

「そうなのか?わかった」

「どうも、僕の常識と皆の常識が違うみたいなんだよ。それで僕が居なくなってからの3年間で何があったのか知りたいんだ」


そう問いかけると、康介くんくんは不思議そうな顔をした。


「何言ってんだ天雷?こうなったのは1年前・・・だぞ?」


1年前!?

ということは異世界での3年はここでは1年になる?


「じ、じゃあ1年前に何が起こったの?」


僕がそう問いかけると、康介くんは真剣な表情で言った。


「世界が変わってしまったんだ。ラノベとかによくあった魔物が地球で確認されるようになってしまったんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る