第3話

………………………………

「時間が分からない」


僕はリビングに戻り、ソファに座るスフィアの隣に座った。


「時間……ですか?」

「うん。今が何年の何月なのかが分からないんだ」


僕が異世界あっちにいた時間は3年ぐらい。

普通なら3年経っているはずだから、確認のためにテレビを見ようとしたのにこのザマだよ。


「御家族の方が帰られた際にお聞きすれば良いのでは?」

「スフィアには家族のことを何も言ってなかったんだったね」


僕はスフィアを連れて和室に向かった。


「これは……?」


和室は木造住宅には珍しいらしく、ある家庭も少ないそうだ(僕は知らない)。

僕の家にある和室の広さは6畳ほどだ。


その端の方には仏壇が置いてあり、男性と女性の写真が飾られていた。


スフィアは……いや、異世界あっちは神を信仰することはもちろんある。


聖女がいたくらいだから……でも、仏教のように、仏壇が置いてある訳では無いからスフィアが驚くのも分かる。


でも、写真を見て察したみたいだ。


「主……まさか」

「うん、スフィアの考えている通りだよ。僕の両親は亡くなっているんだ」

「すみませんでした。思い出したくない記憶でしたよね」

「いや、別に良いんだ。それに、今まで何も話してなかったからかな……少し僕の家族について話すよ」


スフィアは黙って頷いた。


「何から話そうかな……まずは僕の家族構成からかな。僕は父さんと母さん、そして妹の4人暮らしだったんだよ」

「妹さんもいらっしゃるのですか?」

「義妹だけどね。再婚してるんだよ、僕が小学生……7歳くらいの時にね」


小学生と言ったけど、スフィアは分からない。分かるわけがないよね。異世界には学校がなかったんだから。


「まぁ、4人暮らしだったんだけど僕が召喚される少し前に父さんと母さんが事故で亡くなっているんだ」


交通事故だった。


僕と妹は小学校の学校行事か何かで家にいなかったことを理由に、共働きの2人が日帰りで旅行に行ってた時に、玉突き事故にあった。


「僕と義妹の2人だけになったんだ」


その時のことは今でも思い出す。


警察官が家にやってきて両親が亡くなったことを静かに告げた。


もちろん、最初は信じなかったけど家に帰ってきた両親に会って実感したんだ。


真っ白になった顔、固く、冷たくなった手……顔面に傷はなかったから最初は眠っているように見えたけど、何度呼びかけても返事はなかった。


「でも、不思議と涙は出てこなかったんだよ。隣で義妹は泣いているのに」


その涙を見ていると、義妹だけは守ってみせると誓ったんだ。


「でも直ぐに異世界に召喚されたって訳だけどね……」

「……」

「……スフィア!?な、泣かせる気はなかったんだよ!!」


スフィアは途中からボロボロと涙を流していた。


「主がお強い理由がやっと分かりました。そのような理由があったからなのですね」


スフィアは泣いてそう言う。


「ま、まぁ、とりあえずこの話はもう終わりにしようか。今はそれどころじゃないし」


お茶を濁すように僕は話を中断させる。


「えぇ。取り乱して申し訳ございません」

「いや、別に良いんだけど……じゃあまずは外に出よう」


電気のことはひとまず置いておく。


…………………………………


僕はスフィアと外に出ると、しばらく歩いてみた。


数十分ほど歩いてあることに気づいた。


「スフィア」

「はい。私も察しています」

「僕らの周囲に人の気配は?」

「半径100メートル圏内に人の気配はありません」

「範囲を200メートルだったら?」

「やはり人の気配がありません」


やっぱりおかしい。


普通なら誰かがいると思う。

でも、誰もいない。


「スフィア、ちょっと来て」


僕はスフィアを連れて近くにあった家の中に入る。


「ここも電気がつかない」


電気代を払ってなかったとずっと思っていたけど、実は違った。



この場所一帯の電気が通っていないんだ。


「これは、本当に今現在の状況確認を優先しないとダメみたいだ」


僕はそう結論付けた。

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