第2話

帰還先がまさかのトイレという締まらない終わり方だったけど、無事に誰にも見つかることがなくトイレを出ることができた。


トイレに男女がいるとなると、僕が社会的に抹殺される。


しかも男子トイレだったし……スフィアも、見た目は小、中学生にしか見えない。


傍から見ればそれは、高校生が小学生を男子トイレに連れ込んでいる……絵面的にアウトだ。


そこからの僕の行動は速い。


スフィアと速やかにトイレから出ると、現在地を確認した。


転移先がトイレだったのは予想外だったが、自分の家の近くの公園のトイレだったため、全速力で家に帰った。


「ここが主の生まれ育った住居なのですね!」


スフィアが珍しく興奮していた。まぁ、異世界あっちは石造りの家がほとんどだったもんなぁ。

僕の家は小さい木造住宅だ。

スフィアが驚くのも無理はないな。


だけど今の僕は、誰にも見つからずに家に帰りついたことに感動していた。


ほんとに見つかったらどうしようと思ったよ!

それに………


「もうちょっと感動的に帰りたかった」


僕が想像していたのは、


『やっと帰ってきたんだ……やっぱり家が一番だな』


とかくさいことを言ってリビングのソファーに座ってゆっくりする……そのつもりだった。


それを転移の失敗で尽く潰されるというのは中々精神的に辛い。


でも、転移先が家の近くだったことだけは幸いかな。


一歩間違えたら南極とか熱帯地方に飛んでいてもおかしくなかったからね。


「外にいても仕方ないし家に入ろうか」


僕はスフィアと共に家の中に入った。


とりあえず、考えてたようにリビングに向かう。


リビングと言ってもテレビと机、そしてソファがあるだけのシンプルな部屋だ。


だけどスフィアには驚くものが多かったようで、テレビを震える指で触っていた。

可愛いな。


僕の視線に気付くとハッとした表情で直ぐに無表情になった。


そんな彼女を後目に、僕はソファに座ると全体重を預けた。


疲れたり考え事とかしてた時はいつもこれに座ってたからな……懐かしい。

やっと帰ってきたって実感できた。


「スフィアもおいでよ」


何故かソファの後ろに立っていたスフィアに声をかける。


スフィアは恐る恐るといった感じで僕の隣に座った。


「ほぇぇ。すごく柔らかい」


その表情と呟きに僕も自然と笑みがこぼれる。


気に入ってもらえてるようだ。


さて……。


「それは?」


僕が持っているのはテレビのリモコンだ。しかし、異世界にはないためスフィアは初めて目にするものだ。


「見てたら分かるよ」


僕はそう言って電源ボタンを押す。


カチッカチッ……しーん。


「??」

「あるじ?」


カチッカチッカチッカチッカチッ


テレビはつかない。


「いやいやまさか」


僕はソファから立ち上がるとリビングの電気を付けるためにスイッチに近づく。


パチッパチッ……しーん。


「いやいや、ブレーカーが落ちてるだけだな!」


最後の希望ブレーカーの元へ向かう。

確かキッチンの近くにあった記憶が……あった!


確かこれを上に上げるんだっけ?

パチッ……しーん。


「電気が通ってない!!」


僕は膝から崩れ落ちた。


魔王に攻撃されても、魔人に袋叩きにされかけても魔神に瀕死の状態まで追い詰められても決して諦めず立ち上がっていた僕は、電気代未払いの前に呆気なく敗北となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る